no reason : past 謀反が発覚した後の惨状は酷いものだった。 内通が露見し、主はそのまま姿を消した。だが主君の怒りは大きく、内々に攻めろという――いわば強奪を赦したようなものだった。 佐助は丁度、主家に仕えていた――と言っても、それは正式に仕えたという訳ではなく、留め置かれたようなものだった。 本来の主は、時が来るまで預け置く、とだけ伝え、呼び戻されるを待ちながら佐助はその家に従うだけだった。 ――だからってこんな略奪まで忍の仕事にされちゃ適わないな。 半ば呆れ返りつつ、悲鳴の響く屋敷を練り歩いた。がたがたと大きな音がしたかと思うと下女の髪を引っ張っている男が眼に映った。 ――下品なんだよなぁ。 やることは同じ、と思って欲しくもない――強奪、略奪、そんな言葉の裏に忍の存在を向けられることに胸焼けがする。 しかし主が「お前も楽しんで来い」と苦虫を潰したようなにやけ顔をして言ったのに、従わないわけは無い。 ――甚く、ご立腹だったもんなぁ。 苦渋を舐めさせられた顔に、其れを嘲笑うにやけ顔――それが、どれだけおぞましいものかと、佐助は胸が焼ける思いで眺めてきた。 ――俺はとりあえず、こいつらが羽目を外しすぎないようにするだけかな〜。 屋敷の中を練り歩きながら、既に細君と娘達は保護したと確認する。娘といってもまだ年端もいかない姫だ。だが中には物好きもいる――先手を打って保護しなくてはならないと、佐助はそちらに気を向けていた。 「粗方いいかな、とりあえずあんたら、奥方とお子様達を主の元へ。俺様、あの馬鹿たちをおさめてくるわ」 ひらひらと手を振りながら、従軍の将に彼らを預けた。万が一を起さないようにと、自分の配下に付けられている忍を一人同行させる。 まだ夜も空けきらない暗闇の中で、ただ悲鳴だけが響き渡るのは、なんともおぞましいものだった。 佐助は奥へと足を進めていった。流石にまだ奥まではまだ誰も踏み込んで来ていないようだった。 ――がらっ。 ひとつの部屋の戸を開け放つ。すると其処に人影があり、佐助は一瞬息を飲んだ。それというのも、気配を感じられなかったからだ。 佐助の立っている戸に背を向け、長い髪を流している――身体つきは華奢に見えているが、まったくの子どもという訳でもない。 「へぇ…逃げ出さなかったの?」 思わず声をかけると、目の前の人物はぴくりと動いた。ゆっくりと振り返るが、顔までは判別できない。佐助は後ろ手で戸を閉めた。 「逃げ出さないってことは…覚悟してんだ?」 足音をわざと立てて近づく。大抵これくらいの足音ならば、威嚇にも近い。その音で逃げ出すだろうと思っていた。しかし動く気配は無い。 佐助は背後から手を伸ばし、肩を掴んだ。そして自分の胸元に勢いよく引き寄せると、袴の帯に手を引っ掛けた。 ――ぐっ。 力を篭めて結び目を振り解く。するとやっと抵抗らしい抵抗が返ってきたが、動きを封じるようにして引き寄せた身体を床の上に押し倒した。 「――…ッ」 「敵に足を開く気分はどう?」 背に触れる床の感触に眉根を寄せたのを見詰めながら、上に乗りかかる。そのまま足の間に身体を滑り込ませて、片足を持ち上げるようにして撫で上げた。 「――…ッ」 ぶわ、と組み敷いた相手が顔を赤らめる。それもその筈で、耳に囁いた言葉は挑発的なものだったし、撫で上げていく手の動きはこの先を示唆するようなものだった。 だが足の付け根から上に撫で上げてから動きを止めたのは佐助のほうだった。 「って、あんた男…?」 「――…ッ」 「うっわ、ハズレかよ。ったく」 はあ、と溜息を零してから身体を退ける。 元々その気は無かったし、単なる脅しのつもりだった。