Oasis 中々眼を覚まさない元親を肩に抱きかかえて歩く。浜辺では見通しが良すぎる為に、直ぐに敵に捕まってしまうだろう。 ――この場から、一刻も早く隠れねばならぬ。 焦りが募りながらも――彼の身体が元就と比較すると、かなり大きい。その証拠に、彼の足元は先程から引き摺っているようなものだった。 元就は足が重くなってくるのも厭わず、足元を見つめながら前へと進んでいった。 はあはあ、と息が切れて仕方ない。だがそれでも足を進めていく。 ――棄てていけば、楽になれるだろう。 自分ひとり逃げ延びれば良いだけのこと、今まではそうしても然程心も何も動きはしなかった。だが、今それをしてしまうのは躊躇われた。その事に疑問が微かに過ぎっていく。元就は、こく、と渇いた咽喉に潤いを落とした。 ――違う。ただ、こ奴がまだ使えるからだ。 詳しく考えている場合ではない。身体が彼を助けたいと訴えた――それに任せただけだ。理由などこの時には必要ない。 元就は前に進みこむと、其処に馬が居ることに気付いた。これは助かったとばかりに、手綱を手にして乗り上げる。繋がれて動けなくなっていたようだった。 ――誰の馬か知らぬが、拝借する。 背に元親を乗せてから、ひらりと馬に跨る。そして元就は、くん、と潮の香りを嗅ぎながら――その中に火薬の匂いを嗅ぎつけて、馬を蹴っていった。 ――だだ、だだ、だだ… 馬の蹄の音が規則正しく響く。背に乗せた元親の身体が傾かないように、片腕を自分の肩にかけて前で腕を握りこんでいた。 通り抜ける木立の合間から炎が見える。戦渦に巻き込まれた町々、村々が視界に入り――びりり、と厭な気持ちが胸から沸き起こってくる。 達者の侵略を許す自分ではない筈だ――この報復はしなくてはならないだろう。その算段を脳裏に描きながら、元就は手綱を手繰った。 ――この分だと、邸に着くころには… 「う…――」 背後で微かに揺らぐ気配がした。だが元就はスピードを緩めなかった。 「気付いたか…?」 「俺…、な…――馬?」 「まだ呆けているようだな」 ふるふる、と頭を振る気配がする。重心が後ろに戻ったことで、多少馬の足が揺らいだが、元就は構わなかった。すると背後から腕が伸びてきて元就の手綱に掛かる。 「すまねぇ…手間、掛けさせたな」 「然程ではない。それよりも…」 「ああ、戦況思わしくねぇな」 直ぐにこの状況を把握した元親が、元就の肩に顎先を乗せてから、前方へと視線を傾ける。そして徐に両腕を強く――手綱ごと彼の腕に絡め取られた。 「何をするか、この…――」 「――――…ッ」 ――どん。 ぐっと強く背中に衝撃が走る。何事かと振り仰ぐと、元親が元就を抱き締めて「捕まってろ」と一言言った。そしてにやりと右口角を吊り上げる。 ――ぎりり。 その歯噛みする音が何の為だったのか――それに気付いて居たのなら、なんとしても此処で彼から手綱を振り切っていた筈だった――だがそれは後のこと、元就の手の上から手綱を引き寄せ、元親が自分の胸に元就を抱え込んで馬の腹を蹴った。 「一気に行くぜ、毛利…ッ」 元就が口を開く前に、元親は上半身を折り曲げていく。そして馬を強く蹴りこんで、加速していった。 →3 091216/100925 up |