Want you darling





 夕方の薄暗い外とは別世界のように花屋の中は、きらきらと光っているかのようだった。小十郎は見慣れた店内をぐるりと眺めると、以前とは違った景色に瞳を瞬かせた。
 視界に映るのは花の精たちだ――さらに言えば、形も無く、ふらふらと漂っている花の精の、発光体だ。今まで見えていなかった分、この店内の光景にはただ驚くだけだった。

 ――綺麗なもんだな。

 小十郎はぽかんとしながら周りを眺めるだけだった。しかしそれも直ぐに慶次の「どうぞ」という声に掻き消されてしまう。促がされてみると、目の前に良く冷えた麦茶が置かれた。

 ――ぴょこん。

 麦茶が置かれる横に、体長約10cmの政宗が降り立つ。そのまま、とてとてと歩いて麦茶のグラスの横に立つ。小さな手でグラスにぺたりと寄り添い、冷たい、とじっとりと瞳を眇めていった。

「来るだろうと思っていた、って事は、なんかあったんだろうな」
「ま、そんな所ですよ」

 かたん、と慶次が作業台の椅子を引いて座る。小十郎も勧められるままに作業台に近づいて座り込んだ。麦茶のグラスにぺったりと張り付いている政宗――それを指で指してみながら慶次に問いかけた。

「で?これ…一体何なんだ?」
「なにって、花の精。政宗に聞きませんでした?」
「聞いた、けど…納得しちまう自分が怖いんだが」
「ありのまま、受け入れちゃえば良いんですって」

 ――難しく考えないで。

 くすくす、と咽喉の奥で慶次は笑いながら、グラスを傾ける。その際に、からん、と中の氷が冷ややかな音を醸しだしていた。そして慶次は政宗に――先程からグラスにへばり付いている――退くように声をかけていた。確かに政宗が退かないと小十郎は麦茶を飲めない。

「小十郎、ほらよ…冷たくて美味いぜ」
「ああ、咽喉渇いてたんだ。貰おう」

 小十郎が手を伸ばすと、政宗がグラスを一生懸命に押して目の前まで運んできた。そして礼を言うと、政宗は一瞬だけ肩を、びくん、と揺らしてから、くるん、と背を向けてしまった。後ろ手に組まれている手が、首筋が仄かに色付いている。

 ――褒められるのに慣れていないのか。

「可愛いでしょ、こいつら。普段はこんなチビなんですけどね、花期になると…」
「花期?」

 聞きなれない言葉に、鸚鵡返しに聞いてみると、慶次は「花が咲く時期のことですよ」と教えてくれた。

「花期になると、実体になることも出来るんですよ」
「え…花って、そういうものなのか?」

 植物については学校で習った知識と、自分で触れた経験があるが、今までそんなことは無かった。小十郎が驚いて背を反らすと、慶次はくつくつと咽喉の奥で笑った。
 慶次の笑い声に合わせて、周りに浮いていた光の玉が、ふわわわ、と動いていた。

「だから、あんまり頭だけで考えなくて良いんです。花の精なんて、普通は見えないんですから」
「そ…そうか。イレギュラーって訳だな」
「そういう事。実体になれる力を持った花でも、あえて実体にならないものも居ますし」

 慶次は麦茶を飲みきると、ふう、と溜息をついて、目の前の政宗の頬を指先で撫でた。すると政宗の頬が、ふっくりと指の動きに合わせて動く。なでられる度に政宗は、きぃ、と慶次に噛み付いていった。

 ――なんだか、可愛いじゃねぇか。

 ちんまりとした身体で精一杯に動く政宗――全身で感情を表現しているかのような姿に、ほんわりと和んでしまう。
 小十郎は一通りの説明を慶次から聞き終えると、再び政宗を肩に乗せたままで花屋を後にした。その際に、後ろ髪を引かれているかのように、政宗が二度三度と慶次を振り返っていたのが、何となく物寂しいような気がしてならなかった。











