Cherry coke days 新学期が始まると、慌ただしく時間が過ぎていった。あっという間に修学旅行も終わり、明後日には文化祭が開かれるという時期になってしまっている。 ――ああ〜、空高ぇなぁ。 政宗は口にロリポップを咥えながら、空を仰いだ。辺りでは、とんとん、と金槌の音が響いたり、ばたばたと走り回っている音が聞こえる。中庭に面した廊下の――その外側に座り込んでサボっている訳だが、中の喧騒に戻る気にはなれなかった。 ――片倉にメール…しても良いよな? ふと思いついてジャージのポケットから携帯を取り出す。そしてカメラで空を撮ると、そのままメッセージを書き始めた。 「まぁさぁむぅぅぅねぇぇぇぇ?」 「――――っ!!!」 ぬっと頭上から名前を呼ぶ声が聞こえる。びく、と肩を揺らして見上げると、其処には慶次が廊下から顔を出している処だった。 「何サボってんのさ、政宗」 「ブレイク、ブレイク!」 ひょい、と飴を見せると、慶次が辺りをきょろきょろと見回してから、ひらり、と窓から飛び出してきた。そして、すとん、と政宗の隣に座ると「俺にも頂戴」と手を差し出してくる。 「ほらよ」 「わぁい」 紺色の――いや、蒼いジャージのポケットから取り出して渡すと、慶次は飴を手にして包装を外していく。 「何か、生暖かいね。政宗、飴ちゃん温めてたの?」 「――食うなっ!」 「もう遅いよ〜」 ぱくん、と飴を口に入れて慶次がからかってくる。政宗も慶次も二年生なのでジャージは青色だ。因みに三年は緑、一年は臙脂――その色分けされた姿を見ると、一番蒼が無難に思える。 ――ちりん。 メールをかこかこ打っていると携帯につけたストラップが音を立てる。ストラップについた御守に、小さな鈴がついているのだ。 「それさぁ…」 「ah〜?何だよ」 「片倉センセとおそろいでしょ?」 「――気付いてたか?」 「勿論。で、最近はどうよ〜?」 「どうも何も…夏にデートしてから、すぐ修学旅行だったし…学校で会えるから」 「だーかーらっ!なんでそう疎いかなぁッッ!!」 ばん、と慶次が政宗の背中を叩いた。ぐほ、と咽ると政宗はぎろりと慶次を睨みつける。しかし慶次は構わずに口に入れた飴を取り出して、政宗の目の前でぶんぶんと振って見せた。 「付き合い始めたからって安心しちゃ駄目でしょ?此処から、もっと好きになってもらわなきゃ」 「そんな事言ったって…」 「なんでそんなに奥手なんだよぅ」 がくぅ、と項垂れる慶次が腕を伸ばして肩に掛けてくる。そして耳元で「此処だけの話だけどな」と声を潜めた。 「俺、上杉センセの家に下宿してんじゃん?」 「――てか、上杉センセの管理する、じゃねぇの?」 「細かいことはいいの。毎日、かすがちゃんなんて迎えに来るんだぜ?健気だなぁ、恋だなぁ、って思う訳よ。それなのに、お前ときたらどうだよ?昼飯時くらいだろ?あと電話とメール?」 ――こんなに近場に居て、遠距離恋愛してんなよな。 慶次はどんどん呆れ声を出していく。だがそんな事を言われても、どう動いたら良いのかなんて解らない。 ――付き合う前の方が、勢いに任せて突っ走れた。 そんな気がしてならない。 だがこれ以上近くに行ってしまうと、どんどん深みに嵌ってしまうような気もして仕方ない。政宗は手にもっていたロリポップを、ぱくん、と口に入れると足を伸ばした。 「だってさ、俺…片倉と此れからどうなりたいとか、想像すると…」 「すると?」 「……――ッ」 かああ、と首元から真っ赤になってきてしまう。その反応を眼にして慶次が、ぽかんと口を開いた。 「すっげ、初心……政宗、お前大丈夫か?」 「だ、大丈夫…だと思う」 「あの幸村でさえも、佐助とやれてんだよ?」 「わあああああああ、そういう事言うなッ!」 ――ばちんッ 腕を振り上げた瞬間、思い切り慶次の頬に平手が打ち込まれる。そんなことまで想像したくない。政宗が足をばたばた動かして体育座りをすると、慶次は叩かれた頬に手を当てて「痛いなぁ、もう」と呟いていった。 「くぅおぉぉおらぁぁぁぁ、何油売ってんだよッ!」 「ヒッ!」 不意に低い声が頭上から迫ってきて、政宗と慶次は振り仰いだ。すると、にしし、と歯を見せながら――肩には木材を抱えた元親が覗き込んで来ていた。 白いシャツに、緑ジャージを腰に巻いて、額にはタオルだ。 「元親ちゃんッ!精が出るねぇ」 「慶次、政宗、お前ら、何やってんの?」 「見れば解るだろ?サボり」 ――いる? 政宗が三本目のロリポップを差し出すと、元親は「両手が塞がってるから」と顔だけ差し出してきた。腰をあげて包装を解いて、とん、と元親の口に飴を突っ込む。 「甘ぇぇぇ〜、幸せぇぇぇ〜」 「元親たちのクラス、何やるんだ?」 政宗が外から小首を傾げて聞くと、元親は「喫茶店?」と疑問符をつけて言った。すると慶次も腰をあげて立ち上がる。 「多分、喫茶店でよかったと思うんだよな?佐助と俺、ウェイターだったと思うし」 「毛利さんは?違うクラスだったよね?」 慶次が聞くと、元親は唸った。 「教えてくれねぇんだよ、あいつらのクラス。竹中が嬉しそうにほくそ笑んでたから、なんか企んでるんじゃねぇかな?」 政宗と慶次が窓枠に腕をついて「へぇ」と関心していると、政宗のポケットから携帯がバイブ音を響かせ始めていった。 → 56 2009.12.15./20100307 ニ学期開幕! |