Pierce



3話・どうして?



 絡めた舌先がねっとりと熱を伝えてくる。触れたと思った瞬間、こじ開けるようにして口を割られ、中に舌先が滑り込んできた。咥内を圧迫するかのように押し寄せる熱さに、幸村が酸素を求めて顔を反らす。だがそれを佐助は赦さずに追随してくる。

「ん…ッ、ふ」
「旦那、もっと口あけて」

 指で口の端を広げるように開かれる。たらたらと飲み込みきれなかった唾液が零れ、苦しさだけが押し寄せてきた。それでも逃げようとすると後頭部を押さえ込まれて引き寄せられてしまう。ぐちゅ、と濡れた音が淫靡な音を立て始めていく。

「ん、んん――ッ」

 絡まりあう舌先に、かつん、と金属の感触が過ぎった。ねっとりとした舌の後に、現実に引き戻すかのような金属の感触が――佐助の咥内の熱をより強く蓄えたそれが、口蓋を擽り出す。

 ――かちん。

 歯と、彼の舌ピアスが音を立てる。強い快楽に足元ががくがくと揺れてくるのに――直ぐ其処にベッドがあるのに、抱き締められて座り込むことさえも出来ない。足が膝から落ちそうになって、がくん、と崩れ始めると佐助は腰に腕を回して、おっと、と引き上げた。

「かちかち言ってるけど、熱いでしょ?」
 ――コレ。

 べ、と舌を差し出して誇示される。予想外の快感に涙で視界が歪んだ。

 ――こんなのは初めてだ。

 決して経験が多い訳ではないが、こんなキスはした事がない。今まで仄かにしてきた口付けが全て紛い物であったかのように、脳髄までもが痺れてしまいそうだった。言葉を発しようにも、舌も、唇も痺れてしまってどうにもならない。

「あ…ぁ、っく…」
「痺れてもう舌出してんの?は…真田先生って見かけによらず…」

 先程まで幸村の口の中に入れていた指を、ぺろ、と佐助は舐めながら意外なものでも観るように告げてきた。

「先生ってさ…経験、薄い方なの?それとも全くの童貞?」
「なッ…――さ、…ッ」

 聞かれた侮辱の言葉に、かあ、と怒りが上る。腕を振り上げようとして――弛緩する身体では大した力も出ない――佐助に腕を絡め取られた。片腕が急に臀部に触れて、ぐい、と割り開くように動く。ぞく、と背中が揺れ、幸村はかたかたと震え始めた。

「でもこっちは処女で居てくれたほうが俺様的には嬉しいかな」
「な…――ッ」
「ま、処女も童貞も面倒なんだけどね。でも…」

 ――他の男の味なんて知ってほしくないし。

 くつくつと厭な笑い声を咽喉から絞り出しながら佐助は揶揄うてくる。片腕を引き寄せられて彼の首に引っ掛けられる。もう片方はバランスが悪くて、腕にしがみ付くだけで精一杯だった。すると器用にも佐助は幸村の胸元に顔を埋め始めた。口で、しゅる、とネクタイの解き目を解いたかと思うと、そのまま鎖骨辺りに吐息が触れてきた。

「あ…な、に…――ッ」

 不意に肌が外気に触れる――揺すりあげながら佐助は幸村の首筋に舌先を這わせた。その合間にも片手でシャツのボタンを外される。むき出しになった肌に――腕の辺りにシャツと白衣が蟠って、まるで腕を拘束されているかのようで、幸村はどうにかして彼の腕の中から逃げたくて仕方なかった。
 しかし佐助は、ちら、と幸村を胸元から見上げてから、すん、と鼻を鳴らして肌の上に頬を寄せた。ふわりと彼の肌が胸元に触れてきて、こそばゆい。幸村が首を竦めていくとぐいぐいと身体を押し込んでくる。そして胸元に、ふ、と息を吹きかけられた。

「此処は?」
「ふ…ッ」
「こんな小さい処でもさ、感じるんだよ」
「な、んで…」

 彼の吹きかけた息だけで、小さな胸の突起が刺激に震える。そんな自分の反応に驚きながら、佐助の身体を引き剥がそうと腕を動かした。

「あんたここ弄ったことないの?」

 ぺろ、と尖らせた舌が、乳首の周りを――形を浮き彫りにするように、くるくると動く。肝心なところには触れずに、周りだけを舐められて、もどかしくて堪らない。幸村がきゅっと唇を噛み締めながら、首を竦めて――震える身体を押し隠してると、きゅう、と吸い上げられた。

「ひ…――ッ、ィ、あッ」

 中々形を持たずに埋もれていた其処を、舌先のピアスが引きずり出すように蠢く。散々嬲られて、ピアスが当たっただけでも、こつん、と形が解るほどに勃ちあがると、おまけとばかりにねっとりと押し潰すように舐め上げられた。

「可愛い乳首〜。色薄いねぇ」
「や、あ――……ハァ…ッ」

 自分でそんなのを比較したこともない。だが桜色に色付いていた胸元が、彼の愛撫で濡れて赤く膨れ上がっているのを観ると、羞恥で胸が張り裂けそうになっていく。幸村は顔を背けて、滲んでくる視界を何度も瞬きして押し込めていった。

 ――何で、こんな…

 こんな辱めは初めてだ。幸村は泣きたいくらいの羞恥と戦いながら、ふ、ふ、と荒く呼吸を繰り返していく。だがそうしている内にぐっと身体を持ち上げられた。突然のことで思わず彼の頭を腕で抱え込むと、彼は数歩歩いて幸村をおろした。