 家に戻ってから、政宗は押し黙ってしまっていた。冷たくした水を目の前に出して、冷房を効かせた部屋の中で、ちま、と背を丸めて下唇を噛み締めていた。

 ――里心って奴だろうか。

 ふと政宗のそんな姿に思いうかぶ。自分も進学で家を離れたとき、やはりあまりの静かさに違和感を覚えたものだ。
 五月蝿い日常から開放されるのだと、口煩い家族から離れて、自分ひとりの空間と時間が持てると喜んだものだったが、いざ一人になると、あまりの静かさに寂しさを感じたものだ。そして恋しくてならなかったものだ。
 小十郎は目覚まし時計をセットしながら、政宗に声をかけた。

「明日、一緒に出勤してみるか?」
「しゅっきん?」

 丸めた背中がぴくりと動いた。手に持っていた水入りのカップは離さず、政宗は耳だけを動かした。

「仕事にいくことだ。一緒に、会社に行ってみるか?」

 小十郎が布団に半分入りながら告げると、政宗は小さな腕を、ぐい、と動かして――その仕種から、涙を拭っていたのだと気付いたが、あえて気付かない振りをした――その場に立ち上がった。すっくと立ち上がった政宗の背中は既に丸くなっておらず、ぴん、と伸びていた。
 そして彼はくるりと振り返ると、踏ん反り返るようにして胸を張った。

「おう!じゃあ、俺は仕事に勤しむ小十郎を監督する仕事をするぞ」
「おいおい」
「お前が無茶したり、サボってたら激飛ばしてやるッ」

 政宗はぴょんと小十郎の胸元に飛び込みながら腕を振り回した。小さな身体に、一杯に力を溜め込んでいるかのような、そんな印象の彼に、小十郎は知らず知らず眉根が下がっていった。
 胸元に飛び込んできた政宗を受け止めると、そのまま背後に倒れこむ。
 背には布団の感触がある――天気の良さにまかせて干した布団は、まだ昼間の熱を蓄えこんでいるかのようだった。
 もぞもぞと政宗は動いて、小十郎の胸元にちょこんと座った。
 胸元に胡坐をかいて、両腕を組んでバランスを取ると、薄く紺色を弾く瞳がきらりと瞬いた。

 ――もう泣いてないな。

 小十郎は政宗の出ている左の瞳を見上げながらそんな風に思った。どうせなら泣かせたり不安にさせるよりも微笑ませたい。だがその切っ掛けがまだ掴めずに居る。

 ――俺もそんなに愛想が良いわけじゃない。

 気付けば眉間に皺を寄せてしまっており、よく元親などには指摘される。はたりと気付いて指先を眉間に向けた。

 ――ぺた。

 不意に眉間に向けた指先に触れる感触があった――視線を上に向けてみると、蒼い服の色が見える。いや、蒼い腹だ――よくよく気付くと、伸び上がった政宗が小十郎の指先に手を添えて、顔にへばり付いている。

「お…おいおい」

 顔の上に政宗の身体が乗っかっている。小十郎の鼻にマシュマロのように柔らかく乗っているのは多分、政宗の尻だろう。

「政宗、呼吸が…」
「うん?ああ、すまねぇ…此処、凝ってるのかと思って」

 ――揉み解してたろ?

 ぱっと政宗は手を離して小十郎の顔の上を歩く。小十郎はじっとそれに耐えていると、額に乗り上げながら、政宗が覗きこんできた。

「慶次もよく疲れると手で色んな処を揉んでたぜ。人間ってそういうことするんだよな?」
「まあ…そうだな。肩とか、目元とか…揉み解すと気持ち良いから」
「な〜?で、どうだ?解れたか?」

 きらきらと瞳を輝かせる政宗に、微笑ましさと笑いを弾き出したくなる。小十郎は額に乗りかかった政宗に手を添えて、ゆっくりと頭を撫でた。撫でられると一瞬だけ、びく、と身体を揺らすのは変わらないが、政宗はその後に気持ち良さそうに瞳を眇める。
 彼の仕種から、なでられるのが嫌いでないと気付いて、小十郎は口を開いた。

