Cherry coke days



「離せ、離さぬか!」
「ちょっとだけ大人しくしろや、元就ッ」

 とんとん、と階段を上り、中二階に出ると元親は元就を下ろした。日陰に下ろすと、その場に元親もどっかりと座り込む。そして元就にも「座れ」と促がした。

「勝手に賞品などと…我を愚弄するにも程があろう」
「だってよ、お前不機嫌そうだったし」
「機嫌も悪くなるわッ」
「腹、減ってるんじゃね?」
「な…」

 ――ぐぅぅぅぅぅぅぅ

 元親が飄々と見上げながら言うと、タイミングよく元就の腹の虫が鳴った。大音響を響かせた腹に、ぷ、と元親が噴出す。元就は居心地悪く頬に朱を上らせると、すとん、とその場に座り込んだ。

「ほれ、食えや」
「…頂くとしよう」
「箸、これな。あと茶もあるから」
「用意周到だな」
「お前の事だから…俺が知らないことはねぇよ」
「ほざくな、馬鹿者」

 微かに睨みつけながら元就は出されたお好み焼きを口に入れる。焼きソバとお好み焼き、それを交互にもくもくと食べ始めるのを見つめて、元親はそっと手を伸ばした。

「何だ?」

 頬に手を添えて、見上げてくる元就に顔を近づける。そして鼻先まで近づいてから、ふい、と顔を背けた――その間、元就はずっと目を見開いていた――視線が合うと、元親は彼の頬に頬を付けてから、ふい、と離れた。

「何だというのだ…」
「いやぁ、可愛いと思ってよ。キス、したくなったけど…お前食べてるとこだったって思って」
「意気地なしめ」
「え…――っ」

 元親があえて遠慮したというのに、元就は溜息と共にそんな事を呟く。そして口いっぱいにお好み焼きを頬張ると、くる、と元親に背を向けて食べ続けていく。

「元就…今の…――」
「食べごろを過ぎると何でも拙くなるものだ」
「それって…良いってこと?」
「…知らぬわ」

 もくもくと口を動かす元就の耳が赤い――それを眺めながら、元親は口元に笑みが浮かんでくるのを止められずに居た。そして元親は、ごろんと背後に倒れこむと、マジかよ、と呟いていった。





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