Cherry coke days 半兵衛に促がされるままに元親はクジの箱に手を突っ込んだ。そしてごそごそと動かす。 「あのよ、これ…クジ引いて、混ぜられたもの飲んで、それで三つとも味を判別できたら…何かあるのか?」 「賞品があるよ。秀吉先生お勧めカップ麺1ダース、それから…」 半兵衛がそこまで言うと、元親は半兵衛の鼻先に掌を突き出した。 「あー…そんなのはいらねぇや。俺が勝ったらちょっと元就を借りる、それでどうだ?」 「そんなことでいいのかい?」 「まぁ…な。よっと、ほれ。頼むぜ」 にしし、と口元を引き上げて笑う元親は、ちくちくと刺さってくる元就の視線に気付かない振りをしながらクジ箱から手を引き抜いた。 引き抜かれたクジを見つめて半兵衛は奥に回す。 その間に元親は元就の前に進み出てから、椅子を引き寄せて座り込んだ。すると不機嫌極まりない顔で元就は一瞥した。 「貴様、何を企んでおる?」 「いやぁ、元就ってば不機嫌そうだなーって思ってよ」 「当たり前だ。我をこのような事に使いおって」 「自動ミキサー役だもんな」 かかか、と咽喉を震わせながら笑う元親は、肘をついて元就の前に身を乗り出した。額に捲いていたタオルを今は首に引っ掛けている。汗で湿気た前髪がくるりと少しだけ癖を強くしている。 元就がじっと元親の顔を見つめていると、元親はちらりと動かすだけに留める。見詰め合うわけではないが、二人の間に拮抗した瞬間が生まれるような雰囲気が漂う。 ――とん。 「元就君、頼むよ」 半兵衛は二人の間にグラスを置く。見るだに既に少しだけ掻き混ぜられており、中身が何だか解らない。赤のような、蒼のような、黄色のような――そんなものがドロドロと混ざっている。 「元親、貴様、勝算はあるのか?」 「なけりゃ無いで何とかすらぁ」 「――浅薄よの」 く、と咽喉の奥を震わせてから元就がマドラーを動かし始める。すると覗き込むようにして幸村と政宗、慶次が近づいてきて背後に立つ。 「さあ、飲むがよい」 「よっしゃ、いっちょ男の本気見せたろか」 Tシャツだから袖は短い。それをたくし上げて肩まで引き上げると、元親はグラスに手をかけた。 「行け、元親ッ!当てろッ」 「元親殿、ご油断召されるな…ッ」 「いいぞー、元親―っ、アニキーィ」 背後で声援を飛ばすのを聞きながら、元親は鼻先をそれを持ち上げた。見る色は思い切り掻き混ぜられて黒くなっている。微かに泡まで立っているあたり、此処に入っていたのは炭酸だったのだろうかと予測は出来た。 「いくぜ…」 元親が言うと周りが、ごくり、と固唾を呑み始める。マドラーを手にしている元就でさえも睨みつけるようにして見上げていた。 ――ぐッ。 「――――…」 ぐぐぐ、と一気に飲み干した元親が、ダンッ、とグラスを元就の前に置く。そして眉根を寄せて口元に手を当てた。 「元親…?Hey、大丈夫か?」 政宗が気遣って聞くと、こくり、と頷く。その口元がもごもごと動いていた。 ごく、と微かに元親の咽喉が動く――そして、今度は「ううん」と唸るようにして味わっている――というか、今まで飲んできた者としてはそんなに長く口に入れていたいと思う味でもなかったから、それだけで元親に尊敬の念を起してしまう。 「元親殿…如何でござろう?」 幸村も政宗の傍らから見上げてくる。すると今度は口元に拳を当てて頷きながら、もう片方の手で幸村の頭をぐりぐりと撫でていく。 ――ごくん。 「――…大体、解った」 「マジかよ、元親ッ」 背後から身を乗り出したのは慶次だ。元親はこくこくと頷きながら、半兵衛を手招いた。 「グレープジュース、ブルーハワイのシロップ、それに大根おろしとポン酢」 「…当たりだよ、元親君」 半兵衛は肩を竦めて瞳を見開いた。流石に当てられるとは思っていなかったのか――今までの組み合わせよりは難易度が低かったようにも思えたのか、半兵衛は「仕方ないねぇ」と呟いた。 「うえぇぇ…大根おろしと混ざったシロップって…」 「変な味と云うか触感がよ、気持ち悪ぃのよ」 側で舌を出して慶次が呻く。元親は水をごくごくと飲み干し、うっし、と気合を入れた。そして座っている元就の腕を引っ張ると、ひょい、と抱えあげた。 「ちょ…貴様、何をするッ」 「そんな訳でよ、半兵衛、こいつ借りてくわ」 「仕方ないねぇ、全く…」 「ええい、離せッ!自分で歩けるわッ」 「お前は俺の賞品なんだから、ちょっとくらい付き合え」 「勝手に決め付ける出ないわ――ッ」 「煩せぇぇッ!黙って抱えられてろ、元就ッ」 「この痴れ者がぁぁッ!」 ぶつぶつと語る半兵衛を横目にしながら、元親は片腕で元就を抱え込んだ。ぎゃあぎゃあと騒ぐ元就は足で何度も元親の背中を打つ。慣れてる元親はそれをものともせずに抱えるだけだ。そして持ってきていた袋を手にすると、政宗達に釘を刺す。 「お前ら、早く食べに行けよ!無くなるぜ」 ――つか、佐助が待ってるんだからよ。 付け加えると、ぼん、と幸村の顔が真っ赤になった。だがそれを横目に見ながらも、元親はずかずかと――来た時と同様に歩いていく。 「なんか…嵐だね、ちかちゃんて…」 「まったくだぜ…」 慶次がぽつりと言うと、横から政宗も頷いた。その背後で一人真っ赤になりつつに悶えている幸村には、二人は関与せずに「次、行くか」と呟いていった。 → 69 100725/101006 up |