「まだおっかなびっくりなんだけど…うん、お前がいるのは嫌いじゃないな」
「そ…そうか」

 政宗がぱちぱちと瞬きを繰り返す。右眼は包帯に巻かれているが、その分左の目は表情よく物語る。

「なあ、大丈夫か?まだ顔色が」

 政宗が其処までいうと、小十郎は彼を持ち上げて自分の首元に寄せた。それから、二言、三言、話をしている内に寝入ってしまっていった。










 規則正しい生活をしている――と、よく言われる。
 早朝に目を覚ました小十郎は、日課のジョギングをした後に、まだ寝ぼけ眼だった政宗を伴って仕事へと向った。
 朝の職場は集中しやすい。直ぐに小十郎は自分の席につくと、PCの電源を入れた。

「なぁ、小十郎。誰もいねぇけど…」
「まだ早いからな。もう直ぐ皆がくると騒がしくなるさ」
「そう…なのか?」

 きぃ、と椅子を手繰り寄せて座ると、眼鏡を掛けた。そして、かたかた、とキーを打ちながらメールチェックを始める。それに合わせて、途中で買ってきていたコーヒーに口をつける。小十郎の一連の動きを眺めていた政宗は、忙しなく小さな首を動かしていた。

「目が廻りそうだぜ…」
「そうか?慣れたらそうでもないけどな」

 くらくらと頭を動かす政宗はじっと小十郎を見上げてから、ぽわ、と頬を赤らめて見せた。どうしたのかと、ちら、と下をみると、ぷい、と横を向いてしまう。

「政宗」
「――…ッ」
「すまん、其処のペン取ってくれ」
「う…お、Okey…」

 眼鏡越しに政宗に頼むと、政宗は手元にあったペンを取り、よいしょ、と持ち上げる。そして小十郎に差し出してきた。受け取り様に顔を近づけると、ぴん、と政宗の睫毛が上を向いた。

「どうした?」
「い…いきなり、顔寄せるなよッ」
「いや、政宗が可愛いと思って」
「――――…ッ!そ、そういう事は思っていても口にしないもんだッ」

 ぶわわわ、とふくよかな頬を赤くして政宗は小十郎の腕をぎゅっと握った。人に馴れていない、褒められることにも馴れていない、こうも不器用だと思うと庇護欲を掻き立てられてしまう。小十郎はくすくすと口の中で笑った。
 程なく、チン、とレンジの音のような軽い音を立てて、エレベーターの音がした。

「おはようございまーす」

 佐助の声が響き、彼は自分のデスクへと向かっていく。そして椅子にリュックをかけると、そのまま机の上にあったクリアファイルを手にしてこちらに向ってきた。

「おはようございます。これ、例の…――」

 其処まで云ってから、ふと佐助が閉口した。佐助の視線がじっと此方に向っている。手元では政宗が腕をぺちぺちと叩いてきていた。

「なぁ、小十郎、大丈夫か?まだ熱あるんじゃねぇ?」

 小さな手を、たしたし、と叩きつけながら政宗が見上げてきていた。小十郎はかけていた眼鏡を外すと、そっと――自分の腕に触れているように――それとない仕種で政宗の肩から頬に指先を向けて撫でていた。

「政宗殿ッ!おはようござるッ」
「ん…――お、おおッ!幸村じゃねぇか」

 佐助が閉口していると胸ポケットから顔を出したものが居た。右腕を上に上げて政宗に挨拶をしていく。それに気付いて政宗が振り返った。

 ――これ、花の精、だよな?

 小十郎は佐助の胸ポケットをじっと見つめてしまった。其処には身体半分を埋めた赤い服の花の精――三頭身の小さな物体が収まっていた。

「あの…片倉さん?」
「猿飛か、おはよう。どうした?」

 呼びかけられ、顔を上げた小十郎が佐助に視線を移すが、どうしても佐助の胸ポケットを見つめてしまう。

「それ…――もしかしなくても、見えています?」
「――――…」

 佐助が指を指して自分の胸元と、デスクの上の青い服を着た小人を指すと、小十郎は辺りを見回してから、ふう、と溜息をついた。

 ――なるほど、猿飛は見えているのか。

 慶次の「来ると思っていました」と言った時の顔が思い起こされる。たぶん佐助が同じような用件で訪れていたのだろう。小十郎は納得しながら頷いた。

「お前もか…――観たところ、こいつらは知り合いみたいだな」
「そう…ですね」

 こそこそと声を潜めている佐助達とは裏腹に、胸ポケットから幸村が飛び出して政宗に体当たりを食らわしているし、政宗もまた起き上がると頭突きを始めていた。
 小十郎のデスクの上で小さな花の精たちが、きゃっきゃとじゃれている。
 そうこうしている内に、聞きなれた声が威勢よく響いた。

