睦まじく祝う月





 新年も三が日を過ぎると仕事始めとなる。まだ学生は休みだからか、街中はそれでもいつもより人が少ないように思われた。
 出勤する佐助に着いていくのも変わらない。幸村が再び花期を終えたのは2日の深夜で、それからはまたこの小さな姿になっている。だが外の寒さは非ではなく、時折佐助に着いて出勤するのも気が乗らないような気がしてしまう。

「佐助殿ぉ、寒いでござる」
「そう言うと思ってたよ。ほら、この上に乗るといいよ」
「何でござるか?」

 見ればタオルがデスクの上に置かれている。だがそれも年末から変わらないが、いつもよりも高さがあるような気がした。
 小首を傾げながらそのタオルに乗り上げると、足元からほわほわと暖かさがやってくる。

「ふおおおおおおッ!」

 足元が暖かいと気付いて幸村が、ばたん、とタオルに倒れこむ。すると身体の表面が全て暖かくなってきた。あまりの暖かさに、ぐりぐりと顔をタオルに押し付けると、その仕種を見ながら佐助がPCを起動させる。

「タオルの下に、湯たんぽ置いてるんだ。暖かいでしょ?」
「暖かいでござるぅぅぅ」
「旦那、ごめんねぇ」
「――…?」

 画面をみたままで佐助が不意に声を落とす。がば、と顔だけを起すと俯きがちに佐助が此方を窺っていた。

「俺様の不注意で、鉢の下の葉…枯らしちゃって」
「気にしなくても大丈夫でござるよぅ。根が駄目になった訳ではござらん」

 花期になっていて鉢に気が回りきらなかった、と佐助は言っていた。ぽん、と小さな姿に戻った時に違和感を感じた幸村が、自分の鉢の中で一枚の葉が枯れていることに気付いた。

 ――寒さにやられ申した。

 しゅん、と項垂れる幸村よりも、佐助の方が青ざめていたのを覚えている。寒さに弱い幸村の品種にとって、冬はデリケートな時期でもあるのだ。

「俺、旦那を枯らしたら…旦那が側から居なくなったら…」

 仕事をしながら、佐助が囁く。のそりと幸村は身体を起こして、ととと、と佐助の元にいくと、両腕を伸ばして見せた。すると佐助は少しだけ前屈みに上体を落としてくる。
 近くなった佐助の頬に、小さな手を触れさせて、ひたり、と額を付ける。そして幸村は「大丈夫でござるよ」と佐助に触れながら言った。

「Hey!幸村、こっち来いよッ」

 ぺったりと幸村が佐助にくっ付いていると、政宗の声が呼んで来た。ぴん、と後ろの髪を動かして振り返ると、佐助が「行っておいで」と頭を撫でてくれる。幸村はぺこりと一礼をしてから、ひょい、ひょい、と足場を蹴って政宗たちの下に向って行った。










 幸村が飛び込んでいった先は、元親のデスクだ――もはや其処は彼らの溜まり場のようになっている。出勤してくる彼らに着いてくると、大抵其処で時間を費やす。
 しかも暖房の近くの席という事もあって、かなり暖かい。

「呼び申したか?」
「OH!なぁなぁ、お前正月何してた?」

 ちょこんと胡坐をかいたままの政宗が身を乗り出してくる――といっても花の精の彼らは、10cmそこそこの大きさしかない。
 ころん、とした後姿を晒して政宗が嬉しそうに聞いてくる。幸村はその横に、元就に差し出された座布団――実はこれも元親の手作りだ――に座りこみながら応える。

「某は…日がな、佐助殿と一緒におりました」
「ああん?そりゃ解ってる。何をしてたか、って聞いてんだよ」
「何…――」

 突っ込まれてこの年末を思い起こす。

 ――大掃除して、初詣行って、お風呂に入って…

 其処まで思いついて、ぼん、と顔から火を噴きそうになる。柚子湯に入ったのは気持ちよかったが、其処には勿論佐助も居て、一緒に入ってしまったし、初詣の後は乗せられるままに身体を重ねてしまっている。年末だけといわず、年明けからなんとも、まったり、べったりした休みだった。
幸村は途端に小さな手で顔を覆うと、ぴぎゃあ、と声を上げていく。

「破廉恥でござるぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁあああああああッ!!」
「おい、幸村…?」
「うおおおお、某、某、なんと…何と破廉恥なぁぁぁッ!!」
「――…駄目だ、こりゃ」

 幸村はゴロゴロとその場で転げまわる。彼のそんな様子を見やって、政宗は小首を傾げた。とりあえず興奮収まらない幸村を他所に、今度は元就に話を降る。

「元就は何をしてた…?」
「我か?」
「うん、年末、楽しいことあったか?」
「あった…ような」

 ほう、と溜息を付きながら元就が元親を見上げる。元親は構わずに図面を見ながらチェックし、そのまま電話を手に取った。ばりばりに仕事している時の元親は、回りに一切視線もくべない。

「まあ…それなりにはな」
「何したんだよ?」
「雪をな…」
「雪?」
「雪を見に行って、雪滑りに興じておった。前田も一緒にな」
「WAOッ!」

 政宗が瞳をきらきらと輝かせて身を乗り出す。その後ろで只管、幸村はごろごろと転げまわっていた。
 元就は、こほん、と咳払いをすると年末の様子を語り始めていった。




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