Cheer!cafe



 ――嫌だったら、無理強いしない。

 そんな風に紳士的に言って幸村をバスルームに送った。一応着替えを置いてから、ソファーベッドに戻って寝る準備をしておく。

 ――あんな風に言ったけれど、本当は今すぐにでも掻き抱きたい。

 はあ、と溜息を付いて両手で顔を覆う。意識していたのは幸村だけではないのだ。むしろ幸村を知りはじめてからと云うもの、触れたくて仕方なかった。

 ――本気で啼かせたいくらいなんだけど、初めてだろうしなぁ。

 そりゃ男同士で初めてじゃない方がショックを受けるかも知れない。不意にそんな考えに至って、ぶんぶんと首を振った。

「どんな感じなんだろう…」

 ばふん、と背後の布団の上に倒れこみながら掌を天井に向けた。それを握りこんでから、ごろりと身体の向きを横にして、テレビのリモコンを手にする。落ち着かない気持のままに、佐助は瞼を落としていった。

 ――かたん。

 ふとした物音に目を覚ましてから、テレビ番組が変わっていることに気付いた。

 ――やべ、寝ちゃってたよ。

 身体を起こした時に、ソファーベッドがぎしりと軋んだ音を立てた。軽く頭を振ってから人の気配に気付いて視線を廊下側に向けた。
 その場に立っていたのは湯上りの幸村だ――しかも彼は肌を湯によって染めたまま、其処に立っている。腰にはバスタオルが引っ掛けられているが、その姿にくらりと眩暈がしそうだった。

 ――何も着なくていいから。

 そんな風に揶揄をこめて言ったのも事実だ。しかしそれを真に受けたとも考えられず、佐助は確認をこめて訊ねた。

「――ッ、旦那、着替え出してたんだけど…」
「あ…それは、解ってる。けど…」

 ――もしかして。

 もじ、と肘を抱くようにして抱えて幸村が視線を反らす。一度伏せた瞼が、ゆらりと押し上げられ、今度は佐助に向って彼はひたひたと歩いてきた。

「待たせたか?」
「ん、ん〜…そんな事ないけど」

 目の前に来た幸村に、手を伸ばせば直ぐにでも届く。だが其処に立っている彼の気持を聞いていない――嫌なら止めるとも言った。それを覆すつもりはなかった。だから幸村の決意はどうなったのか、それを知る必要がある。
 まるで最後の審判だ、とさえ思ってしまうくらいに、佐助は緊張しながら幸村の返答を待った。じっと見下ろしてくる幸村から視線を離せない。手元を組んで祈りたい気持だったが、そうも出来ずにただ彼の答えを待った。

「佐助…」

 ぎし、と幸村が片膝をソファーベッドに乗り上げさせてきた。ぽた、と小さな雫が彼の肩から振り落ちて、佐助の胸元に弾けた。

 ――ぎゅう。

 まるでスローモーションだった。幸村の腕が動いて、自分に覆いかぶさるようにして迫ってきたかと思うと、幸村の腕が背に回って胸元がぴったりと合わさる。
 むき出しの肌と肌が触れて、互いの肌の熱さを伝えてくる。それだけなのに、しっとりとしてくるような――吸い付いてくるような感が否めず、佐助は余計に眩暈を覚えた。
 其れなのに決定的だったのは、幸村の一言――抱き着いてきた幸村の背に手を這わせ、確かに彼が此処に居るのだと気付いた瞬間、耳元にしっかりと響いた一言があった。

「お前のものにしてくれ」
「――…ッ」

 びくん、と身体が揺れた。それと同時に一気に身体中の血液が沸騰したんじゃないかと思うくらいに、佐助は気付いたら幸村の唇を塞いでいた。

「ん……ッ、ふ…――ッ」

 膝立ちになりながら乗り上げてきている幸村を抱き締め、咽喉を仰のかせて口づける。角度を変えるたびに逃げを打ちそうになる幸村の背を引き寄せ、片腕で膝立ちになっている足の内側を撫でた。

「んッ!」

 幸村がびくびくと背を撓らせる。そのまま離れていきそうになるのを引き寄せ、ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い付いた。

「あ、っ、ん…――っ」
「旦那ぁ、口、もう少し開いて」

 微かに閉じかけた唇をこじ開けるようにして舌先を捻じ込む。口腔内に入ってしまえば、ちゅる、と佐助の舌を向かえるように幸村の舌先が絡まってきた。
 口蓋を擦りながら、くるりと歯列をなぞる。すると幸村の手が――佐助の肩に回っていた手が、ぶるぶると震えだした。

「は…――っ」

 とろ、と口の端から飲みきれなかった唾液が零れてくる。そのまま落ちるままにしながら、肌をしっとりとさせている幸村の背を、するすると掌で撫で上げていく。口付けは執拗なほどに長く、徐々に舌先が痺れてくる。