「おはよーございまーす。片倉さんよ、これ見てくれ」
「長曾我部か…おはよう」
「どうも、おはようございます、元親主任」

 背後から箱を抱えた元親が現れた。そして箱を小十郎の前に差し出して、今度の展示見本作ったんですよ、とにっこりと笑った。
 手先の器用な彼の事だ――また実物そっくりの箱庭を完成させたのだろう。余程自信があるのか、上機嫌で元親は二人の前で箱の蓋をあけた。

「――あ?」

 ぱこ、と開かれた箱には、ミニチュアの椅子やらテーブルが並んでいる。だがその中心に緑色の柔らかそうな物体が入っていた。

 ――此処にも一匹。

 小十郎が箱の中身に一瞬だけ瞳を見開くと、佐助を振り仰いだ。彼もまた箱に入っている小人へと視線を向けている。

「おま…っ、いないと思ったらこんな処に入ってたのかよ!」
「おのれ…元親…我を振り回すとは…」

 今まで箱の中で散々振り回されたのだろう。その小人はよろよろと立ち上がると、元親を睨みつけていた。

 ――長曾我部も見えてるのか…。

 小十郎が椅子の背もたれに、ぐーんと背中を預けて身体を反らせている横で、佐助が額に手を当てている。そしてこっそりと元親に耳打ちするかのように告げた。

「あの、元親主任…それ、俺達以外見えてないから、もうちょっと声抑えて」
「あ、そうか…ッ!って、え?お前も見えるの?」
「云っておくが、俺も見えているぞ」

 がた、と小十郎が立ち上がる。そして立ち上がり様にデスクに掌を向けた。するとそれに気付いて、たたた、と政宗が駆け寄り、小十郎の掌の上に飛び乗った。小十郎は胸ポケットから煙草の箱を取り出し、其処に彼を収める。

「まぁ、なんだ…ちょっと話に行くか」
「そう、ですね」

 佐助も持っていたクリアファイルをぎゅっと胸に抱きこむと、軽く手を伸ばす。そして幸村の首根っこを掴みこむと、自分の肩に乗せた。元親に至っては箱の中の小人を、むんずと掴みこんでいく始末だったが、三人は夫々の花の精を引き連れてラウンジへと足を伸ばしていった。










 週末からの出来事を三人で夫々に語っていくと、皆鉢植えを購入した翌日に花の精が見えるようになったことが解った。

「じゃあ、それぞれ花の精が見えるって訳か」

 小十郎が手元にコーヒーの入った紙コップを包み込んで云う。彼らの目の前にはテーブルの上でちまちまと遊ぶ三匹の花の精がいる。

「そうなりますね…あ、因みに俺のは旦那です」

 これ、と指を指して佐助が幸村を紹介する。すると即座に幸村は、ととと、と歩き出た。そして元親と小十郎を見上げてから、ぺこん、と頭を下げる。

「幸村と申すッ!いつも佐助殿がお世話になっておりまするッ」

 ぶふっ、と佐助は甘いオレンジジュースを噴出しそうになり、そのまま勢い良く幸村を掴みこむと、ぎゅうと抱き締めていった。

「だから旦那、なんでそう…――ッ!ああもう、可愛いッッ」
「ふんぎゃあああああッ!ははは破廉恥ィィィ」

 いきなり抱き締められて、じたばた、と幸村が暴れる。その間に幸村に続いて青い服を着た隻眼の小人が――言わずとしれた政宗だ――前に進み出る。

「俺は政宗だ。小十郎のとこにいるぜ?」

 に、と口元を吊り上げる政宗に小十郎は「よくできました」とばかりに頭を指先で撫でた。そうすると政宗は手を頭に乗せて、へへ、と嬉しそうにはにかんだ。

 ――礼儀正しい感じだな。リラックスしてて、良い感じだ。

 小十郎は指先で政宗を労うようになでていく。すると政宗は嬉しいとばかりに頬を緩ませた。
 だがその後ろで横になりながら微動だにせずに――少々、むっつりと頬を膨らませている小人が元親を顎でしゃくる。

