猫じゃないんです、虎なんです 乱れる息を整えようと、何度も口を開いては酸素を求めた。だがそれは中々肺を満たすようには感じられない。幸村は、はふはふ、と上半身全てを使って呼吸を整えていく。 「は…――ぁ、あ…佐助、少しは加減を…」 「出来るはずないでしょうが」 ――旦那相手で、手加減なんてしたら、勿体無くて罰が当たる。 仰向けに倒れこんでいく幸村を見下ろしながら、佐助が口元を舌先で湿らせた。縁側にしどけなく倒れこむ幸村の長い髪が幾筋も波を作っている。そんな幸村を見下ろしながら、佐助は彼の胸元に掌を這わせた。 「佐助…?」 ――とっとっと 早く打ち込まれる鼓動に――佐助は覆いかぶさるように其処に口付けると幸村から離れた。そして、身体をずらせて縁側に乗り上げていく。するとやっと幸村も此処が縁側だと気付いたのか、がばりと身体を起こした。 「誰が来るか解らないから…中に入る?」 「――気付いて?」 「まさか。夢中で今気付いたばっかり」 後ろ手になりながら、戸を障子戸を開けると、佐助は誘うように腕を伸ばした。幸村は差し出された掌と、佐助を交互に見ると、そっとその手に自分の手を重ねた。 ――ぐいっ。 「ん…――ッ」 佐助の手を握った瞬間、強い力で引き寄せられる。縺れ込んで行くと彼の強い腕で顔を仰のかされる。するりと滑り込まされる唇に、抗うことも無く受け入れていくと、自然に瞼が落ちていく。そしていればもっと深く唇を重ねてくる――そう踏んでいたのに、するりと唇が離れていった。 「ちょっとゴメンね」 「え…?」 瞼を押し上げてみると肩を掴まれる。肩をくるりと動かされ、佐助に向って背を向けるかのように反転させられてしまう。 「背中向けて」 「さ、すけ…?」 肩を押して背中を向けさせる佐助が、ひたりと幸村の背に胸を押し付けてくる。背面にぴったりと身体を寄せられ、肩にそのまま甘噛みされた。 ぱく、と唇で肩口を食まれながら、幸村が身を震わせると、佐助は器用な手の動きで幸村の腰だけを持ち上げていく。 「やっぱり獣なら、バックからかな」 「な…――ッ」 背後にぴたりと身体を寄せた佐助が、後ろから頬を寄せながら掠れた声を出す。持ち上げられた腰の――足の間に、ぐ、と佐助の足が滑り込んできて、座り込むのを阻む。 「うん、後ろからの方が、いいね…」 「な…佐助?」 抗議の声を上げかけて振り向こうとしたら、首筋に生温い感触が触れた。 「ちょっと大人しくしてて」 「え…ん――…っ」 ――かふ。 柔らかく幸村の首に歯の感触が触れる。佐助によって噛み付かれたのだと気付くと、ぶわりと腰に熱が集まり、へなへなと腕からも足からも力が抜けた。 「あ、やっぱり首筋噛むと力抜ける?」 「は、はふ…」 ――何だ、これは? 今までに経験したこともない感触だ――まるで噛み付かれただけで達したかのように、身体に力が入らない。へにゃりと畳の上に上半身を預けていくと、覆いかぶさりながら佐助が徐に尻尾を掴んだ。 「かわいいなぁ、もう…」 「――っ」 ――かし…っ 尻尾を掴んだままで佐助がまた首筋に歯を立てる――そうすると、ぞくぞく、と背に戦慄が走りこみ、幸村の身体から力を奪っていく。 ――おかしくなりそう…ッ ふるふると震えながらその感覚に耐えていくと、尻尾が――その奥に隠れている場所を隠そうと必死に強張る。芯をももって尻尾だけでも抵抗を示すが、佐助はそれさえも楽しむかのように囁いた。 「尻尾も、触るとびくってするね」 「や…――」 ぐい、と尻尾を持ち上げられそうになる。足の合間には佐助の足が滑り込まされており、閉じることも出来ない。 ――ぎゅう。 「駄目だよ、旦那。尻尾上げて」 「厭だ…っ」 「尻尾上げないと入らないでしょ?」 「で、でも…」 「尻尾上げてよ」 「厭だ…っ」 ぶるぶると震えるのも押さえ込みながら、幸村は抵抗を見せた。何だか解らない感覚に満たされながら、いいように弄ばれているような気がしてならない。佐助の声や指、動きに、いつもよりも煽られていくのが、自分で許せなくなっていく。 幸村は力が抜けている身体に鞭打つように、ぎゅっと尻尾に集中して佐助の手から逃れようとしていく。 