Cherry coke days:番外編





 花火を見てから部屋に戻ると、また同じように幸村と慶次がベッドをくっ付けていた。

 ――拒否権ってものは、とどのつまり何処にもねぇのか。

 これは云わば――慶次曰く「ボーイズトーク」をするという事だろう。政宗は躊躇うことなく、自分の領土へと飛び込んだ。ごそごそと布団に入っていくと、先程の気分が蘇ってきて、じわじわと胸の裡が熱くなってくる。

 ――片倉とキス、しちまった…

 自分の唇に指先を乗せてみる。そして、じたばたと足をばたつかせて行くと、布団がばふばふと動いた。

「とうッ!」
「政宗殿、危のうござるッ!」
「――――ッ」

 不意にベッドの足元から声が響く。政宗がハッとして身体を起こすと、ぼすん、と音を立てて慶次が飛び込んできていた。

「てめ…慶次ィッ!お前、自分の体格考えて飛び込め」

 ――俺を押し潰す気かよッ

 政宗が声を荒げると、あははは、と笑いながら慶次は自分の領土の方にあったクッションを抱え込んで、ごろごろと動き出す。その横で、一応は「失礼致す」と頭を下げてから幸村がベッドに乗り上げてくる。だがその手には大量のお菓子があった。
 クッションと枕を抱えて頭を寄せ合う。腹ばいになって、足をばたばたとさせながら、お菓子をつまんで転がる。これに後は――部屋でゲームができれば完璧だ、と思わずにはいられない。

「遂に片倉と付き合うんでしょ?」
「う、うん…ありがとうな、慶次」
「おめでとうござる」
「おう…あ、でも学校では秘密な」

 ――それは心得てます。

 ばふ、とクッションに頭を乗せて幸村が微笑む。あどけない少年の面影を弾く彼は、ころりと仰向けになり、自分の事のように嬉しそうに微笑んだ。

「本当にようござった。政宗殿の、その晴れやかなお顔を見れて、本当に」
「Thank you…」

 くしゃ、と上から幸村の額をなでると、また彼は嬉しそうに笑った。直ぐ下に弟が出来たみたいで、政宗は繰り返し幸村をなでていた。すると、肩を寄せて――ごろごろと慶次がぶつかってくる。

「でもさっき、本当はまた片倉に掴みかかりそうになっちゃったからなぁ」
「ごめんって。俺が紛らわしいことしてたから」

 政宗が広がっていたクッキーを口に入れて苦笑した。実はまだ眦には朱を残している――泣き腫らすと中々赤みが取れないものだ。

「そうだよ、政宗、また泣いてるんだもん。あいつに泣かされたのかと思って」
「空かさず止めに入った元親殿、グッジョブでござった」

 花火を見て、告白して、告白されて、キスして――そして、手を繋いで皆の元に戻った。だが政宗が小十郎の背中に隠れるようにして俯いていたせいで、一瞬慶次が小十郎に掴みかかろうとしたのだった。

 ――手、見てみろってッ!

 飛び掛ろうとした慶次を止めて、元親が促がした先では、隠れるようにして手を繋いでいる二人がいる。それで拳を振り上げずにすんだ。
 まだ政宗の胸のうちでは、先程の甘さが嘘のように渦巻いている。ふわふわとしていて、気を抜くと顔が笑ってしまうのだ。そんな政宗の様子を眺めて、慶次はごろりとクッションを抱えたままで仰向けに転がった。

「あー…じゃあ、後で片倉にこれ、言ってやろう」
「何だよ」

 足をばたつかせて、手を伸ばしてポッキーを咥える。すると幸村もまたポテトチップスに手を伸ばしていった。

「泣かせたら、殺してみせよう、小十郎」

 良く出来てるよね、と慶次は嬉しそうに笑う。政宗は彼の額にクッションを叩き付けた。

「――お前…馬鹿だろ?」
「ひっどいッ!友達思いって云ってよね!」

 がば、とクッションの下から慶次が顔を起して政宗の首根っこを掴む。暴れる政宗たちからお菓子を守ろうと腕を動かす幸村と、政宗に掴みかかる慶次――彼らを前にして政宗は、笑顔で笑いあっていった。





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:2009.11.11/100101 up