Cherry coke days:番外編





 年長組の部屋では、真ん中に小十郎を置いての話し合いになってしまっていた。

「しっかし、数日前までぐだぐだ云っていたのになぁ。収まるようになっちまってんだもん」
「すまんな…長曾我部」

 がしがし、とみかんアイスを齧りながら元親がベッドの上に長い脚を放り投げている。その傍らの応接セットに座りながら、小十郎は頬杖をついていた。

「それよりもッ!明日もう帰っちゃうんだよね…はぁ」
「何を溜息を付いておるのだ」

 佐助が深く肩を落としながら溜息を付いていくのを見逃さず、元就が二本目のみかんアイスに手を伸ばして聞いていく。中々袋を破けないで居ると、横から元親が取り上げ、ばり、と拡げて返す。

「あんたらは良いさ。元親と元就はさぁ、一緒だったからッ!片倉先生はこれからだから論外でしょ?俺様よ、俺様!折角旦那と良い感じなのにさ〜」

 ――殆ど一緒に居なかったんだよ?

 この悶々としたのをどうしたらいいの、と手を戦慄かせて佐助が叫ぶ。年少組は毎夜のごとくお菓子を持ち込んで語らっているのだと、幸村が楽しそうに話していた。
 だが此方はそうでもない――既に互いのペースを解りきっている元親と元就は、それぞれに勉強したり、本を読んだり、持ってきていたゲームをしたりと、勝手に動く。元々他人に振り回されるのが面倒な性分の佐助も、それなりに楽しんではいたが、折角恋人が一緒に来ているのに、何の進展もないのだ。

「あのよぅ、俺、聞いてみたかったんだけど」
「何?」

 顔に手を当てて泣きまねをする佐助に、元親が食べきったアイスの棒を齧りながら問うた。

「佐助、お前どっちなの?」
「は?」
「やってんの?やられてんの?」

 ――ぶほッ。

 途端に横で聞いていた小十郎がコーヒーを盛大に吹く。ぼたぼたと顎先を濡らしながら、固まっている姿に、とてとてと元就が近づいてティッシュを差し出していた。

「汚ねぇな、片倉さんよぅ」
「おおおおおお前ら、高校生の癖に…」
「高校生だってやるのに変わりねぇよ。片倉さんだって、童貞卒業したの何時だよ?」
「あ…――それもそうか」
「ぎゃあッ!そこ、納得しないでよッ」

 アイスの棒を軽く動かしながら元親が話すと、ふむ、と小十郎は唸った。此処にもし政宗が居たら固まってしまっていただろう。
 佐助が辛うじて耳を両手で塞いでいる。
 応接セットのソファーのもう一つに、すとん、と元就が腰を落ち着けて、今度は近くに置いてあったオレンジに手を伸ばしていた。
 ふわり、と辺りにオレンジのすがすがしい香りが広がる。
 だがその香りに絆されることなく、元親は脚で佐助を小突いた。

「どうしても知りたいわけ?」
「――あたり前だ。前によ、風呂場で襲った、って話は聞いたけど、お前だと自分から乗りそうだからよ」
「――ぐほッ」

 再び小十郎がコーヒーを噴出す。そして「最近の高校生は…」と毒づいていた。

「いいから、片倉さんよ、この話終わるまで呑むなよ。食ってろ」
「云われなくてもそうするさ」

 げほげほ、と咽ながら小十郎はティッシュを取り出していく。それを見送ってから
佐助は「俺様が抱いている」と軽く応えた。

「だって考えてみてよ。可愛いでしょ、うちの旦那ッ」
「まあなぁ…そかそか。だから思い悩んでたのか」
「は?」
「あいつ、佐助が好きだけど…って思い悩んでたぞ」
「何、相談されたの?」

 身を乗り出してくる佐助に、元親はみかんアイスを薦めた。それを受け取って、ぺりぺり、と袋を突き破り、佐助がアイスに噛り付いた。

「見てれば解るけどな。もっと近づくにはどうしたら良い?って。告白して、身体くっつけて、でもそれ以上に踏み込むにはどうしたらいい?ってさ」
「――旦那…」

 ――なんて可愛いのさ。

 くう、と感じ入ってる彼を他所に、元就がぽつりと口にした。

「だが、いちゃつくのは人目に付かないところでしろ」
「うん?」

 軽く顔を起した佐助に、元就が冷ややかな視線を送る。小十郎はとりあえず水分を取ることを諦め、目の前に広げられていた乾き物のチーズ鱈を口に入れていく。

「キス、してただろ?」
「あ、見てた?」

 へら、と佐助が顔を緩く笑ませて言う。悪びれた風体は一切ない。小十郎はとりあえずのところ、回りを見回してから、おい、と声をかけた。

「どうでもいいが、相手を泣かすような事はするなよ」

 しん、と三人が黙った。だが直ぐに噴出すように笑いながら、元親が指を指してくる。

「アンタが云うな、あんたが!」
「全くだよ」
「ふむ…確かにな」

 佐助も元就も、ははは、と笑いながら告げてくる。説得力は無かったようだが、皆それぞれに今を楽しんでいる。小十郎は肩身の狭い思いをしながら、高校生の彼らの話に耳を傾けていった。






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