flower of passion





 強く幸村の身体を抱き締めたら、止まらなくなっていた。掻き抱きながら、身体が熱くて仕方なくなってくる。
 唇を擦り合わせるようにして重ね、角度を変えながら徐々に彼の口を開かせて深くしていく。上唇を啄ばんで、吸い上げると「ふ」と幸村が鼻先から息を吐き出した。

 ――ちゅ、ちゅく、

 舌先を彼の口の中に滑らせて、歯列をなぞる――歯と歯茎の間を、尖らせた舌先で擽り、そのまま彼の舌に絡めていった。

「ん…――っ、っく」
「旦那……――ッ」

 深く、深く、角度を変えながら、上顎を擽ったりと忙しない。

 ――何処も彼処も、甘い気がする。

 感じるのは甘さだけだ。佐助が幸村を強く引き寄せたままで、唇を貪っていると、幸村は途端に顔を背けて「はー、はー」と呼吸を繰り返した。

「旦那、息、していいんだよ?」

 ばくばく、と触れ合っている胸から幸村の鼓動が伝わってくる。伝わる鼓動は回した腕からも解った。煽られるように、佐助もまた鼓動を早くしていく。口付けだけで身体が疼いてくるなんて、いつ振りだろうか――少しでも離れるのが惜しいような気がして、頬やこめかみにも、ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い付いていると、幸村が胸の中で俯いた。

「佐助、その…――っ、っ」

 ふぅふぅ、と小さく呼吸を整えて――まるで全力で走った後のように呼吸を乱して――幸村が戸惑いを見せる。

「その、某、これ以上何をするのか…」
「解らない、よね?」
「――っ」

 こくり、と幸村は素直に頷いた。
 それもその筈だ。花の精の幸村には今まで必要としてこなかった事だし、人とは違う性質を持っている彼らだ――まさか慶次に其処まで教えてもらっているとは思いがたい――キスさえも恥ずかしがっている彼からは、これからしようとしている事など、予想もできないだろう。
 口で説明するよりも、今は直ぐにでも幸村が欲しくて堪らない。俯いたままの幸村の顎先を片手で掴み上げて上向かせると、その手を頬に添える。
 そのまま優しく引き寄せながら、佐助は宥めるように背中を撫でた。

「大丈夫、俺様に任せて。ね?」
 ――でも、旦那の事だから『破廉恥』って怒るかな。

 額をこつりと付け合せて嗤うと、幸村が頬を膨らませた。

「そ、そんな事、言わぬッ!」
「本当に〜?信用できないなぁ」
「言わぬったら、言わぬッ!」

 涙目になりながら、ぷう、と膨れる姿に小さな時の、あの見上げてくる姿が重なる。ふっくりとした頬と、真ん丸の瞳で見上げられたらお仕舞いだ。

 ――可愛いなんてね。

 表現するには似つかわしくない。一見、好青年としか映らない彼の姿が、やたらと可愛く見えてしまう。場合によっては精悍さも併せ持っているのに、佐助の眼にはどう見たって可愛くしか映らないのだ。
 眉根を寄せて必死になっている幸村の額に、こつんと自分の額を押し付け、そのまま鼻先を重ねる――軽く閉じたままの唇に、何度目かも解らないキスを落とす。

「ムキになるところが可愛い」
「な…――ッ!」
「旦那のこと、もっと知りたいし、俺がどれくらい旦那のことを好きか…それが伝わればいいのに」

 ぎゅっと抱き締めて、身体を竦めてみせた。そうすると幸村の胸元に縋りつくような体勢になる。幸村の身体が熱い。

「ホント、こういう時、言葉って無意味だね」

 ――伝えきれないから、身体で感じたくなるんだろうなぁ。

 佐助が言葉を飲み込んで、脳裏でそんな事を考えていると、幸村が不思議そうに言った。

「佐助殿…でも、某、ずっと話してみたかったでござるよ?」

 そろそろと幸村が手を伸ばして佐助の頭に触れ、ゆっくりと撫でていく。慣れていない手の動きはぎこちなかった。だが、幸村の手が触れてくるのが気持ちよくて、佐助は彼の胸にしがみ付いたまま、背中をぽんぽんと――こどもをあやす様に撫でていく。

「だぁんな…」

 伸び上がって甘えるように幸村の耳朶に囁くと、幸村が今度は首を竦めた。それを見計らって、彼の首筋に頬を寄せて、再び抱き締める。少しでも離れてしまうのが惜しいような気がしてしまう。

「旦那ぁ、俺様と話してみたかったって、そういえば前も言ってたよね?」
「佐助殿が店に来たときには、某の姿も見えておらなんだ。棚の上から、某、見ておりもうした。話してみたい、触れてみたい、一緒に…居たい、と」
「旦那…――ッ」