「あ、こらっ!挟み込んじゃ駄目だって」 「うううう」 ぎゅっと身体を強張らせて尻尾も自分の身体に巻きつけて、背後にぴったりと密着している佐助から逃げようとする。 首筋を噛まれただけなのに、あまりの衝撃にその先がどうなるのかが計りしれなかった。ぞくぞくとした戦慄はまだ腰から背中にかけて走っている。 「だったら隠せないように前からしてあげるよ」 「――ァッ」 云うや否や、ひょいと肩をつかまれて反転させられる。思わず声が漏れたが、背に畳みの感触が触れて、ぐい、と背を伸ばした。 「ほら、こうすれば全部見えるじゃん?」 見上げると佐助の顔がある――よく見れば、彼もまた肌を上気させている。 ――こうして見ていれば、可愛いのに。 色付く佐助を見上げながらそう思う。それなのに、いやと云うほど翻弄してくれるのは可愛くも無い――幸村がそんな思考をめぐらせている間に、ぐい、と大きく膝が割られる。 「ちょ…佐助、足、そんなに開くな…」 「なんで?ほら旦那も自分で足持って」 開いた膝を、ぐい、と上に持ち上げて佐助が幸村の手を引っ張る。そうすると自分で自分の足を抱える姿になる――かあ、と首筋にかけて熱が羞恥で湧き上がってきた。 「や、やだ…――こんな…――っ」 佐助の目の前に自分のあられもない姿を曝け出している――それをじっと見下ろしている緑の瞳が、きらりと細められる。触っているわけでもないのに、見られていると思うと下腹がじんと疼いてきた。 「さ、佐助…――ッ」 「あ〜、うん」 ――凄いねぇ。 自分の足を持ち上げる幸村の手に、佐助の手も添えられている。そして股間に向けて佐助は舐めるように見つめていく。こくり、と咽喉が鳴ったのが目に入った。 「あ、あんまり観るな…ッ」 「なんか解さなくても挿りそう?」 「馬鹿を申すなッ」 にや、と口の端を吊り上げる佐助を睨みつける。すると佐助は片方だけ幸村から手を離して、持ち上がってきていた陰茎を、指先で根元からすらりとなぞってみせた。 「でもすっごい、とろとろだよ?」 「ッひ…――ッ」 びく、と触れられただけで腰が跳ねる。彼は指先を陰茎からなぞり降ろし、その奥にある後孔に躊躇いなく突き立てていく。難なく指先を飲み込んで後孔が収縮し始めるのを感じながら、幸村はふるふると背をしならせた。 ――くちゅ、ぐち… 「ほら、もうぐちゅぐちゅ言ってるし」 「っ、っ…――ッ」 一本指が入ったかと思うと、次々に指は増やされていく。どうしてこんなに感じているのか解らない。目の前に小さな星が散って、くらくらとしてくる。 幸村は咽喉をひくつかせながら、は、は、と小さく呼吸を繰り返していく。すると佐助が覆いかぶさるようにして身を寄せ、倒れこんできていた耳の先を食み、そのままで囁いた。 「ね?観念して欲しがって」 「誰が…――ッ」 「旦那が欲しいって言ってくれたら、挿れてあげる」 涙目になって見上げると、佐助は瞳を眇めて意地の悪い笑みを浮べていく。いつもならそんな風にいう事もせずに翻弄するくせに、と詰りたいくらいだ。 「ねぇ、ほら…」 ――にゅる、 云い様に後孔に熱い感触が触れていく。だがいつものように甘い熱を齎してくれる訳ではなく、もどかしく入り口から陰茎までをなぞり上げていく。 「擦るだけでいいの?」 「ううぅぅ」 ――にゅ、にゅる、 互いの濡れた陰茎が粘着質な音を立てていく。何度も往復されていくと、ぴくぴくと下肢が疼いていく。慣らされた身体は、その先を期待しているのに――焦らされて身を捩るしかできない。 「挿れてって言わなきゃ、挿れないよ?」 「ふ…――っっく」 「辛いでしょ?そのままじゃ」 「あ、あ、…ッ」 ――くち、 不意に先が後孔に押し当てられる。そうされるとそのまま飲み込んでしまおうと、褥がひくついていく――だがその前に、ぬるり、と其れは離れてしまった。 「すっごいぬるぬる…旦那ぁ、もう降参してよ」 「誰…がッ」 掠れた佐助の声に、瞳を上げて幸村が睨みこんだ。それと同時に生理的な涙が眦から伝い落ちていく。だが自由になっている片腕を幸村は伸ばすと、ぐい、と佐助の首にひっかけて引き寄せた。 