 ――どっちの唇か解らなくなってきた。

 流石に佐助もくらりと眩暈を覚え始めると、既に幸村はぼんやりとして、はふはふと呼吸を繰り返している状態だった。

「んん…――っ」

 ――ちゅ、くちゅ。

 絡まる舌先を名残惜しくなりながらも、幸村の口から引き抜く。そのまま下唇をするりと舐めてやると、ん、と小さく彼は咽喉を鳴らしてから、ぼんやりと瞳を見開いた。

「さ…すけ…――っ」
「なぁに?」

 名前を呼ばれながら幸村の背に腕を回して引き寄せる。そのまま身体を反転させてベッドの上に仰向けにさせると、そっとタオルの合わせ目に手を掛けた。

 ――ぎっ。

 佐助が幸村の身体を挟んで膝をベッドに乗せると、スプリングが鈍く軋んだ。幸村を下に敷きこみながら、彼の顔の横に手を着くと、幸村が手を絡めてきた。

「いや…その、お前、本当に俺が相手で良いのか?」
「旦那さ、解ってないよね」
「え…――」

 掴まれたままの手で、自分の方へとむける。彼の指先を握って、手の甲から唇を這わせていくと「あわわ」と幸村が場にそぐわないような声を上げた。

「俺はあんたがずっと欲しかったの。他に誰を相手に選ぶってのよ」
「――…ッ」

 ぴく、と幸村の身体が揺れる。そしてゆるゆると佐助に向って視線を向けてくる。言葉にしてみると、どうしてか胸が締め付けられるように苦しくなってきた。同時に視界も涙で潤みそうになってくる。

「ずっと、ずっと…待ってたんだからね」
「ぁ…っ、ふっ」

 指先に唇をつけて食んでみると、幸村が驚いたように吐息を漏らした。

「旦那と初めて話したとき、俺、本当に脚が震えるくらい緊張したんだから」
「そぅ…なのか?」

 ぱちぱちと瞬きを何度も繰り返してから幸村が見上げてくる。彼の瞳が酸欠も相まって涙に濡れているのが、きらきらとしていて綺麗だと思った。佐助は幸村の額にかかる髪を撫で上げてから、にっこりと彼に笑いかけた。

「うん。大好き」
「――…ッ」
「大好きだよ、幸村」

 もう一度口にしてみる。すると何故か、ぽろ、と目頭から涙が零れた。だけどそれを拭う気にもなれずにいると、救い上げるようにして幸村の指が涙を拭っていった。

「俺も…好きだ」

 幸村の手が零れ落ちる佐助の涙を掬い取っていく。そして背に回ってきて強く引き寄せられてからは、後は互いの肌の感触を感じ入るだけだった。










 幸村の肌がしっとりと濡れ、佐助の肌に吸い付いてくる。首筋から舌先を這わせたり、甘噛みを繰り返して、指先で彼の胸の突起を摘み上げた。

「ここさ、もう感じる?」
「え…っ、あ、ちょ…ッ」

 きゅう、と上に引き上げるようにすると「んっ」と幸村が唇を閉じる。声が聴きたくて、何度も其処を指の腹で摺り上げ、捏ねるようにして押し潰す。
 徐々に硬さを伴ってくる場所に唇を寄せて、軽く食んで引っ張り上げた。

「ぁ、んッ!」

 幸村が急に高い声を上げ、その声に気づいて見上げると本人も驚いたのか、瞳をぱちぱちと動かしてから、かぁ、と頬を赤らめていった。

 ――ちゅ、ちゅく。

 佐助は彼の変化を楽しく思いながらも、唇で食んだほうの乳首を舌先で舐り出す。舌先で押し上げるようにして小さな突起を転がしていると、幸村の肌が徐々に熱くなってきた。

「硬くなってる…男だってさ、此処感じるんだよね」
「や、ぁう……ッ、ッ」

 ふ、と濡れた其処に息を吹きかける。それだけで幸村は顔に腕を持っていき、隠そうとしていた。その腕を外しながら唇を寄せる。

「声、殺さないで」
「だ…――って、ぇ……ッ」

 ――恥ずかしい。

 えぐ、と泣きそうな声を立てる幸村を宥めるようにして何度も額や頬に口づける。すると彼は、ふー、と息を吐いた。下に敷きこんだ身体が愛しすぎてどうにかなりそうだった。このまま抱き締め続けて、ぴったりと重なってしまえたらとさえ思ってしまう。

「恥ずかしいのはお互い一緒だって」

 ――ほら。

 幸村の手を自分の胸元に誘導させる。そして今佐助が触れていた場所と同じところに彼の指を向わせた。

「解る?俺様だってさ、此処、勃っちゃうの。あんたに触れているって思うだけで、此処とかも勃つくらいに感じてんの」
「ん…ぅ、ぅんッ」
「恥ずかしいのは、同じだよ…」

