猫じゃないんです、虎なんです 庭を少しばかり焦がした辺りで、早々に不穏な気配を感じた忍隊の面々が佐助と虎を止めに入った。二人の光景を拳を握りこみながら見守っていた――時々、声援を送っていた幸村は勿論のこと、駆けつけた忍隊に怒られてしまった。 見事な金色の毛を少しだけ焦がした虎が才蔵に連れられて、しぶしぶといった様相で庭から移動して行く。それを見送りながら、佐助は頬に炭を乗せて幸村の元に近づいてきた。 「まったくさ、旦那も旦那だよ」 「――…?何の言いかがりだ?」 佐助が淹れていた茶は全て飲み尽くし、茶菓子も食べつくした幸村は、ぺろ、と指先を舐めながら近づいてくる佐助を見上げた。 「俺様と云うものがありながら、虎に良いようにされちゃってさ」 「な…――ッ!不埒なことをほざくなッ」 目の前にきた佐助は煤けた頬を手の甲で拭いながら、呆れた風に溜息をついた。ただ虎とじゃれていただけなのに――とんでもない誤解だ。誤解された方としては堪ったものではない。 「お前が勝手に誤解したのだろう?」 「え、何?旦那ってば俺様よりも虎を選ぶわけ?」 唇を尖らせて反論すると、隣に佐助は座り込みながら、上半身をくの字にまげて覗き込んでくる。頬についた煤を全て拭いきった佐助は白々しく瞳を眇めてくる。 「そんな可愛くないこと言う旦那は…あ、いいこと思いついた」 「――?」 ぱっと表情を明るくした彼は、手をさっと組んだ。幸村は佐助の仕種をただ見守るだけだ。 「旦那が虎になっちゃえ」 「え…」 ――ぽん。 佐助がにこりと笑ったと思った瞬間、急に目の前に煙が湧いた。 「――…」 「ああもう俺様って天才」 目の前では満足そうな佐助が満面の笑みを浮かべている。そんな佐助を見つめてから、幸村はふと自分の身体の異変に気付いた。どうにも腰の辺りがむずむずするし、いつもよりも音が鮮明に聞こえてくる。 ――これはまさか。 恐る恐る手を頭の上に向けてみると、ふか、と柔らかい毛の感触が触れてきた。いつも耳のある場所とは違って、上の位置にある耳は、自分の意思で動かすことも可能だ。 「おい、佐助…これは…」 「虎耳と、虎尻尾つけてみました。あ、感覚はちょっと虎っぽくなってるよ」 「なんだと――ッ」 がば、と立ち上がってみると、腰の辺りのむずむずとした感触が、自分の尻尾だと気付く。ゆらりと尻尾が見えて、ぎゃあ、と幸村は素っ頓狂な声を上げた。 ――すとん。 あまりの驚きに幸村は再び縁側に座り込んだ。その表紙に袴の中の尻尾を自分の尻で踏み潰してしまい、ぎゃあ、と痛みに今度は声を上げることになってしまう。 「おい、佐助…っ」 「んー?」 幸村が踏み潰してしまった自身の尻尾を押さえながら――傍から見たら、それは臀部を両手で押さえているような格好だが――横に倒れこむと、覗き込むように上から覆いかぶさってくる佐助に、涙目になって訴えた。 「こんな事をして何の得になるというのだ?」 「いや、だって何か面白そうだと思ったから?」 ――思ったから?じゃないだろうが。 幸村は怒りが込み上げてくるのを感じながらも、じんじんと響く尾てい骨を擦る。だがそれと同時に、腰周りが先程よりも軽やかになったような気がした。 可笑しいと思って視線を下ろしていくと、横に倒れこんでいる幸村を覗き込みながら、佐助が楽しそうに手元を動かしていく。その手元は器用にも幸村の帯を解くことに専念していた。 「佐助、お前、手…」 「あ、気付いた?今のうちに寛げてないときつくなるでしょ?」 「何が…」 厭な予感がひしひしと迫ってくる。佐助は自分の身体を圧し掛からせて重みをかけると、幸村が簡単には逃げられないように自分の腕で檻を作っていく。 ――ゆら。 自然と寛がされた帯に、待ってましたとばかりに尻尾が外に飛び出る。だがそれとは裏腹に、徐々に下半身に外気を感じ始めて、ぶるりと幸村は身を震わせた。 