「ふん…早う、我を皆に紹介するがいい」
「お前…態度でかいなぁ…――あー、これ、元就ね」
「此れとは…――ッ!」

 元親が身を乗り出して緑色の服を着た元就を指差す。だがその扱いが気に入らなかったのか、元就は飛び起きて元親に体当たりをしていた。二人の様子を眺めながら小十郎が口元に手をあてて口を開いた。

「まぁ、でも花の精が見えたとしても、何ら問題ないしな」
「確かに。それより、俺、なんかこの週末から楽しくて」
「珍しいな、猿飛」

 手に幸村を乗せたままで――小十郎の方へと幸村を見せるように、佐助が幸村を抱き締めていると、幸村が頭を反らして佐助を見上げてくる。

「珍しい…ですよね。俺様、こんな風に楽しいの久々で」
「良い変化じゃないか。その分、仕事にも精を出せよ」
「うっわ、そういう事いうの、片倉の旦那」

 ――さて、戻るか。

 小十郎がさっと立ち上がると、空かさず政宗が着いて行くのが微笑ましい。

「おい、お前らッ!」

 不意に政宗が小十郎の肩に乗りながら、佐助たちに声をかけた。そして政宗は小十郎の肩の上で仁王立ちすると胸を張った。

「こいつ、週末に熱出してんだ。少し労れよなッ」
「おい、政宗…余計なこと云わなくても…」
「え、熱…――?」

 佐助が幸村を胸に引き寄せて聞き返すと、小十郎は額に手を当てた。佐助が不安そうに閉口している。小十郎は「大丈夫だよ」と微笑んだ。
 だが小十郎の肩にしがみ付きながら、政宗は「いー」と歯をむき出している。そんな政宗を諌めるつもりは無かったが、とりあえず指先で鼻先を突いておいた。すると政宗はバランスを崩して「Oh!」と仰け反っていった。
 仕事が終わるまで政宗は幸村たちと遊んだり、職場の探検に余念がなかった。定時をとっくに過ぎて帰る時間になっても戻ってこず、辺りを見回すと元親のデスクで三匹で腹を出しながら寝ているのが微笑ましかった。
 半分寝ぼけ眼の政宗を手にしながら、小十郎が駐車場へと足を向けていると、不意に政宗が目を開けて「明日も来たい」と言ったのに承諾しながら、小十郎はしみじみと今日のことを口にした。
 何だか今日はいつもと同じようで、全く違う一日の始まりのような気がしてならなかった。そもそもの原因は今この目の前の――三頭身の小人たちに他ならない。

「仲間ができるって良いもんだな。一人だけの秘密ってのも乙だが…あいつらと共有の隠し事なんて」

 ――心が躍る。

 こんな日々は幾年ぶりか。そんな風に車の中で呟くと、政宗は嬉しそうに助手席で微笑む。胡坐をかいて腕を組むスタイルは変わらない。シートベルトでも作ってやったほうが良いだろうか、と脳裏にそんな事を想いつつ政宗に意識を向ける。政宗は。うんうん、と頷いていた。

「それもそうだよな…俺も、仲間が…あいつらが居てくれたから」

 しゅん、と少しだけ気落ちした素振りが見え隠れした。たぶん店にいた時のことを思い出したのだろう――いわば望郷のような、懐かしい気分なのかもしれない。

「良い仲間じゃねぇか」
「おう!」

 掌を伸ばして助手席の政宗の頭を――頭と言わず身体毎になってしまったが、なでると政宗は声を張り上げて頷いた。そしてエンジン音と共に政宗は「Here we go!」と叫んでいった。





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