「むしろ、お前が懇願しろッ」 「は?」 不意に言われた言葉に佐助が呆気に取られる。柳眉がひくりと跳ねた。 「挿れたいと言えッ!」 自棄になりながら幸村が――噛み付く勢いで叫んだ。 「うそだろーん?」 ひくり、と再び佐助の口元が動く。 ――しゅる。 佐助が動く前に幸村は尻尾を動かして自分の脚の間に挟みこんでいく。自分で自分の尻尾を掴んで前も後ろも触らせないようにガードすると、ぶるぶると身体を戦慄かせた。 「い、言わなきゃ…挿れさせぬ…ッ」 「この強情っぱり」 いー、と歯をむき出しにしながら佐助が唸る。だが焦らされるのも、突き動かされるのも、全て彼に言い様にされるのは癪に障る。 ――少しは俺に振り回されればいい。 ぐっと奥歯を噛み締めて睨みつけていると、佐助が溜息をついた。そして尻尾に触れてくる。 「いいよ、俺様が折れてあげる」 「何だその上から目線っ」 「ええ?この状況で旦那一人でどうこうできるの?」 「う…っ」 尻尾を引き剥がそうとしていた手を解き、見せ付けるように佐助は自分の下肢を指差してみせた。其処は既に興奮の色を濃くしていて、余計に幸村の頭に血を上らせていく。 「俺様は自分でこれ、慰められるけどさ」 ――あんた、俺に慣らされた身体で、後ろ弄らなくてもいけるの? 「――ッ」 次いで佐助が幸村の方へと指を向ける。そう告げられるとたじろいでしまう。本当はもう早く突き動かしてほしい――でも、普段からそんな事は思わないのに、今のこの状況で強く願ってしまうのが、自分でも信じられなかった。 そもそも今の幸村は半分虎にされている――そうしたのは佐助だが、何もかも好きにされるのは、どうにも癪に障る。それに虎になっているから、そんな風に感じるだけかもしれない。 佐助にコントロールされているような気分は、何だか腹が立ってしまう。 本音と、抵抗心と、その狭間でぐるぐると揺れているのに、当の佐助は楽しそうだ。 「無理でしょ?だから俺様が折れてあげる」 「――ッ」 「ね、旦那…此処にさ、俺の、挿れさせて」 「あ…――」 尻尾を押さえていた手に、佐助の手が絡まる。そのまま尻尾から手を離され、佐助の方へと誘導されていく。彼は自分の下肢に幸村の手を触れされると、頼りなく――眉を下げて笑って見せた。 「挿れていい…よね」 幸村の手に触れるのは熱の塊だ――気付いたら、こくりと頷いてしまっていた。 「いくよ…」 「――ッ」 大きく開かれた足の間に、佐助が身体を滑り込ませてくる。ぐっと熱い彼の陰茎が後孔に触れると、幸村は力んで呼吸を詰めてしまった。 「旦那、息、して」 「う、うむ…っ」 「はい、吸って〜、吐いて〜」 促がされるままに呼吸を繰り返して、ふうふう、と落ち着かせていく。 「はっ、はぅ…――ッ」 何度かそうして深呼吸を繰り返していると、不意をついて――ぐん、と挿し込まれた。ぐいぐいと押し進められてくると、どうしても排泄感が沸き起こる。押し出そうと後孔が収縮を始めていく。 「あ、やっばい…旦那の中、熱い」 「あ、あぅ…――さすけぇ…」 「熱いねぇ、旦那ぁ」 身体を折り曲げて囁いてくる彼の顔が、やたらと気持ちよさそうに上気している。手を伸ばして頭を引き寄せて、自分から佐助の唇を強請ると、心得ているとばかりに舌先が絡みとってくる。くちゅくちゅ、と舌を絡めながら――合間に幸村が先を促がした。 「は、…早く」 「うん?」 「動いて…くれ」 「いいよ。動かしてあげる」 ちゅう、と上唇を吸い上げてから、ぐいぐい、と腰を打ち付けられる。 ――ぐぷ、ぐちゅ… 抜き挿しされるたびに粘着質な音が響き出す。がくがくと揺さ振られる振動に、快楽を散らそうと幸村が首を降り始める。 「すっごい音してるんだけど」 「ぁ、ア…――ッ」 「いい?ここ…」 「あああ……、――っく」 言葉を発することよりも喘ぐことしか出来なくなっていく。こくこくと頷くと、佐助は思い切り、抜けそうになるくらいに陰茎を引抜き、入り口辺りをしきりに擦り付けていく。 ――びくッ。 「――――ッひ」 ある一点にくると、咽喉が引き連れた。