舞う花びら、その先に 小十郎たちが旅立った後に、政宗は暫く室内からぼんやりと庭を眺めていた。だがあれこれと幸村が顔を見せにくるので、静かに考えることも出来ない。 「おい、忍」 「――俺のこと?」 庭先で日課の鍛錬に勤しむ幸村を眺めながら、それを一緒に観ていた佐助に声をかける。佐助は政宗の隣に座りながら、彼の動向を見守っていた。 「煙管、ねぇか?」 「あるけど…今は駄目ですよ」 「Why…?」 「旦那が嫌いなんでね。煙草」 「へぇ…ってことは、手前ぇはやれるクチか」 「まぁねぇ…これでも忍ですから。一通り、薬でも、酒でも…」 ――毒、でも。 佐助はそういうと、ふふ、と笑って見せた。そして政宗に話を向けてくる。 「そういえば奥州は、黒脛巾?でしたっけ、根の者は」 「――ああ、あんまり俺は使わねぇが」 ――そこらは全て家臣に任せてる。 政宗は手持ち無沙汰、口寂しい感じがして、近くにおいてあった茶菓子に手を伸ばした。干菓子が置かれていた皿から、一つを摘み上げ口に放り込む。 「へえ…あのさ、これ…違ってたら申し訳ないんだけど」 「ん?」 ――あんた、女? 佐助がさり気なく聞いてくる。政宗は、こり、と口の中の干菓子を噛み砕いて咽喉に流す。そして手元においてあった刀にさり気なく指先を触れさせたまま、横の佐助を窺った。 「どうしてそう思う?」 「勘…――かな?旦那はともかく、他の奴らも滅多に気付かないだろうけど。俺様、一応忍なのよ。骨格とか見ると…ね。どうしても」 ――女かな、ってね。 佐助はそういうと、にこ、と笑みを見せてきた。政宗は手に触れさせていた愛刀から、指先を離すと腕を組んだ。そして、くくく、と咽喉の奥から搾り出すようにして笑う。 「誰にも言うんじゃねぇぞ」 「言わないさぁ、言って殺されるのは嬉しくないしね。あんたが出来なくても、右目の旦那がやりそうだし」 「賢明な判断だ」 縁側で二人で話し合っていると、ふいに幸村が此方に向かってきた。顎先から、首筋まで、汗が滴り落ちて肌が光って見える。それを見上げていると、佐助が甲斐甲斐しく手ぬぐいを差し出した。 「二人で何の話でござるか」 「ああ、俺が女だって話」 「な…――ッ、さ、佐助ッ!」 内容が内容だけに幸村が眼を大きく見開いて――焦りながら佐助に向き合う。掴みかかりそうな勢いだったが、佐助は座ったままで手をぱたぱたと振って見せた。 「大丈夫、言わないからさぁ」 「た、他言無用でござるぞッ」 「Hey,お前が取り乱してどうすんだよ」 口篭る幸村に政宗が苦笑する。面白そうに、はは、と声を出して笑うと幸村が此方をじっと見て固まった。 「どうした?」 「いや…あの、政宗殿」 「――――…?」 しどろもどろになりつつ、幸村が言い澱む。手に取るように変化する表情に、不器用だな、と思いつつも彼の言葉を待った。すると幸村は頬を赤らめながら、消え入りそうな声を絞り出す。 「貴殿、やはり…麗しく…」 「はあ?寝言言ってんじゃねぇぞ、真田ッ」 政宗は途端に刀を手に立ち上がり、刃先を幸村に向ける。それと同時に佐助が間に割って入って、まあまあ、と宥めにかかっていった。 →6 to be continued・・・ |