睦まじく祝う月





 さて初日の出を見ながら、我が日輪に向って誓いを立てていると、隣で元親と前田がぼそりとこんな事を話し始めておった。

「やっぱりちょっとは冬の遊びしてぇなぁ…」

 ざざーん、と足元には波濤が打ち寄せておってな。朝方の外気が余計に寒く感じられるというのに、元親は首を竦めながら言っていた。

「冬の遊びぃ?スケートとか、スキーとか?」
「それだ、スキーッ!」

 前田が長い髪をマフラー代わりに首に巻きつけ始めるくらいに寒いというのに、元親は一言で嬉しそうに声をあげておった。
 鼻の頭が真っ赤になっておってな、少々…可愛いと思ったな。

「スキー行こうぜッ。どうせ物はレンタルで何とかなるし。慶次、お前今日暇?」
「え…ちょ、まさか今日行くの?」
「当たり前だッ。ちょっと寝たら出発しようぜ」

 が、と元親はその場に立ち上がりおった。銀色の髪が、朝日に透けて、きらきらとしておって、飴細工のようだとか思ったが我は口にはせなんだ。
 すっかり我の存在を忘れおって…無邪気にはしゃぐ姿に我は自身の目を疑うしかなかった。しかしこいつは本当に決断だけは早い。

「善は急げだぜ。何時くらいがいい?迎えに行く」
「え、えええ?まさか車?」

 前田が驚いて肩を竦めながら見上げる。すると元親は一瞬考えてから、ぽつり、と言ってのけた。

「――疲れること考えて、新幹線の方が良いか?」

 まあ、その後は押して知るべしと言おうか。早々に自宅に帰ったかと思うと、元親は旅行準備を整えて――しかも旅館まで押さえてしまった。

「おい、元親…我は留守番か?」
「あ?何言ってんだよ」

 ――置いていくなんて言ってないだろ?

 元親は欠伸を噛み殺しながら、ぶるりと身体を震わせると布団の中にもぐっていく。我もぬくぬくしてくると眠くなってきて、ふあ、と欠伸が出てくるが、ここでは耐えて見せた。枕元に行って座ると、雪山に我を連れて行くという元親に言ってやった。

「しかし我は雪山に行こうとも、することなど在りはせぬ」
「在るかないかは行ってからのお楽しみだ。案外にお前気に入るかもよ?」

 ――何ならソリでも作ってやろうか?

 布団に入りながら元親はそんな愚弄を繰り広げてきた。我が怒りに任せて頬を打ち付けても、次の瞬間には寝息しか聞こえなかった。
 で、雪山がどうだったか…それはちょっと待て。この水を飲んでからで良いか?
 流石に話しつかれた。……ふぅ。











 で、どうだったか――政宗よ、焦るでない。順を追って話しておろうが。
 当日の昼過ぎくらいに元親は支度をして駅に到着しておった。ボストンバックをひとつと云う軽装だ――その軽装を裏切るように、我を竹籠にいれおって――そうなのだ、元親は我の鉢ごともっていきおった!

「元親…その、元就を連れてくるのが解るんだけど」
「あんまり本体から離すのも悪いかと思ってよ」
「うん…まぁいいか。ってか厳重だね」

 ――フリースで巻いたの?

 慶次が我の鉢を覗き込んで言っておった。元親は鉢植えの回りをぐるぐるにフリースで巻き込んで、葉にはカバーをかけておってなぁ。新幹線の中では荷台に乗せられてしもうたが、まあ、暖かかった。
 そして雪山よ。
 見事、見事な銀世界よッ!

「うおおお、寒いッ!」
「膝とか歯とかカチカチ鳴るねぇ」

 げれんでとやらに着くと、二人ともがたがたと身体を震わせておったが、いそいそと支度をしおってな。元親は我をウェアの中に――再びフリースでぐるぐる巻きにされたが――入れながら、滑走しおった。

 早いッ!なんと言う速さ…ッ!

 我は感動するしか術が無くてなぁ…しかも元親は器用なのだ。あっという間にスキーもスノーボードとやらもこなしてしまいおって、前田が転んで雪だるまになっても涼しい顔をしておった。いやはや、ものの見事に器用な男よ。

「元就ぃ、どうだ?楽しいだろう」
「楽しいというより目新しいわ。何ぞ、雪というのはこんなに積もるものなのだな」
「ああ。一面の銀世界ってのは、圧巻だろう?」

 ――お前、こういう自然見るの好きそうだったからさ。

 元親は我をポケットにいれたままで滑走する。我は前髪が煽られて、額が冷えるのを感じて居ったが、本体は旅館の暖かいところにあるのでな、まあ…これくらいは何ともない。
 それに冷えた空気とは裏腹に、元親の身体は温かかった。

「それに、空気が綺麗だと、太陽も綺麗に見えるぜ?」
「何と、それは真か?」
「夕陽も、朝焼けも、雪に陽の影を落としていくんだ。綺麗だぜ〜」

 見上げながら言うと、元親は無邪気な子どもみたいな顔で言い居った。こやつの時折みせる、こんな気遣いとかに我はどうやら弱いらしい…あ、いや…そんな感じで堪能してきたぞ。
 そうだな、皆で行けばもっと楽しいやもしれぬな。おい、元親、元親ッ!

 ――……。

 仕事ばかりではなく我の声を聞けぃッ!
 後でいい?そうだな、では次は政宗よ。お主はどんな正月を送ったのか披露するがいい。




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