お花見に行こう6




 ざあ、ざあ、と桜がざわめき出す。昼間よりも夜の方が、余計に彼ららしく身体を伸ばしているような気がしてしまう。慶次は長くなった陽に溜息をついていた。すると政宗がいそいそと帰り支度を始める。声をかけようとすると、政宗が器用な手つきで慶次のエプロンを外してしまった。

「慶次、もう今日は閉店だッ!」
「え…でも」
「片付けは市とかすがに任せてあるんだぜ?」

 この展開は何だろうか、と慶次が口を開き始めた瞬間、ばたばたと元親と小十郎が駆け込んでくるのが見えた。そして挨拶もそぞろに急に元親に両腕をつかまれた。

「慶次、覚悟!」
「え…ええええええええええ?!!」

 ――がちゃんッ。

 見ると両手首におもちゃの手錠が掛けられてしまっている。しかも顔を上げるとニット帽を被せられる。がばりと深く被せられてしまい、視界が利かない。慶次がジタバタとしている間に、元親が軽々と慶次を持ち上げた。

「よっしゃ、大漁ッ!行くぜ、野郎共っ!」
「おお――ッ!」
「いってらっしゃーい!」

 元親の声に合わせて、政宗と元就、それに幸村の声が響く。それによくよく聞いてみれば店の花達まで歓声を上げている始末だ。何が何だか解らないが抱えられるままに慶次が連れ去られてく。
 そしてどさりと下ろされた先はどうやら車のようだった。中から小十郎の声が響く。

「よし、乗れ!直ぐに出すぞッ」
「え?ええええええ?」
「いいから、騙されたと思ってついてきやがれ」

 どさん、と後部座席に放り込まれ、その横に元親が乗り込む。ばたん、とドアの閉まる音がしたが、それはたぶん政宗が助手席に乗った音だろう。もぞもぞと動いて慶次は身を捩った。両手が自由にならないのと、目隠し代わりのニット帽で辺りを見ることは出来ない。声から推測するに、此処にいるのは花の精の三匹と、小十郎と元親だろう。

「元親?片倉さん?」

 遠心力で動く車の動きに任せて、慶次が寝転がると、ふわり、と目元を隠すように大きな手が下りてくる。

「前田の、四の五の言わず、ついて参れ」
「元就?元就でしょ、その声」
「よう解ったな、前田。その通りよ」

 ぺちぺち、と小さな手が頬に触れる。更に笑う元親の声、それから小さな幸村の手の感触が慶次の頬に触れてくる。

「小十郎、あっちには佐助だけか?」
「そ。モノは全部置いてきてるからな」
「そっか…」

 車の動く音に紛れて、小声でこそこそと話す政宗と小十郎の声が聞こえる。耳を側立てていると、元親が「腹減ってねぇか?」と含み笑いをしてきた。

「もう…何観ても驚かないよ。だからさ、この目隠し取って…」
「それは出来ねぇ相談って奴だ。とりあえず大人しくしてろや」

 そうそう、と元就の頷く声が後を引く。慶次は少しばかり胸を高鳴らせつつ、溜息をついていった。






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