Cherry coke days





 今日は委員会があると元就は言っていた。頃合を見て元親が家の門の上に肘を組んで待っていると、程なくして元就が帰ってくる。だが声をかけても元就は答えずに背中をみせ、家の中に入っていこうとした。

「問題を先送りにしたくねぇんだけど」

 焦れて元親が言うと、元就は肩越しに振り返る。切れ長の瞳が、きらりと夕日を反射していた。

「何か問題があったか?」
 ――あくまですっとぼける気か。

 元就の態度に溜息しか出ない。先日、彼には「付き合っていない」と宣言されてしまっていた。ずっと幼な馴染みで、こんなに近くにいるのに、拒絶の言葉しかくれなかった元就に腹がたった。元親は右の口元を引き上げて、嘲笑うように言う。

「お向かいさん…てな返答だけはしてほしくないんだよな」
「今日はもう遅い、休め、元親」
「…そっち行っても良いか?」

 ――かたん。

 門を開けようとすると、元就は自宅のほうに一歩進む。そして背中を見せたまま、ぴしゃりと言った。

「良くない」
「何でだよ」

 ぶう、と膨れて聞くと、首を巡らせて元就が答える。その表情に、苛立ちがありありと見えていた。

「我は疲れている。貴様の戯言を聞く耳が無い」
「――ふぅん…」

 ――かたん。

 門を閉める音を立てると、元就があからさまに安堵の溜息をついた。そして背を向けた瞬間、元親は門の上に身体をひらりと踊らせ、通りを大またで飛び越える。

「元親…――ッ?」

 勢い良く元就の肩を掴むと、元就が驚いたように目を見開いた。その彼を後ろから強く抱きしめ、耳朶を甘噛みしてからその耳に囁いた。

「おやすみ、元就…」
「――――…ッッ」

 元就の手が動き、自身の耳を塞ごうとする。それを阻むように手首を掴み上げ、元親は「また明日な」と言うと、ぱっと手を離していった。それと同時に元就は逃げるように玄関の中に入った。

 ――ばたんッ。

 直に鍵をかけ、ドアに背中をつく。かすかに元親の家の門の音がして、元親が戻っていったことに胸をなでおろす。

「勝手なことを…」

 ――気付きたくない。

 元就は囁かれた耳元を手でぬぐうと、涙も出ていないのに目元を手の甲でぬぐっていった。





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Date:2009.06.28.Sun.14:07