Cheer!cafe. vt 数時間前に歩いていた道が、真っ白に染まる頃、佐助の部屋の中では外の寒さを感じさせない熱さが充満していた。 テーブルの上には食べ終えたばかりの皿と、甘いショコラの香りが立ち込めている。 それなのに触れ合う箇所から熱さが滲み出ていく。 向かい合って座っている格好で、佐助の腿の上には幸村の両足が乗せられていて、腰にまで周っている。幸村の腕が佐助の首に絡み、しがみ付くようにして先程から甘い吐息を吐き続けていた。 「っ…、は…ッ」 佐助の手元では互いの陰茎が合わせられ、先走りの濡れた音が響きあう。こうして抱き合うのは久々で、一度でも箍が外れると止められなくなってしまう。 ――ぺろ。 くちゅくちゅと濡れた音が響く中で、間近の幸村の眦から涙が零れる。それを舌先で掬い取ると、びくん、と幸村が震えた。 「んっ、――っ」 「旦那…そろそろ?」 「ぁ、っ、うん…――っ、も、痺れて…っ」 ぎゅう、と佐助にしがみ付く手が強さを増す。引き寄せるように空いた手で支えていたが、その手を彼の胸元に持っていった。 ――くに。 「やっ、ぅ…――っ」 「やっぱり、旦那ってここ好きだよね?」 ふふ、と耳朶に甘く囁くと、ぶるぶると身体を震わせてくる。否定したいのだろうが、はくはくと動く口から漏れてくるのは嬌声だけになる。 ――かわいい。信じられないくらい気持良い。 ふう、と息を吐きながら佐助が幸村の肩に額を乗せると、幸村は更に強く引き寄せてきた。 「さ、すけ…っ、すき…っ、だ」 「うん、俺も…」 こんな甘い遣り取りをするようになるなんて、去年の今頃は考えていなかった。耳朶に響く彼の声が身を震わすなんて思っても居なかった。 佐助は絡めた手を早め、逃げを打ち始める彼の腰を引き寄せると、一気に果てまで攻めていく。すると二人とも寸分違わず、同じ頃合に熱い迸りを放っていった。 「ん…っ、あ…――、きもち、いい…」 くた、と幸村が佐助の肩に顎先までを乗せて呟いた。快楽になれていない彼は、何処も彼処も敏感で感じやすい。 ――旦那が慣れるくらいに、ホントはしたいんだけどなぁ。 少しの欲望が脳内を駆け巡る。しかしこうして思いを通じてからも、実際肌を重ねたのは数回しかない。それにもっと詳しく言ってしまえば、彼が己を受け入れてくれたのは二回だけ――それでも現状に満足しているのは、幸村が居てくれるだけで幸せだからだろう。 しゅ、と側にあったティッシュを取り出し、互いの濡れた腹を拭い出す。間近にある幸村のこめかみや頬に唇を乗せていくと、つ、と汗が零れてきた。 「だんなぁ、顔、上げて?」 「うん?」 「キス、したい…」 自分の声が此れでもかと甘く擦れている。幸村が佐助の肩の上で顔の向きを変えてくるのを見計らって、ちゅ、ちゅ、と啄ばんでいく。 そうしている間にも手元ではちゃくちゃくと拭き取っていく。ただ達したばかりの彼の陰茎は力をなくしていても、触れると軽く腰が動く。その様が愛しくなって、わざとまた引き寄せた。 ――あれ? 唇では何度も幸村の肌を啄ばんで、合わせた唇から舌先を滑り込ませながら味わう。絡めた舌先が唾液の糸を作るほどになってから、ふと佐助は手元の感触に違和感を覚えた。 くちゅくちゅと絡めている唇はそのままで、視線だけを手元に向ける。 ティッシュだけでなく、指先で己の腹にまで飛んできた彼の精液の飛沫を掬い取って、自分のと比べてみる。 ――もしかして。 佐助は、ちゅ、と音を立てて幸村の舌先を吸い上げると、そのまま舌先が痺れたのか、突き出してくるから堪らない。また喰らい付きたくなるのを堪えて、佐助は額を彼の額に押し付けた。 「旦那…つかぬ事を訊くけど」 「…っ、んだ?」 今の今までのキスで痺れて縺れたのだろう。とろんとしている瞳にじっと視線を向けて、佐助は訊いた。 「いつも、ちゃんとしている?」 「――?」 何のことを言われたのかと、幸村が小首を傾げる。上気した頬で、それも今さっき達したばかりの余韻を残した顔で、そんな風な仕種をされると、再び下腹に熱が溜まりそうになってくる。佐助は、とくとくと波打ち始めている鼓動を抑えながら、そっと聞いた。 「だから、その…自分でしている?」 ――これ。 ぬる、と幸村の陰茎を持ち上げると、やっと言われたことを理解したのだろう。幸村がぶわりと首筋に朱を上らせた。 ここまでしていても、こうして触れると照れてしまう恋人の初心さに、きゅんきゅんと胸が何度も打たれてしまう。だが言われた幸村はそれどころではない。 「なっ、は、は、破廉恥なッ!」 「いや、だって濃いからさ…あんまり溜めるのは身体によくないし」 「だからと言って、自分でなどッ」 「してないんだ?」 「う…――っ」 幸村が口をきゅっと引き絞る。佐助はふにゃりと眉を下げてから、ちょん、と彼の薄い唇を指の腹で突いた。 「恥ずかしくないから、言って?」 