 佐助の行動を真似するように、幸村が寄せ合ったままの体勢で、頬を佐助に寄せて擦り寄る。ふ、と首筋に彼の呼気が当たって擽ったい。

「いざ姿が見えるようになってからも、今度は佐助殿と…隣を歩くことを夢見ておりました。同じ歩幅で歩いてみたいって…」

 肩を押して正面から向かい合うと、幸村が嬉しそうに目の前で微笑む。ほんのりと笑んだ拍子に、ふっくりと頬が膨らむ。笑みで瞳が細まり、同時に光を弾いた。
 あまりにも幸村が嬉しそうに微笑むので、佐助の方が今度は笑みで心臓を射抜かれたかのようになってしまう。
 とっとっと、と鼓動がどんどん早くなっていく。佐助は堪らずにへにゃりと背中を丸め、幸村の胸に額を押し付けた。

「もう、俺様、こんなに幸せでいいのかなぁ」
「さささ佐助殿?」

 寄り掛かってきた佐助に幸村が慌てる。
 切っ掛けは些細な事だった――マンネリ化する毎日に疲れて、彩を添えたいと思った。目に留まった鉢は、青い葉を此れでもかと輝かせて佐助の方をみていた。
 そしてただ花が来たのではなく、心に彩を添えるほどの華が、今目の前に居る。

 ――俺を奮い起こさせてくれたのは、旦那だ。

 さもすれば萎れてしまいそうになっていた心を、彼が明るく輝くものにしてくれた。そう想うと胸元がじんわりと熱くなってくる。

「旦那にこんなに想われていてさ、俺、良いのかな?」
「それは…無論、それで良いと想いまするぞ」

 幸村の胸元に押し付けた頭の上に、ことん、と幸村が自分の頭を乗せてくる。ゆっくりと顔を起こして――視線がぶつかると笑い合うしかない――流れるような動きで、唇を重ねていくと、徐々に熱帯夜のようになっていった。










 首筋から徐々にキスを滑らせていきながら、幸村のシャツの中に掌を差し込んでいった。それだけでかなり幸村は慌てていたが、抵抗を許さないように何度も宥めすかしていく。首元に蟠るシャツに気付いて、佐助は彼の胸元に乗り上げたまま言った。

「旦那ぁ、両腕上げて」
「こう、でござるか?」
「そ、ばんざーい」

 素直に幸村が両腕を上げる。素早く脱がせると直ぐに佐助は胸元に掌を這わせた。びく、と肩が大きく揺れたが、つつつ、と指先を動かして触れていく。掌に直に触れる素肌が、しっとりと吸い付いてくる。胸元を弄っていると、ふるふると幸村の身体が小刻みに震えていった。佐助は片手で胸元の突起を摘み上げると、もう片方に口を近づけた。

 ――ちゅう、じゅっ、ぬる…

「っふ、ぅん……」

 舌先を使って小さな乳首を舐め上げる。押し潰すように転がしていく。何度も吸い上げたり捏ねり続けていくと幸村が息を止めて震えるのに耐え始めた。濡れた胸元に、ふ、と息を吐き出してから唇を離し、佐助が見上げる。

「駄目だって、息、止めちゃ」
「何だか、ぞくぞくして…」
「うん、それで良いよ。それが、感じてる証拠だからさ」

 観れば胸元の突起は、既に形をはっきりとさせて、硬くなってきていた。指先でそれを上に引っ張り上げると、幸村の口から甘い声が漏れだしていく。

「――っ、あっ」

 いつもよりも少し高めの幸村の声を耳にしながら、舌先を尖らせて、つう、と滑らせて行く。そのまま片手を彼の下肢へと向けて触れると、幸村は驚いて上半身をいきなり起こしてきた。何か云いかけそうになるのを、掌を胸にあてて押し返す。

「起きないで良いから、ほら」

 ――とん。

「え…ぁあっ、うわ…――っ」

 ぽふ、と布団の上に再び倒しながら、佐助は器用な手つきで幸村のジーンズと下着を取り除いた。ちらりと視線を上げて見つめると、幸村は頬を真っ赤にして此方をみていた。

 ――眼、反らさないんだね。

 瞑ってしまうのも不安になるのだろう――佐助はそのまま、腹から徐々に舌先を滑らせると、丁寧に幸村の陰茎に手を伸ばして唇を寄せた。

 ――ひくっ。

 息を詰める音が聞こえる。だが佐助は構わずに――夢中になりながら、彼の陰茎を口に含むと性急な動きになりながら――上下に動かしていく。
 勿論、今まで同じ男にしたことなどないことだ――自分がされていた時の事を思い出しながら、幸村の快いところを探っていく。

「あ、あ、あ、ん……っ、は、あぁ」
「――――…っ」

 先の方の割れ目を舌先で抉るように弄りながらも、手で上下に扱いていく。そうしていると、じゅるじゅる、と淫猥な水音が響き出してきた。

 ――何処が一番快いんだろう。

 繰り返している内に、硬さを、太さを、熱を帯びていく陰茎を探っていく。耳には絶えず幸村の嬌声が聞こえてきていた。

 ――くしゃ。

「さ、さすけ…――」
「如何したの?」

 不意に髪に手が絡まってくる。つ、と唇を離すと、唾液と先走りが混ざって糸を引いていく。それを手の甲で拭いながら顔を上げてみると、幸村が息も絶え絶えな風体で胸を上下に動かしていた。
 伸び上がって額にキスを落とすと、幸村は涙目になりながら告げてくる。