「もっときつくなる前に寛がせておかないと、大変なことになるじゃない?」 「だから、何、が…だ?」 「嫌だなぁ、そんなの旦那の此処にきまって…」 ――ぎゅ。 どさくさに紛れて佐助の手が股間に触れて、揉み上げるようにして掴みこんでくる。思わず刺激に身体がびくりと揺れた。幸村は咄嗟に両足を丸めて身体を縮こめ、頭の上にある耳に手を当てた。 「うわあああああ、皆まで言うなぁぁぁッ」 「だってさ、あんまり可愛いから…したくなっちゃう」 「だぁぁぁぁぁっ、この破廉恥忍ッ!」 「破廉恥なのは旦那の方でしょー?」 かあ、と首まで熱くなって来る。常よりも佐助の声が大きく聞こえる。それに鼻も何だかよく効くような気がする。突然の変化に幸村が瞳を白黒させているというのに、佐助は何処吹く風だ。ぱっと手を離したかと思うと、肩に手を触れさせてきて背後にぴったりと寄り添ってきた。 ――ぺろ。 「さす……っ!」 「此処、どう?」 背後から耳の裏の付け根――少しだけ毛の薄い場所に、佐助の舌が触れてくる。ぬるりとした感触に身を震わせると、佐助は抑えていた手を振り解きながら、はむはむ、と丸い耳を唇で挟みこんでいく。 「あ、耳…舐めるな…」 ぶるりと身体を震わせると、余計に佐助は舌先を耳孔に滑り込ませてくる。耳殻をなぞるように、ゆったりと動かされると首の裏に、ぞくぞく、と戦慄が走った。 「ぅん…」 「旦那って本当に感じやすいよね。っていうか、獣の感覚になるといつもよりも強いかな?」 唇を耳に当てながら、ふぅ、と吐息を吹きかけられるだけで身体が揺れる。幸村は拳をぎゅっと握りながら、背後から圧し掛かっている佐助の与える快楽から逃げようとしていく。 「ほら…耳、これだけでピクピクしてる」 「っ、ん…――ッ」 ――くるる… 指先で柔らかく、丸い耳を揉み込む様に動かされ、思わず咽喉が鳴りそうになった。咽喉が自然と震えてくるのを手で押さえると、佐助が「ありゃ」と軽く驚いたような声を上げた。だが次の瞬間には楽しそうに幸村の肩を片手で押し、とん、と床に仰向けにさせてきた。 「ね、もっとイイことしてあげようか?」 「え…っ」 よいしょ、と乗り上げてくる佐助を見上げていると、彼は顔を寄せてきて鼻先に唇を触れさせた。ちゅ、と軽く音がしたかと思うと指先が幸村の目元に触れてきて「これだけで泣かないでよ」と揶揄してくる。 「なんか苛めているような気になっちゃうじゃない?」 「な…泣いてなど居らぬッ!」 「へぇ?じゃあこれは…?」 佐助の唾液で濡れた耳が、風に触れてひやりとしてくる。風が当たるたびに、ぴくん、と動く耳をそのままにしながら、幸村が身体を――佐助の下で――縮ませていると、器用に着物の袂を振り分けられる。 佐助は慣れた手つきで幸村の胸元に指先を這わせ、つん、と触れた突起を摘み上げる。 「ああやっぱり旦那、ここ、もう硬いよ?」 「――――ッ」 指先で挟み込むようにして摘みあげられ、円を描くように捏ねられる。その度に硬さを持った乳首がぴりりと痛みを告げてくる。 「あ…胸、そんな風に…」 「強くつままれるとキツくていいでしょ?」 言い様に佐助はきゅうと強く摘みあげる。その刺激に身を竦めると、今度は暖かい咥内に引き入れられ、舌先で舐られていく。 じゅっ、と強く吸い上げられるたびに濡れた音が響く――その音が常よりも大きく、間近で聞こえて何とも羞恥心を煽ってきた。 ――聞きたくないッ。 手を伸ばして耳を塞ごうとすると、空かさず佐助の手がそれを阻んでくる。 「耳…――、音、が」 「うん…駄目、離さないよ」 ――ふう 耳孔に息を吹きかけられて、ぞくぞくと腰の辺りから震えがよじ登ってくる。虫が這うかのような感覚に、徐々に身体を震わせ、刺激から逃げようと身を捩った。 「う…っ、ん」 「旦那って本当に耳、弱いね」 ぱく、と丸い耳を食まれながら、ふるふると勝手に震える身体を押さえ込もうとしていると、腹にするりと彼の手が滑り落ちてきた。 