他の奴らと同等にはなりたくないと、そう思っていたのに、もし彼が女だったらどうだったろうか。 ――中てられたか。 自分の頭を冷やす為に溜息を何度もつく。そして片膝を立てたままで、寝転んだままの彼に手を伸ばした。 「――?」 彼は小首を傾げるだけで起き上がろうとしない。佐助は手を一度だけ上下に動かした。 「ん」 「――…」 「起きなよ…何時までも寝ていたいの?誰かに上から刺されるかもよ」 「それもまた運命であろう…」 空虚に響いた声は、まだ変声期の途中で擦れてしまっていた。上手く発声できないのがありありと解り、佐助は余計に溜息を付いた。 「声、出しずらいんでしょ?だから黙ってたのか」 こく、と小さく動かされた頭に、納得してしまう。佐助は膝を寄せて彼を上から覗きこんだ。 閉じられた瞼に長い睫毛が、ほんのりと影を落としている。今夜は満月だ――外からの明かりがほんのりと見て取れる。 佐助は何かに導かれるようにして、そっと手を彼の頬に伸ばした。それと同時に瞼が押し開かれ、黒い瞳がじっと佐助の方へと向けられる。 「――…ッ」 びく、と肩を揺らしたのは自分のほうだった。彼の瞳は強く、吸い込まれるかと思った。それだけでなく、猛獣に睨みつけられたかのように身が竦んだ。 ――バタンッ! 背後の閉じたはずの戸が勢い良く開け放たれる。 「まだ居やがったか…ッ!っと、これはこれは…」 ずかずかと足音を立ててきて男が血眼になっている。だが佐助の姿に気付いて後ずさった。佐助は彼らに背を向けたまま腕に小柄な人物を抱き締めている。 衣の先からは長い髪が見える。 「へ…へへへ、あんたもお楽しみの最中って訳ですかい。なら後で俺たちにも…」 「ふざけた事言うんじゃねぇよ」 「――…ッ」 「殺されたくなかったら出てけ」 衣の先から、ずりずりと白い足が動いているのが見える。男はそれを凝視したまま、ごくりと咽喉を鳴らした。 ――ヒュッ。 いつ佐助が動いたか解らない。空を切る音が聞えたかと思うと、男の髻が解けた。 「ひぃ…ッ」 「聞えなかった?」 「――…ッ」 「消えろ」 佐助の声は冷酷そのものだった。男とその後ろに居た男たちもばたばたと表の方へと逃げていく。再び閉じられた戸の先で足音が遠のくのを感じてから、佐助は抱きとめている彼に眉根を寄せた。 「――…ッ、いい加減、噛む力を弱めてくれない?」 咄嗟に引き寄せて奴らから護ってしまった。だが口を塞いだ瞬間に、思い切り手に噛みつかれてしまった。見下ろすとじわりと血が滲んでいる。 ――凄い力…。 中々外してくれないが、噛み千切られるくらいに力が篭められていく。佐助は思わず手を上げていた。 ――バシッ。 鈍い音と共に彼の歯が手から外れる。観れば手には歯型に――くっきりと痣と傷ができており、じわじわと血が滲んできていた。 「あんた、自分の立場解ってる?」 告げる言葉に刺が無かったとは言い切れない。 「聞えるだろ、悲鳴がさ…敗将の館なんてこんなものさ」 佐助は強く彼の肩を掴むと、床に貼り付けるようにして押さえつけた。持っていた苦無を取り出し、彼の目線で弄ぶ。 「男共は殺され女達は陵辱されても文句は言えない」 ――ダンッ。 勢い良く苦無を床に打ち付けた。案の定、彼は驚いたように瞳を大きく見開いて、圧し掛かってくる佐助を見上げている。 「よく観ておけよ」 袖を彼の腕に巻きつけ、動きを封じながら苦無で貼り付ける。容易に袖を抜けないようにしてしまえば、後は自由な四肢が其処にあるだけだ。 佐助は驚愕に見開かれた彼の瞳を見詰めたまま、掌を動かして彼の胸元を下降させていった。触れる手の感触を追う様にして彼が視線を動かす。動揺が見て取れるが佐助は止める事無く、彼の胸元に手を這わせた。 