お花見に行こう4




 待ち合わせの駅前のカフェレストランに入ると、政宗は肩にかけたリュックから携帯を取り出した。一人で動くようになってから小十郎が買ってくれたものだった。回りをきょろきょろと見回していると、ひらり、と手が上がった。
 政宗が気付いてそのテーブルに向うと、今手を上げていた佐助が、さっと小十郎の横を勧めてきた。政宗は素直に小十郎の隣に座ると、ぴた、と腕をくっつけて「疲れた」と溜息をついていく。
だが政宗の疲労など気にせずに、元親がはす向かいから身を乗り出してきた。

「慶次の様子どうだった?」
「Ah?まあ…相変わらず、ってとこか」

 ――店の繁盛っぷりは変わらねぇよ

 政宗はからからと笑いながらメニューに手を伸ばす。小十郎が空かさず側にあったメニュー表を渡すと「軽いものにしておけ」と付け加えていく。紅茶を口に運びながら、目の前のプリンアラモードからさくらんぼを取って佐助が首を傾げる。

「そうじゃなくて。桜、嫌いなのかな」
「違うと思うぜ」
「違う?」

 メニューから視線を外して佐助の方を向きながら、政宗は淡々と応えた。佐助の手元ではプリン攻略に掛かる幸村がいる。会い買わず口元にクリームをつけて、頬をふっくりと膨らませている。

「あいつは…桜が嫌いなんかじゃなくて、好きだから…だから、辛くなるんだろうよ」
「――?」

 政宗は其処までいうと、隣の小十郎に「これがいい」とメニュー表を指差していく。元親と佐助は顔を見合わせながら、ううむ、と唸っていった。

「ところで花見は弁当持ってくのか?」

 ――何なら買って行ってもいいし。

 政宗から注文を受け取ってから、小十郎が手を上げて店員を呼ぶ。ミックスサンドを頼んでいる隣から、政宗が身を乗り出して問いかけてきた。ふわり、と動くたびに揺れる髪が、光をうけて青く輝くように見えた。一瞬、瞬きをしてから、元親が気を取り直して答えた。

「も…勿論。とりあえず佐助が場所取りな」
「解ってますよ」
「某も心して参りますッ!」

 佐助の手元で、プリンを半分崩した幸村が、小さな手にスプーンを抱えて吼える。それを政宗が手を伸ばして、ぴん、と跳ねると「ふぎゃあ」と声をあげて転がった。
 佐助の隣で元親が自分の方を指差して続ける。

「で、俺が酒担当」
「びーるばかり買うでないぞ。腹が出ても知らぬからな」
「元就…手前ぇって奴は…」

 元親の皿にはフライドポテトがある。それをむぐむぐと口に入れていた元就がここぞとばかりに瞳を光らせた。舌打ちする元親が、元就の手にしていたポテトを奪い取ると、元就は「姑息な」と地団駄を踏んでいく。そんな元就の頭を指先でぐりぐりと撫でながら、元親は顎を上向きにして小十郎の方を指し示した。

「それじゃあ、一通りの弁当は片倉さん?」
「おう、任せとけ」
「俺も手伝うぜ!」

 ぱあ、と表情を華やかせて政宗が胸を叩く。だが空かさず小十郎が突っ込んだ。

「政宗、お前は駄目だ」
「What?何でだよ!俺だって、握り飯くらいは作れる…」

 不満に唇を尖らせて小十郎を振り仰ごうとした政宗に、さらり、と視線を流して小十郎は首を振った。

「お前、炊き立ての飯で手を火傷したらどうするんだ」
「小十郎…」
「俺はそんな事はさせられねぇからな」

 言い様に小十郎は、ひょい、と政宗の手を取った。そして指先を見て「荒れてきてるな」と呟いた。花屋の仕事は水を使いもする、刺に引っかかることもある、荒れるのは仕方ない。指先を撫でられながら、勢い無くそれでも政宗は小さく不満を述べた。

「…でも、何かしら手伝わせろよ」
「考えておく」

 ぽん、と政宗の頭の上に手を乗せると、ほわ、と政宗は眦に朱を上らせた。少しだけ困ったように俯くと、タイミングよくミックスサンドが運ばれてきた。

「つか、聞いたか?佐助」
「聞きましたよ〜、主任」

 小十郎と政宗を前にして、こそこそ、と佐助と元親が耳打ちしあう。言い方はどうみてもオバサンのようだ。にやにやしながら元親が政宗の皿からハムサンドを取り上げる。

「随分と政宗を大事にしてんだな、片倉さん」
「そりゃ、政宗は綺麗な子だけどさぁ…」

 佐助は頬杖をついてホットココアを口元に向けた。それと同時にテーブルの上で幸村がぴょんぴょんと飛び跳ねてみせる。

「佐助殿ッ!!!某とて、実体になればッ」
「我とて咲いた暁には、そこらの輩など目に付かぬくらい美麗よ」

 元就にいたっては、小さな手で元親の腕を、ぎゅう、と抓っていた。地味に痛みが走るのか、元親が「いてぇッ!」と声を上げた。

「――張り合ってやがる」
「皆、自分が一番だと思ってるからな。俺だってそうだぜ?小十郎。You see?」

 そんな彼らを眺めながら、玉子サンドに齧りついて政宗は小十郎に目配せする。小十郎は前の彼らに気付かれないように、そっと政宗の肩を自分の方へと引き寄せていった。






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