 こくこくと幸村は頷いた。頷く彼にもう一度、大好き、と告げると佐助は再び彼の胸元に吸い付いていく。ちゅっちゅっ、と音を立てて引き上げるようにして何度も吸い上げると、其処は濡れながら赤くなっていった。
 こりこりと何度も触れていたせいで硬く芯を持った其処は、少し指先で弾くだけで幸村の口から甘い吐息が零れるまでになっていた。

 ――ごそ。

 胸元への愛撫をやめて、そろりと腹から臍にまで舌先を向ける。そしてその先にある彼自身を掌に包み込んだ。流石に其処にくると幸村が上体を起そうとした。

「や、やめ…――ッ、何処を…ッ」
「止めない。旦那…――っ」

 上体を起そうとしている、筋肉の浮いた腹を見詰めてから、ぐ、と強く腹を押す。すると呆気なく幸村は再び背中を布団についた。

 ――かふ。

 彼が布団に沈み込んだのを見計らって、陰茎の先に口を這わせる。じわりと鈴口からは透明な液体が滲み出ていたが、それを舐め取るようにして舌先を捻じ込んだ。

「は、ぁ、はぁ…っ、っ…――ん」

 じゅるる、と先だけを愛撫して吸い上げる。そうしていくと幸村はびくびくと身体を跳ねさせた。徐々に閉じようとする足を押し広がせ、身体を滑り込ませると佐助の肩に足が掛かる。

「旦那…大きくなってんね」
「あ、あぅ…んっ、あ、…――ッ」

 つつ、と浮き出た陰茎の筋を舐め上げる。先を口の中で舐りこんでいる間も、指で竿を上下に動かして愛撫していく。するとじわじわと佐助の咥内に苦味が溢れてくるようだった。

 ――俺、凄いな…旦那の咥えてんだ。

 不意にそんな風に思いながら、彼の足の付け根の窪みに指先を這わせた。

「や…ッ、ああっ!」
「ここ、気持良い?」

 するするとソケイ部を撫でながら佐助は更に、もったりとしている彼の柔玉を掌で転がし始める。すると幸村はまるで痙攣でもしているかのように、足の指までもピンと張ってシーツの上に滑らせた。

「あ…ぅ、も、駄目…――っ、で…――っ」
「うん、出して…」

 ふ、と彼の鈴口に息を吹きかけてから、全てを飲み込むようにして包み込んだ。それと同時に佐助の口腔内に熱く広がるものが放たれた。

「ん…――っ」

 ――…ッ。

 開放の余韻に、ぴくぴく、と微かに揺れる幸村の足の間から、ずるり、と自分の身体を伸ばしてから、ごく、と咽喉を鳴らして全て嚥下する。咽喉に流れる感触に口の中を舌先で嘗め回す。そして佐助は幸村の額を撫でながら身体を伸ばした。

「気持ちよかった?」
「ん……」

 は、は、と小さく息を吐く幸村は、まるで夢見心地のように、とろりと蕩けそうな顔をしていた。

 ――やべぇ…なんでこんなに可愛いんだよ。

 波打つ髪に視線を動かして、幸村の痴態を脳裏から追い払おうとする。しかしどうしてもそんな事は出来ず、ずきずきと腰が重くなってくる。
 ちら、と見ると先ほどとは大きさを変えた彼の陰茎が、彼の放ったもので濡れていて余計に目の毒だった。佐助がそんな風に自分と戦っていると、幸村は首を擡げて、そろりと手を伸ばしてきた。

「佐助も…――」
「タンマ、其れは御免ッ」

 ひた、と幸村の手が佐助の腰に触れていた。その先に延ばされたら、自分が猛っているのがばれてしまう――いや、むしろばれてもいいのだが、触られたら一環の終わりな気がしてならなかった。
 幸村は不思議そうに小首を傾げていた。見上げてくる瞳は汗と涙に濡れて、睫毛までくっきりとしていて愛らしく感じてしまう。

「何で?」
「どうせなら…」

 ――ぐい。

「わっ、あっ、あッ……んッ」

 幸村の問いに答えるようにして彼の片足を持ち上げた。そうすると目の前に隠していた部分までも全て広げられて目に映ってしまう。

 ――ごく。

 思わず幸村の下肢を――陰茎から陰嚢、そしてその奥の後孔までをじっと見つめてしまう。先ほど彼の放った精液と、互いの汗が混じって、臀部まで雫が伝い落ちていく様は淫靡としかいえない。

