Cherry coke days 幸村のクラスはお化け屋敷をすることになった。その為に暗幕とお化け役とが入り乱れての準備だ。周りで迷路のように組み立てられる椅子や机を見ながら、皆が頃合を見計りながらそれぞれ休憩を取る。勿論、幸村もその一人で、作業のめどが立ったところで昼飯にしようと弁当を取り出した。机も椅子も取っ払われて、暗幕の隅っこで座りながら食べるのは珍しく、何だかそれすらも愉しく感じる。 ――ばさ。 幸村が弁当の袋を取り出すのと同時くらいに、暗幕を捲って一人の生徒が顔を出した。細面に、静かな雰囲気を携えている生徒だ。見知った顔に幸村は席を勧めた――と言っても自分の向かい側の小さなスペースだが、其処に手招く。 「石田殿、これから昼飯でござるか。ご一緒に如何でござろう」 「…ああ、では」 ごそごそと石田三成は自分のバックからコンビニの袋を取り出した。だがそれを見て幸村は眉根を寄せた。 出てきたのはゼリー飲料と栄養補助食のクッキーだ。 「石田殿…よもやそれが昼飯とは」 「そうだが、何か」 「何かではござらん。しっかりと栄養は取らなくては!だからそんなに顔色がよろしくないのではないのか」 「顔色は元々だ。放っておけ」 「いいや、放って置けませぬッ」 目にした食べ物に幸村は拳を握り締める。だが三成は軽くゼリー飲料の蓋を開けると、ずずず、と吸い込み始める。その間にも幸村は自分の弁当を取り出した――すると今度は三成が瞳を見開いた。 「真田…それ、全部食うのか」 「当たり前でござろう。米粒ひとつとて残しませぬぞ!」 ――なんたって佐助の手作りでござるし! 幸村が取り出したのは重箱だ。しかも三段の重箱にはびっしりと食材が詰め込まれている。その中で幸村は蓋にひょいひょいと取り分け始める。一段目にびっしりと入っていた栗おこわ、それから二段目にあった筑前煮や卵焼き、鶏の唐揚げやなます、三段目にはりんごや葡萄といった果物――それらを取り分けると、幸村はずいと前に突き出した。 「何だ…?」 「食されよ」 「しかし…それはお前の分だろう?」 「今更でござろう?今しがた知り合った間柄でもなし、遠慮は無用にござる。それに佐助が手づから作ったものばかり、美味でござるよ」 幸村はにこにこしながら三成に勧めた。三成はじっと蓋の上の取り分けられた食べ物をみつめるだけなので、強引にも幸村が蓋をそのまま持たせた。予備に持ってきていた箸をさらに握らせると、彼は唖然とそれを見つめていく。 だが幸村は構わずに自分の分の弁当を掻きこみ始めると、三成は幸村と蓋とを何度か見つめ、小さく「頂こう」と呟いてから箸をつけた。 「どうでござろうか…」 「――…っ」 幸村が一応、三成に感想を求めると、彼は一瞬固まっていた表情を、ふ、と緩めた。もそもそと食べる姿は変化がないようだが、明らかに彼は感動しているようだった。 「良かった、お口に合ったようで」 「…ん、うまい…な」 ぱあ、と少しだけ目尻を染ながら三成が呟く。まるで自分が褒められたようで幸村は「そうでござろう!」と満面の笑みを浮べた。 ――ばさッ! 「あ、こんな処にいたか!」 「おお、徳川殿」 「…いえやす…――」 豪快に暗幕を拓いたのは徳川家康だった。がっちりとした体格で、手にはカツ丼と焼きそばパンを持っている。 「おう、真田幸村じゃねぇか。儂も此処で昼飯を食ってよいか」 「家康、貴様…隣のクラスであろうが」 「硬いこと言うな、三成。お、美味そうだのう」 ――ひょい。 家康はどっかりと三成の隣に座ると、三成の手にあった鶏の唐揚げをひょいと取り上げた。そしてそのまま、ばく、と食べてしまう。 「…――ッッ」 「おお、これは上手いな」 「そうでござろう!某も佐助の作ったこの鶏の唐揚げは美味しいと思いまする。しっかりと味をしみこませておりまして…石田殿?」 家康が指先をぺろりと舐め取ると、隣で三成が胸倉を掴みこんできた。 「い〜え〜や〜すぅぅぅッッッ、貴様――ぁぁ」 「あ、もしかして好物は後に取っておくタイプか?」 「返せぇぇぇ!」 「石田殿、まだまだあります故、落ち着かれよッ!」 幸村が二人の間に立ちながら、重箱を勧める。すると三成はすとんと座り込んで、再びもそもそと食べ始めた。それを眺めながら、幸村も家康もまた腹を満たすべく、食事に集中して行った。 → 75 101118/110505 up |