Hot,warm,and sweet Christsmas:イヴのお話





 花屋に着いてから小十郎と佐助が入り口付近に向うと、イルミネーションがきらきらと美しく光っていた。色取り取りのそれを見ながら、慶次の店だなぁと納得してしまう。

「ああ…――やはりイイッ!!!夜になると一層良いですねッ。くくくく…」
「――――…?」

 何処からともなく聞こえてきた声に、ぴたりと小十郎が足を止める。辺りを見回してみると、花壇の中の弦バラに、銀色の髪の花の精が見えた。そして彼は楽しそうに電飾の上を選んで飛び込んでいく。

「なんという熱さ…これです、私が求めていたのは…ッ!」
「おい…なんだアレは?」

 眉根を寄せながら呟くと、小十郎のマフラーに絡んでいた政宗が首を飛び出させてから、うげ、と再びマフラーの中に頭を埋めた。

「光秀か…また今宵は一層面妖な…」
「光秀?」

 答えることを拒否した政宗とは対照的に、肩に乗っていた元就が口元に手を当てて眉を潜める。ひらりと長い袖がゆらゆらとしている。

「あれは弦バラの精よ。ナルシストでな…少々、面妖な輩よ。気にするな、片倉」
「あ…ああ、そうする」
「因みにや奴は油断していると棘を刺そうとしてくるからな」

 ――なんて厄介な奴。

 佐助が小十郎の後ろから続きながら毒づいた。電飾に絡まったり、上に乗ったりしている光秀は興に乗っており、此方の気配に気付く様子はなかった。

 ――からららん。

 軽快な音を立てて中に入り込むと、今度は元親が振り返った。そして元親の傍らに見たことのある青年がいる。

「あ――――ッ!」

 ぴょん、と作業台の上に飛び込んだ政宗が大声を出す。そして急いで走りこむと、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。気付いて青年が手を伸ばすと、彼の掌に乗りながら政宗が地団駄を踏む。

「幸村ッ、手前ぇ、何花期になってんだよッ!」
「す…すみませぬ〜」
「これじゃあ、計画が台無しじゃねぇかッ」
「某も予想しておりませんで」

 ――不可抗力でござるよぅ。

 掌に政宗を載せた幸村が、困ったように眉根を下げた。そうしている内に幸村の背後に佐助が近づき、肩に顎先を乗せる。

「ごめんね、政宗。俺様の企みなんだ」
「Shit!仕方ねぇ…おい、お前らッ!」

 ――特訓だッ!

 途端に政宗はまだ形になっていないサボテンの精たちを振り返って、走りこんでいった。それを見送りながら小十郎が近づき、幸村の頭を撫でた。

「お前、何度目の花期だ?」
「数えておりませんが…確か、四回目?」
「――相変わらず可愛いなぁ」
「ちょ…片倉さんッ!俺のだからねッ」
「獲らねぇよ。噛み付くな、猿飛」

 幸村の背後から腕を回して自分の胸に引き寄せながら佐助が叫ぶ。そうしている間に、元就が作業台の上に立ち尽くしていた。

「おい、どうした、元就…?」
「元親……」

 気付いて元親が作業台に寄り掛かって声をかけると、うる、と視界を潤ませて元就がふるふると震え始める。

 ――えッ!

 そんな元就は皆見たことがなかった。佐助も小十郎も、幸村や政宗までもが驚いて視線を向ける。そうこうしている間に、元就が俯いてしまう。

「ばぁか…俺のところに走りこんで来いよな」
「五月蝿いッ!」

 あはは、と笑い飛ばす元親が、皆の視線から庇うように掌に載せると、自分の胸元に引き寄せる。ふるふると震える背中を見つめていると、少しでも離れてしまった事に、元就でも不安を覚えていたのだと気付かされる。
 今まで、幸村や政宗は好奇心に任せて、彼らの家で留守番していることもあったが、元就は殆どを元親の側から離れていなかった。

「あの〜、盛り上がっているところ悪いんだけど…」

 奥から慶次の申し訳なさそうな声が響く。首を廻らせると、其処には髪に白と赤のポンポンをつけた慶次が、大きなローストチキンを持って立っていた。

「冷めちゃうから、食べようよ。ね?」

 にこりと慶次が微笑むと、皆一様に顔を見合わせてから、ばたばたと作業台の側に近づいていった。









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