Cherry coke days のんびりと砂利の上に座る元就の横に腰掛けると、元就は手にしていた西瓜の皮を紙皿の上に乗せた。もう一つの紙皿の上にはまだ食べていない西瓜が置かれている。元親はそれに手を伸ばすと、西瓜に齧り付いた。 ――しゃく。 もくもくと咀嚼を繰り返す間、横の元就が手を伸ばすことはなかった。だが彼は此方をじっと見ている――視線が痛いほど突き刺さってくる。 「何だよ、元就」 「いや…美味そうに食うものだと思ってな」 「それはお前だろ?」 ――ほら、食えよ。 元親がもう一つを手にとって元就に向ける。するとそのまま、元就は元親の手の上の西瓜に噛り付いた。 ――しゃく。 「美味そうに食うよなぁ、お前ってよ」 「我がか?」 ふふ、と元親が笑いながら手にあった西瓜を食べつくした。皮を紙皿の上に乗せると、手についた西瓜の汁を舐め取った。 「ああ、なんか小動物みたいに、こう…もそもそ食うじゃねぇか。あんまり可愛いから何でも与えたくなっちまう」 「――…貴様」 じっと見つめて元就が眉根を寄せる。片方の手には元就に渡している西瓜、そしてもう片方の手は既に元親が食べ終わった西瓜の汁で濡れている。元就は元親の手から西瓜を奪うと、しゃくしゃく、と勢い良く口に運んでいった。 「あ、元就。動くな」 「――――…?」 くい、と元親の手が顎先に向かう――その瞬間、正面から元親の瞳が元就を射抜いた。 薄く、碧を弾く瞳の色が、元就に注がれる。正面から見ても、こうして間近で――同じ視線の位置で彼と見合うなんて、いつ振りだったろうか。 元就が瞬きを忘れていると、にや、と元親が不意に表情を崩した。 「ほら、種。お前、顎先につけてたぜ?」 目の前に元親の指先が映る――その先に西瓜の小さな種が摘まれていた。 ――こと。 ぺん、と弾かれる種の行方を元親が追っていると、皮を皿に載せた元就が低く呼んだ。 「元親…」 「あ?って…――」 ――がしッ。 振り向き様に、ぐい、と胸倉を掴まれる。元就の細腕のどこにそんな力が残っているのかと聞きたくなるが、彼は片腕で元親の胸倉を掴み上げると、水面に向かって思い切り腕を振り上げた。 「おわああああああああッ!」 ――ばっしゃ――んッ。 派手な水しぶきを上げながら元親が水の中に放り込まれる。すぐに水面に頭を出すと、今将に放り投げたばかりといった構えの元就が、眉間に深い皺を寄せていた。 「何すんだよ、おいッ!」 「其処で頭でも冷やしておれッ」 叫ぶ元就の元に、ばっしゃばっしゃ、と水を跳ね上がらせて元親が駆け寄る。逃げる間もなく、今度は元親が元就の首根っこを掴んだ。 「くっそ、手前ぇも濡れろッ」 「な…ば、馬鹿者、離せ――――ッッ」 ひょい、と肩に担ぎ上げたまま元親は水の上の来ると、せい、と声をかけて元就を放り投げた。 ――ばっしゃああああん。 「あっははは、ざまぁ見ろっ!」 ざぷ、と水の中から出てくる元就を指差して笑う。だが元就は、にや、と厭な笑みを口元に刻むと、静かに元親の元に上がってきた。 「覚悟はいいか、元親」 「え?」 元親が聞くまでもなく――二人とも既に水浸しだったが――濡れた元親の銀色の頭に手をかける。そして力強く足元に向けて押し込んだ。 ――ぐいっ。 「沈むがいいッッ!」 ばっしゃん、とまたも派手な水飛沫をあげて元親が水面に沈む。だが元親も再び直ぐに体勢を整えた。 「やりやがったなああああああああッ」 「掛かってくるがいいッ!」 腕捲くりをしながら、二人がじりじりと水の中で間を詰め出す。ばしゃばしゃ、と応戦を繰り広げる中、他の誰もが手を出せずにいた。 あまりに白熱する戦いに――邪魔をしたら最後、嬉しくない花畑が見えてしまうのではないかという程の、はしゃぎっぷりだった。 「なーんか、ホントに平和だなぁ」 「だからさ、利、どうしてそんなに暢気なわけ?」 のんびりと彼らを見ながら――水飛沫のとばっちりを受けながら、利家がのほほんと笑う。その横で焼きそばを食べながら、慶次は呆れながら呟いた。 →48 2009.10.28 |