びりびりと全身に走る痺れにも似た感覚。まるで水揚げされた魚のように、びくびくと身体が跳ねていく。 「あ、此処ね。ね、尻尾も感じる?」 探っていた場所を見つけたとばかりに佐助が舌舐めずりをしてみせる。そして同じ処を何度も擦り始め、その度にぶわぶわと毛を逆撫でしていく尻尾を掴みこんだ。 「あ…――、ア、アッ、…――んッ」 尻尾を手で柔らかく、揉みこまれて、付け根のあたりを擽られる。そうすると自然に腰が浮いて、佐助の律動に合わせて動き始めていった。 「中…中、熱い…」 「うん、じゃあ…一緒にいこうか?」 「さ、さすけ…――」 両腕を伸ばして彼の首に絡める。そうしてしがみ付いて、ひぐひぐ、と涙に濡れたままで擦り寄る。すると背に腕を回して佐助はぎゅっと抱き締めてくれた。 「あはは、旦那、可愛いね」 「――笑い事では…っく、う、あ……――ッ」 ぐちゅ、と繋がった場所が卑猥な音を立てていく。それと同時に腰から、ぶるぶる、と甘い痺れが駆け上がってくる。 「駄目、俺ももう限界…」 「――――っくぅ」 ぎゅう、と思い切り佐助にしがみ付きながら幸村が、ぶるりと震える。それと同時に勢いよく吐精していく。そして一呼吸置いてから佐助もまた達していった。 陽もくれてきた部屋の中で、ぐったりと佐助が項垂れる。ぜえぜえ、と珍しく咽喉から漏れる喘鳴を飲み込みんでいく。 「あー…旦那?」 「何だ…?」 佐助の傍らでうつ伏せになりながら、幸村もまた肌に汗を浮べて――だがその足は、ぱたぱた、と動いてどこか楽しそうだ――首だけを佐助にめぐらせてきた。 「大丈夫?」 佐助が手を伸ばして幸村の頬に触れる。手の甲でなでると、その感触が気持ちよいのか、幸村は瞳をじっとりと眇めて見せた。 ――ぱたん、ぱたん、 「尻尾、揺れてるけど」 微かな音に佐助は、ひく、と頬が引き連れるのを感じた。手元では幸村が気持ちよさそうに耳を倒し、くるくる、と咽喉を鳴らしている。だが予想以上に――いつもは自分よりも快楽にかなり弱い筈の彼が――元気なのだ。佐助ほどダメージを受けてもいなく、少し持て余しているような仕種を見せる。 「――まだ、むずむずする」 「え…」 「可笑しいな」 ううん、と唸りながら幸村が上体を反らして頬杖をついた。彼の肌の上には、佐助のつけた鬱血根が、まるで花のように散らばっている。だがケロッとして云う彼を見下ろして、がくりと力が抜けた。 「もう3回やったじゃん?流石に俺様も疲れてきたよ」 ――もう俺、無理ッ! 手をぱたぱたと動かすと、佐助は足を投げ出した座った。無理無理、と繰り返しながらぐったりとする。 ――旦那を虎にしたの、失敗だったかな。 脳裏にそんなことが浮かぶ。感覚が鋭くなって、とろりと融けた顔が見たいと思っただけだった。それに虎と遊ぶ彼に嫉妬した。それだけだった筈なのに、これでは追い詰められたのは自分の方ではないか。 「――佐助」 至近距離で名前を呼ばれて気付くと、幸村が身を起して佐助の鼻先に口付けてきた。そしてそのまま頬に手を添えて、ちゅ、ちゅ、と口付けを続ける。 「や、ちょっと…旦那?」 「もう一回」 云いながら幸村が口を、ぱく、と空ける。よく見ると微かに牙が見えた。 ――くちゅ。 するりと舌先を中に滑らせて絡めていく幸村の肩を押しのけて、佐助は背を撫でて行く。 「嬉しいお誘いなんだけど、俺様、もう無理…」 どうにかして落ち着いて欲しかったが、幸村は既に聞いてはいない。尻尾がぱたぱたとしきりに畳を打ちつけ、耳がぴくぴく動いている。 「何ならお前はそのままで居てもいいぞ。俺が勝手に動く」 「え…――ええええええ?」 「それか、佐助を抱くのも悪くないか…」 にやり、と幸村が口元を吊り上げる。そのまま体重をかけて佐助の身体を押し込むと、佐助は呆気なく畳みの上に倒れこんだ。 「うそだろーん…」 咽喉を楽しげに、くるくる、と鳴らす幸村を抱き締めたまま、佐助は呟いていった。 ※トラは約二日間の発情期で100回以上交尾いたします※ 了 100123 up/新年某絵茶で派生したお話。さっけに「うそだろーん」と云わせたいがための一作。 |