「何か、何か云って」
「え…――?」
「何か云って、下され……某、こ、怖くて」

 潤んでいる瞳から、ほろ、と涙が零れる。指先でそれを拭うと、佐助は耳朶に噛み付きながら、好きだよ、と繰り返した。云いながらも、幸村の片足を持ち上げる。

「ごめんね、あんまり可愛くて。始めてだものね、怖くなるよね」
「な…――ッ」
「っていうか、俺様、そんなに余裕なくてさ」
「余裕?」

 片足を持ち上げると、佐助はその間に自分の身体を滑り込ませる。はふはふと息を乱す幸村は、小首を傾げて見せた。

「ほら、手、貸してみて」

 幸村の手を掴んで佐助は自分の下肢へと触れさせる。すると、ぼん、と火を吹きそうな勢いで幸村が真っ赤になり――首元まで紅くなっていた――瞳を大きく見開いた。

「解るよね?もう我慢できなくて…」

 ――ごめんね。

 情けないとは想いながらも、幸村相手に自制なんて聞かない。幸村は握り込まされた佐助の陰茎を手にしながら、泣き出しそうになっていた。

 ――しゅる。

「――っん、旦那?」

 幸村は首を起して、両手で佐助の陰茎を握り込むと、ゆるゆると動かし始めた。たどたどしい手の動きでも、それが佐助がしていたのをなぞっていると知れる。

 ――やばいッ!

 ずん、と余計に腰が重くなってくる。佐助は眉根を寄せて刺激に耐えていると、汗を額に浮かべた幸村が見上げてきた。

「某も…教えてくれるのなら」
「だあああああ、そういう事は駄目!後でね!」

 ――今は旦那を気持ちよくさせたいの!

 ばっと手首を掴み上げて引き剥がすと、残念そうに幸村が唇を尖らせたが、それを観ないことにして、ぐい、と片足を持ち上げた。

 ――ぐに。

「…っひ」

 濡れたままの指先を滑らせて、幸村の後孔に触れさせる。そのまま中指を潜り込ませせると、詰めた――息を飲む声が幸村の口から飛び出した。

 ――ぬ、ぬく…ぬちゅ、ぬちゅ

 滴ってきた先走りと唾液で湿っていた後孔に指を何度も突き挿れていく。滑りが足りないと気付くと、ばたばたと手を伸ばして枕元に置いてあった――元々狭い部屋だ、物は手の届くところに置いてある――軟膏を取り出して塗り込んでいった。

「これ、辛い?」
「だ、大丈夫…――っ」

 息を詰めながら幸村が答える。一本、二本、と指を増やして内壁を擦っていくと、一瞬幸村の身体が大きく跳ねた。

「うぁッ!」
「あ、此処だね?」
「や、やだ…――っ」

 ――ぐり

 確認するように同じ所を指先ですると、再びびくりと大きく跳ねる。

 ――すっごい感じやすい。

 観ていても想うが、終始震える幸村が可愛くてならない。佐助は、ごく、と咽喉を鳴らすと幸村の両足を持ち上げた。
 まだ余韻で、瞳をぱちぱちと瞬いている幸村に、大きく息吸って、と告げる。

「――っひ、んっ」
「息、止めないで」

 ――ぐ、ぐぐ

 じわじわと瞳から涙を流しながら、幸村が身体を硬くする。ぱくぱくと動く口をみながら、佐助が腰を進めていくと、幸村がしがみ付いてきた。

「っく、ぅ、んん…――」
「痛い、よね?ごめん、旦那…」

 ――ぎりり

 びり、と肩先に強い痛みを感じて見ると、佐助の肩に幸村の指先が食い込んでいる。挿入の痛みに耐えているのが解るが、どうしても止める気にはなれなかった。

 ――もう少し。

 くん、と咽喉を鳴らしながら、強く腰を勧めると、やっと全て収まった。はあはあ、と呼吸を乱しながら見下ろすと、幸村がぼろぼろと涙を流していた。

「ふ、っぅ、――……っう」
「泣かないで」

 指先と、唇で、幸村の涙を掬い上げる。幸村はしがみ付く腕から力を抜いて――佐助のキスに気付くと、濡れた瞳を開いた。

「は、は……――あつい」
「え…――」

 腕を佐助の首にかけたり、掌で佐助の肌にぺたぺたと触れてくる。はあはあ、と互いに呼吸が荒いのは仕方ない。

「人とは、こんなにも…――あつい、のでござるか」

 ――安心するでござる。

 熱に浮かされたかのように、紅く色付いた肌が、濡れた瞳が、佐助に突き刺さる。幸村が、ほっと吐息を吐くと、佐助はずるずると胸元に上半身を織り込んだ。

「やだなぁ…――もう、旦那」
「佐助…――んっ」
「旦那も、すっごく熱いよ」

 ――まるで南国にいるみたい。

 幸村の耳朶にそう吹きかけると、後は緩急を付けながら腰を進めていく。強く彼の身体を抱き締めながら、このまま溶け合ってしまいたいとさえ想った。
 二人ともただ夢中になって、互いの身体を沈めあうことしか出来なかった。







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