「して…ない」 俯きがちにそっぽを向く彼に、思わず心配してしまう。彼くらいの年頃なら、一人ですることだって珍しくは無い――というよりも定期的に出して上げたほうが良い筈だ。佐助は宥めるように、かぷ、と耳朶を甘噛みしてながら、そっと告げた。 「少しはしたほうが良いよ?」 「お前と云う、相手がいるのに…どうして一人でなどっ」 「え…っ」 甘噛みしていた口を離して、幸村の顔を覗き込む。すると彼はきりりと眉を引き上げて、少しだけ膨れっ面になっていた。 「これは、ひとりでするものではないだろう?」 「――…ッ!」 ずくん、と下腹に重みが増す。急激に熱がそこに溜まってきているのが解った。彼が自分の事を此れほどまで思ってくれているのだという事に、今日は驚きっぱなしだ。 佐助が幸村の言葉に閉口していると、彼はふと視線を下げた。しまった、と思ったのも束の間、幸村は佐助の下半身に気付いてしまう。 「あ」 「あ〜…もう、旦那が可愛い事云うから」 照れくさくて後頭部をぼりぼりと掻いてしまう。間近で見上げる幸村が、佐助の陰部を凝視して、ごく、と咽喉を鳴らしていく。 「――…っ」 「また勃っちゃったじゃない。どうしよ、もう…」 じっと見られていることに気まずさを感じて視線をそらした。すると直ぐに、首筋に幸村の吐息が触れてくる――幸村が佐助の方へと寄りかかってきたのだ。 「厭じゃなければ…」 「うん?」 「その…してみても、いいか?」 「へ?」 おずおずと言われた言葉に、思考が付いていかない。幸村が何を言っているのだろうかと思っていると、そ、と勃ち上がった陰茎に幸村の手が伸びてきた。 「いつも、佐助がしてくれるみたいに…口で」 「ええええええッッ、そんな、いいの?でも悪い…っ、わ、どうしよ…えっとね、旦那…」 願っても無い好機だ。しかし何とはなしに、彼にされたら押さえが利かなくなる自信もあった。 ――だって、してもらったことないしっ! ばくばくと鼓動が激しくなる。させてはいけない――でも、してもらいたい。相反する気持ちのまま躊躇っていると、幸村は構わずに足を閉じて前屈みになるように居ずまいを正した。 落ちてくる長い髪を手で押さえて背に払いながら、そっと口元を寄せていく。 「わ…――っ、あッ」 「ん…っ、ふ…――っ」 ふ、と先走りを零しそうになっていた鈴口に吐息がかかり、それだけで腰が震えた。そして直ぐに温かい咥内に引き入れられる。 ――ちゅうぅ。 先を引き絞るように吸い上げられ、そのまま陰茎の浮き上がった筋を舐められる。舌の腹を使って、ねっとりと舐め上げられる感触に、感動と快楽が押し寄せてきて、佐助は幸村の頭を掴んだ。 ――旦那の口に、俺のが入ってるなんて。 こんな好機、いや好場面を見逃すわけにはいかない。目を開けてじっと見つめていると、幸村が眉根を寄せて切なそうに舌先を動かしていた。 ん、ん、と小さく声を立てながら頭を上下に動かしていく。陰茎の下にある、もったりとした袋も手でやわやわと揉みしだかれる。だがそれに合わせて佐助が気付いてしまった事があった。 ――旦那の腰、震えてる…。 少しだけ首を廻らせてみると、幸村の体で影になっているシーツの上に、ぽたぽたと水滴が落ちて行っている。 ――旦那も勃ってるんだ。 そう思ったら止められなくなっていた。ぬう、と手を伸ばして幸村の臀部の割れ目の辺りに触れてしまう。すると、びくん、と身体を揺らして幸村が顔を上げた。 「あ、ごめん…」 「やはり下手だったか?」 しゅん、と眉を下げながら――だが、幸村の口周りは佐助の先走りで濡れていて、思わず羞恥心が込み上げてきた。濡れた唇を指先で拭ってやりながらも、片方の手は幸村の臀部の割れ目を揉んでしまう。 ――厭だって言われるだろうけど。 なんせ普段はしていない事だし、彼の身体に負担をかける。だがまだベッドサイドにあるローションは残っているし、とじっとりと考えながら、佐助は気持を固めて切り出した。 「そうじゃなくて」 「――…?」 あのね、と幸村の額に額を押し付けて、彼の腰を引き寄せる。手に馴染むのは筋肉質な感触だ――弾力のある幸村の肌も、熱感も、仕種も、何もかもが愛しい。 佐助は思い切って今の欲求を口にした。 「挿れたい…――」 ――駄目? びく、と幸村の肩が振るえた。そして正座するように座っている彼の腿が、勃ちあがっている陰茎を隠すように動く。しかし幸村は、ぶわりと頬を染めた後、瞳を潤ませながら少しだけ悩んだ素振りをして、そして頷いた。 「――…ッ、え、いいの?」 「俺も…たまには」 もじもじと云う仕種が本当に愛らしすぎてどうしてくれようかと思ってしまう。きゅうん、と胸が引き絞られるような感覚を受けたと思った直後、佐助は好機を逃すまいと彼をベッドの上に押し倒していった。 →next 110224 up もだもだしている二人 |