「さ、佐助…ッ、あまり見るなって…」

 慌てて幸村が掌で股間を隠そうとする。だがそれを阻んでから、佐助は後孔に指先を向けた。

「旦那の中で…」
「――…ッ」

 びくん、と幸村が指先の感触に身体を硬くする。きゅ、と浮き出る腹筋だとか、臀部の硬さから緊張が伝わる。

 ――ぐに。

「ひ…っ、ぅ」

 指先をそのまま彼の後孔に突き入れると、幸村は眼をぎゅっと強く瞑った。だがそんな様子すら煽る要素にしかならない。佐助の首元に汗が、つう、と伝い落ちてくる。

 ――ぐちゅ、ぐに、ぐに。

 指先を一本から二本へと増やす。するとやはり其処は慣れていないだけあって、ぎちぎちと佐助の指を締め付けてきた。

「あ、あぅ…さ、すけ…っ、そこ…」
「どう?中にさ、感じるところあると思うんだけど」

 ――こり。

 幸村の後孔の中――襞を摺り上げるとしこりにぶつかった。それと同時に幸村の身体が、咽喉が、声をなくして弛緩する。

「あ…え?な、何…――?」
「此処だね、旦那、ここが気持いいところみたいだよ」

 ――こり。

「――――っ!」

 幸村の身体が再び弛緩する。その様子を見下ろしながら、佐助は何度も渇いていく咽喉を潤そうと咽喉を鳴らした。

 ――ぬる…。

「あ……?」

 幸村が不意に後孔に触れたものに気付いて瞳を見開いた。可哀相なくらいに胸を弾ませ、足を大きく佐助の前で広げた姿で――そんな自分の姿に羞恥を覚えたのか、幸村はあわあわと口元を動かすと、自分の後孔に当たっているものに視線を向けて口を噤んだ。

「旦那の中で達きたいんだけど…」
「――…っ」
「駄目?」

 佐助がこめかみから汗を流しながら、眉を下げて幸村を見詰めてくる。幸村はそんな佐助の上気した眦や、滴る汗、そして均整の取れた身体をじっと見つめてから、シーツを掴んでいた手を離した。

「いや、その……」
「怖いかな?痛い、かもしれないけど…受け入れてくれる?」
「――…ッ」

 気遣いながらも、ぬるぬる、と何度も後孔の辺りを彼の陰茎が往復していく。熱く濡れた感触にぞわぞわと背筋まで戦慄が上ってきた。そうすると、ぎゅう、と下腹が痺れたようになって身体が熱くなってしまう。
 幸村が這い登ってくる快感に耐えていると、佐助は諦めたように声を沈ませて呟いた。

「嫌なら、今は…」
「――ッ」

 佐助の伏せた瞳を目にした瞬間、幸村は腹筋を使って起き上がっていた。そして勢い良く佐助の首に腕を回すと、ぐっと引き寄せる。

「え…――っ」

 佐助が驚きながら上体を幸村の上に倒すと、幸村は直ぐに足を大きく上に掲げて、彼の陰茎を握りこんだ。

「だん…っ、わ…っ、ちょっと」
「挿れて…――くれ……」
「――…ッ!」

 ぐ、と自分の後孔に彼を向ける。そして間近で瞳を見合わせてから、幸村はキスを強請るように舌先を突き出すと、ぺろ、と佐助の唇を舐めた。

「旦那…?」
「俺とて…、…っ」

 は、は、と小さく息を弾ませながら、幸村は汗にぬれた肌を佐助似押し付けてきた。しっとりと互いの胸元が触れ合って融けてしまいそうだった。

「俺とて、お前を想っているのだ」
「あ…――」
「だから、俺との事で、そんな風に諦めるようなことは何もない」
「旦那…」

 佐助は幸村のことを考えて一歩引くところがあった。其処を踏み込めるのは自分しか出来ない――そんな当たり前のことなのに、ずっと待たせてきた。でも今なら、好きな人が目の前にいるのなら、不安など何も吹き飛ばせる筈だ。

「お前が俺を諦めないでいてくれるなら…俺はずっとお前のものだから」
「うん、ありがとう…旦那」

 向き合って、下肢は触れ合っているままに、唇を重ねる。間近に佐助の柔らかい髪を掻き抱きながら、幸村は彼にしがみ付いていった。

「幸村……」
「ん?」

 佐助が小さく名前を呼んだ。ぐっと大きく足を上に持ち上げられながら、迫る圧迫感に幸村が眉根を寄せて息を吐いた瞬間、佐助は耳朶に甘く囁いた。

「…愛してる」
「――…ッ」

 ――ぐっ。

 その言葉を聞いた瞬間、幸村の四肢を割くような痛みが迫ってきた。それでも息を押し込めながら、ただ彼の熱さを――熱を受け入れる為に、幸村はただ佐助の背にしがみ付いていくしか出来なくなっていった。




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