「――ッ、ん」 するすると動かしながら、まだ未発達な身体に育ち始めている筋肉に触れる。このまま鍛え続けたら数年後には見事な体躯になるだろうと予想できた。 だがまだ子どもの香りも残している――柔らかさのある肌の表面に触れていきながら、小さな突起に辿り着く。指の腹で、くに、と持ち上げてみていると、ふわ、と周りの肌が粟立った。 「ったく、仕方ないな…あんた、こういうの初めてなんだろ?」 擽ったさに身を捩る姿に、未経験の感覚を与えているのだと気付く。だとするのならば、この少年は一体どんな理由でこの屋敷に居たのだろうか。 ――息子達は共に逃げているというし、他に考えられるのは稚児なんだけど。 疑問はさておき、組み敷いた相手がまだ生娘のごとく誰にも犯されていないのだと気付くと、一瞬思案するだけの間が出来た。 しかしそれを埋め尽くすように、肌を粟立てた本人は唇を噛み締めつつ、声を絞り出した。 「俺は…捨て置かれた者だ。武器を取り上げられ、あわよくば此処で野たれ死ねと…」 「だから?」 「…だから、どうされようと…歯を噛み締めることしか」 がらがらの声で、それでも佐助の耳に届くだけの音質をもって話される。同情する気が起きないでもない――しかし、この時世だ。よくあることと切り捨てられるのも頷ける。 佐助は一度瞑目すると、再び手を動かし始めた。 魔がさした、としか言いようが無い。 ともすると吸い込まれてしまいそうな瞳を間近で見詰めながら、顔を彼の胸の小さな突起に向ける。ちろ、と舌先で小さな突起に触れされると、びく、と胸が跳ねた。 そのまま、強く口の中に引きこむようにして、舌をねっとりと動かしていく。 「他の奴らに輪姦されるよりマシだと思いな。命までは取らないからさ」 佐助の唾液で濡れたそこに、ふ、と息を吐きかけながら言う。すると足元がもぞもぞと動いていくのが解った。 だがまだ未経験の肌は中々、快楽をそれとは感じきれていないようで、佐助は執拗に胸元を愛撫し続けた。 「――…ッ、ん、んん」 「くすぐったい?」 舌先で舐りながら指先で摘みあげる。くすぐったさに身を捩っているのだと解るが、彼に教え込ませたくて続けた。 「くすぐったいなら、あんた素質あるよ」 「――?」 「すぐに…感じるようになる」 くす、と口の中で嘲笑う。すると彼は意外なことを言われたとばかりに、顔を徐々に赤らめていった。歯を噛み締めて、薄い唇が今にも張り裂けそうになっていた。其処に指先を添えると、ふ、と力が抜ける。 「あんまり強く噛んだら駄目だって。血を見るよ」 「――…っぁ」 「どうせ、掠れた声しか出ないんだから、出しな」 薄く指を噛ませると、口が開かれる。指先をそのまま彼の口の中に押し込めて舌先をいじりながら、んく、んく、と赤子のように咽喉を動かされる。 「はは…舌なんて噛み切らないでよ?」 指先に絡まる舌の熱さと、ぬるりとした粘着質な感触に、佐助は彼の口元に唇を寄せた。 どちらとも無く息を詰め、唇と唇が触れ合いそうになった瞬間、佐助はするりとそれを背けて、首元に顔を埋めた。 甘い、香の香りが鼻につく。だがそれが今の彼の匂いなのだろうと思うと、もっと嗅いで居たくなった。だがそんな事を思うこと自体が有り得ない。佐助は彼の首元に顔を埋めたままで囁いた。 「口吸いしたら、あんた舌噛み切りそうだね。口ではご奉仕してくれなくていいから、楽しませて?」 揶揄を篭めて言う自分に、どうかしているとしか思えなかった。こんな場面で相手に手を出すこと自体、自分の今までの人生でも信じられないことだ。 だがどうしてもこの時は、手を出さずには居られなかった。 →next 20110503SCC up/120323up |