「こっちが本命」
「――っ」

 下ろされた先にベッドがある。腰掛けさせられて、はっと気付くと彼はそのまま身体を屈ませてきた。

 ――ジジ…

 耳にやたらと響いたジッパーの音に、びくん、と身体が跳ねる。彼の手を止めようと抱え込んでいた腕を振り解くが、既にひやりとした外気の感触が肌に滑り込んできた。

「や、やめろッ」
「髪、むしらないでよ?」

 見上げてきた佐助の瞳が、しっとりと眇められる。止める間もなく、彼は中から幸村の陰茎を引きずり出した。躊躇いなど微塵も感じさせずに彼は口にそれを引き入れる。

「――…ッア」

 ――じゅ、じゅる…

「う、ぐ…ッ、ん、んん――ッ」

 たっぷりと湿らせたかのように、唾液が音を立てていく。熱い咥内に引き入れられ、敏感な部分を執拗に刺激されて、身体から力が抜けていく。

「此れ、どう…?気持ちいい?」
「――ッッ」

 浮き出た筋にむかって彼の舌のピアスが、つつ、と辿っていく。こり、と時折硬い感触が当たって、腰が揺れてしまう。それが恥ずかしくて逃げようとするのに、がっちりと腰を掴まれて逃げられない――そして気付けば彼の髪に手を絡めて、必死になっている自身がいる。

「イイ…んだよね?真っ赤。可愛いね、センセ」

 くすくすと笑いながら佐助は身体を起こしてくる。だが手元では先の割れ目を指の腹で、ぐりぐりと弄られる。

 ――頭が、沸騰しそう。

「ん――ッ、ッ、ッ、」

 幸村は身体を起こしてきた佐助から逃げるように身を反らすと、後方にばたんと倒れこんだ。足だけはベッドの縁に下ろし、上体だけがベッドに乗っている。すると肩上から押さえられ、すい、と腕に彼の腕が滑ってくる。指先が、ゆるゆる、と動いて幸村の指に絡まった。

「――――…?」

 ゆったりとした動きに、はふはふ、と胸を上下に動かして見つめていると、つう、と涙が零れてきた。それを拭うこともせずに横を向いていると、幸村の上に影が降りてくる。

「足上げて」
「うわッ」

 低く言われた途端に、ずる、と下穿きを全て引き下げられる。抜き取るようにして片足を持ち上げられた。驚いて彼を見上げると、視線が幸村の腹の辺りに向っている。

「片足だけ上げると、結構見えるね」
「な…ッ」
「ほら」
「ひぁ、…――ッ!」

 ぐ、と足を持ち上げられて、再び彼の頭が下肢に向った。ぐい、と腰を持ち上げられて、奥に存在していた陰嚢までも触れられる。

 ――じゅぷ、じゅ、じゅるる

 耳に響くのは淫猥な音ばかりだ。自分の口から漏れ出る嬌声も聞くに堪えない。幸村は羞恥と情けなさとが入り混じって、硬く歯を噛み締めた。それでも咽喉の奥からは何度も摩擦音が零れていく。
 手で口元を押さえて、抱え上げられている腰はそのままに、顔を横に背けて快楽に耐え続けていく。

「ん、ンン…――っ、ンッ」

 足を横にして持ち上げた佐助は、執拗に奥まで舐めていく。舐めるだけではなく、指先と一緒にピアスが余計に刺激を与えてくる。

「先生、気持ちいい?」
「――…ッ」
「いいよね、先生のココ、こんなに涎垂らしてさ。奥のココだって結構良いんでしょ?」

 陰嚢と後孔の間に舌先を何度もこすりつけて佐助が掠れた声を出す。びくびく、と背が跳ねるたびに、頬を伝って涙が零れる。汗が滲んだ肌に、彼の髪の感触が触れて余計にどうしようもなくなっていく。
 ずくずくと下肢が重さを増して痺れてくる。幸村は何も考えられなくなる直前まで、彼の指と舌先に昂ぶらされていった。すると急に佐助の動きがとまった。
 はあ、はあ、と荒い呼吸を繰り返し、やっと口から手を離して、涙で濡れた視界を戻そうと瞬きを繰り返していると、膝に佐助の手が乗せられた。

「開いて」
「――…?」
「足、開いて」

 何だろうかと首を巡らせる。すると頬を紅潮させて、此方を熱っぽく見つめてきている彼の視線とぶつかった。

「え…っ、な、んで…」
「いいから開けよ」

 ぐ、と膝を割って足を押し広げられる。狭い男性の骨盤だ――足の付け根に痛みが走り、幸村が咽喉を反らした。だがそれよりも直ぐに、強烈な圧迫感が襲ってくる。

「う…ぁあっ、ああッ!」
「きつ……力、抜けって…ッ」
「い…っぐ、ぅ、ぅう…」

 腕を伸ばして縋りつける場所を探す。直ぐに手に触れたのは佐助の肩だった。其処をしきりに強く握りこむと、めりめりと厭な音を立てながら後孔に熱いものが捻じ込まれてきた。

「あ…ッ、うッ……――ッ」
「動くから、爪立ててもいいから」

 ――しがみ付いて。

 自棄に優しく今度は囁かれる。こくこくと頷きながらも、ぼろぼろと涙が零れて止まらない。下肢が自分のものではないかのように痛みを訴えてくる。

 ――痛い、熱い、苦しい。

 幸村が両腕を彼の首に回すと、今度は信じられないような快楽が待ち構えていた。ぐちゅぐちゅと濡れた音を立てて抜き挿しされる間、彼は何度も耳元に、好きだ、と告げてきていた。だが幸村は一度も――彼の名を呼ぶことも出来ずに、ただ喘ぐだけだった。






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