「でも耳より…」 囁かれる声が反響して聞こえる。それと同時に、熱くなってきていた下肢に佐助の手が伸び、幸村の熱塊を握りこんだ。 ――びくっ。 「あ、や…ぅ、あぅ」 引き上げるようにして根元から手が滑りあがってくる。形を確かめるような動きに、開きかけていた足を閉じようとすると、佐助の腕がぐいと押し広げてきた。 ――ぬる… 既に幸村の下肢は濡れ始めており、少し動かすだけで先からとろりと先走りの液が溢れてくる。その音を聞かせるかのように佐助の指先が、くちゅり、と濡れた音を立てて触れてきた。 「此処がやっぱりいいよね?」 「佐助…手…手、いやだ…ッ」 「えー?」 「手退け……」 上下に扱かれる刺激に幸村はぎゅっと眉根を寄せた。緩急をつけて動く佐助の手は、慣れていて――簡単に幸村の好い所を探り当てていく。この手に掛かったらもう、陥落するしかなくなってしまう。 「手が厭なら」 「――ひぅッ」 気付いた時には既に熱い咥内に引き入れられてしまっていた。ぱく、と咥え込んだ佐助が先の割れ目だけを舌先でぐりぐりと弄ってくる。 びくびくと足が震える――どうにかして佐助を押しのけてしまいたいような、甘い痺れが腰に落ちてくる。手を伸ばすと彼の髪が指先に触れた。 すると佐助は幸村の陰茎を口に食んだままで話しはじめる。 「ひゃっぱり、くひ、らよね?」 「ああ、あ、あぅ…そこで、しゃべる…なぁっ」 吐息と、話す瞬間の舌の動きが、不規則な刺激を与えてきた。楽しそうに佐助は尚も舌先で舐り、根元から陰嚢を指でやわやわと揉みこんだ。 柔らかい陰嚢の中の、双玉がこりとその存在を示してくる。そしてそれを押し上げるようにして舌先が浮き出た血管を舐め上げていく。 ――くちゅ、じゅる、 濡れた音だけが耳に強く響き始める。幸村は必死に酸素を得ようと、口を動かし、咽喉の奥から飛び出てきそうになる嬌声に耐えた。 何度やっても自分の口から飛び出る嬌声だけは慣れない――佐助はもっと声を出せと言うが、どうしたって慣れることは出来ない。 ――こんな自分の声、聞きたくない。 耳を塞いだとしても自分の声だけは余計に反響してしまうから、幸村は歯を噛み締めた。 「ん――…っ」 「…旦那、すっごいぐしょぐしょなんだけど」 「し、知るか…」 顔を上げて佐助が伸び上がってくる。正面から顔を覗き込みながらも手の動きは止まらない。 「なに?いつもより興奮してるんじゃないの?」 「っく…」 「ほらぁ、尻尾も揺れてるし」 「え?」 言われて首を起してみると、足の間から虎柄の尻尾が、ゆらゆらと揺れていた。その尻尾を掴んで佐助は先に、ちゅ、と口付けを落とす。 「此処も、舐めてあげようか」 ぶわ、と掴まれた尻尾が膨れる。それを見ながら彼は、猫みたい、と笑って尻尾を辿って付け根までいく。ぐい、と身体を折りたたまれるようにして足を持ち上げられ、尻尾の付け根に隠れている後孔に指先が触れた。 「あ、あ、やめ…――っ」 幸村の制止は佐助の耳には誘い文句にしか聞こえない。指先を後孔に滑らせると、そのまま先程までしていた口淫を再開していく。 「さ、さすけ…手か、口、どっちか…止めろ」 「らめ」 咥えたままで話されると、ぞくん、と腰が震えた。尻尾の付け根が持ち上がるような感覚に、身の内から虫が這うような、ぞくぞくとした戦慄が沸き起こる。 「っく、うん…――おかしく、なる…」 「いいよ、むしろなって」 「ぅ、――…」 ぐちゅ、と滴った先走りと唾液で、後孔にめり込まされた指先が濡れた音を立てる。くちゅ、にちゅ、と粘着質な音がしきりに幸村を苛みながら、快楽を引き出していく。 「もっと、おかしくなってよ」 掠れた佐助の声と、与えられる刺激――それに翻弄されながら、幸村は大きく身体を震わせていった。 →3 100118 up |