Cherry coke days 政宗が皆の処に西瓜を持って戻ってくると、待ってましたとばかりに元就と幸村が瞳を輝かせた。急遽、西瓜割りを決行して――割ったのは政宗だった――ちゃんと切らずに、そのままの砕けたものを貪り出す。 「伊達、お前、此れも食べておけ」 「う…もう入らねぇよ」 「――殆ど食ってない奴が何をいうか。ほら」 ぽい、ぽい、と小十郎が政宗の皿の上に肉を乗せていく。一応、政宗用に避けておいてくれたらしい。政宗はもそもそとそれを食べながら、ゴムボールでバレーを始めた皆の方に視線を向けた。 ――さっきまで手、繋いでたんだよな。 箸を握りながら、傍に立っている小十郎を見上げる。するり、と離れた手の感触がまだ掌に残っている気がした。 「…飲むか?」 「ん?んー…いい」 「そうか?」 じっと見つめていたら小十郎は手にしていた茶を勧めてきた。たぶん政宗がそれを欲しがっているように見えたのだろう。ぶんぶんと首を振りながら目の前の肉の塊に齧り付くと、小十郎は小首を傾げた。 「くっそ、政宗ぇッ!お前、それ食ったらこっちに参戦しろッ」 ばし、とバレーボールを弾いて元親が叫ぶ。バレーは三対二で、勿論、元親と慶次が同チーム、そして幸村、佐助、利家が同チームだった。 ――バランス悪いチーム分けしやがって。 政宗が元親の声に頷きながらも、ゆったりと咀嚼を繰り返していると、元就が平和そうに得点を告げていく。 「あ…――ッ」 とん、とボールが弾けて奥の方へと向かう。ふらりとそれが川の流れに乗り始めたので、あーあ、と声が漏れた。それを幸村が「取って来申すっ」と駆け出していった。 「俺様も付いていくわっ。ちょっと休んでて」 たたた、と駆け出しながら佐助が幸村の後を付いていく。此処はカーブになっているので、少し流れに沿っていくと皆から見えない位置になってしまう。 ――さっきの俺の状態じゃないかよ。 こくん、と何とか焼いたピーマンを飲み込みながら、政宗が食べるのに疲れて座り込むと、頭の上にペットボトルが触れてきた。 「――なんだよ、片倉」 「飲め、な?やっと元気になったみたいで、少し安心した」 「お前が言うかよ、お前が」 小さく毒づくと小十郎は困ったように眉を引き下げた。小十郎から茶を受け取ってから、咽喉に流していると、慶次と利家がその場に座り込んで足を投げ出す。 「皆、仲が良いなぁ!良い仲間じゃないか、慶次」 「利のその鈍感さって俺好きだなぁ…」 ははは、と慶次が隣で苦く笑う。後ろに立つ元親は元就に「次は逆転すっからな」と指を指して宣言していた。 からから、と砂利を蹴っていくとボールは比較的直ぐに取れた。ボールを抱えて振り返ると佐助が後ろに着いて来ていた。 「あった?」 「ああ…ほら。直ぐに皆のところに…」 幸村が佐助を急かすと、不意に手首を掴まれた。幸村が振り返るとそのまま引き寄せられる。足元で砂利が、からん、と音を立てた。 肩に――後ろから抱き締めてくる佐助の顎が乗ってくる。とくとくと急に鼓動が早くなり、幸村の身体が硬直した。 「ねぇ、少しくらい遅れてもいいからさ…少し、こうしてよ?」 「し、しかし…ッ」 幸村が声を高くしながら反論しようとすると、今度はぐいぐいと腕を引っ張られる。足元の砂利が、がらがら、と音を立てていく。 「さ、佐助…――っ?」 ――とん。 そのまま引っ張られていくと、くるり、と腕を動かされて、気付くと背中に木の感触が迫っていた。そして目の前には佐助が逃げ道を塞ぐように立ちはだかる。 「あ…――――っ、ぅく」 瞳が――視線がぶつかったと思っていると、そのまま佐助の顔が近づく。そして唇を塞いでくる。より一層身体を近づけて、動くことさえ出来なくなった。持っていたボールが、ころん、と幸村の手から零れ落ちて足元に転がっていった。 「っふ、ん……――っ」 こく、と咽喉を動かすと、ゆっくりと佐助が唇を離して、幸村の身体にしがみ付いてきた。ぎゅっと抱き締めてくる腕と、足の間に足を差し込まれて動くのも難しい。 ――ごそ。 「――――ッ!」 ひやりとした佐助の掌が、幸村の服の中に滑り込んできて、素肌に触れてくる。 「だ、や…っ、駄目だ!佐助…っ!佐助、駄目だってッ」 ごそごそと動く手を止めようと、肩をどんどんと叩く。すると佐助はまさぐっていた手を止めて、大きな溜息をついた。 「何処でなら良いの?」 「何処って…――み、皆が」 「そうだねぇ…見えるかもね。じゃあ、いつなら良いのさ?」 ――いつまで待てばいいの? 不満そうに佐助は眉根を寄せる。こつん、と幸村の額に額をつけてから、背中を優しくなでてくる。 「あれから俺達一度もしてないでしょ?このままずっと何もしないつもり?」 佐助が溜息を含ませて真正面から告げてくる。幸村は佐助の肩に顎先を乗せていた顔を、そろり、と動かして肩に額を付ける。視線を合わせられずに――震え出す声で、何とか紡ぎ出した。 「怖い…のでござる」 「怖い?何が…」 「…その、終始恥ずかしいし、達した時など、一人で突き落とされるようで…」 幸村が一生懸命に考えながら告げているのに、佐助は呆れた顔で顔を起こすと、もう一度鼻先を近づけて、悪びれた風もなくあっさりと聞いてきた。 「旦那、自分でした事くらいあるでしょ?」 「う…ッ」 ぐ、と幸村が咽喉を詰まらせる。ストレートに言われると、かああ、と顔に熱が湧き出た。 「それとも、俺にされるまで達ったことなかったの?」 「――――ッ!」 ――ばちーん ぶん、と腕を振るって目の前の佐助の頬に、平手を食らわせてしまっていた。佐助は口元を引き上げながら、視線だけを幸村に戻してくる。 「心外…」 「じ、自分でするのと、されるのでは、訳が違うでござるッ!」 羞恥で涙目になりながら幸村が肩を怒らせると、佐助は身体を少し離した。そして幸村の両腕を掴むと、自分の首に回す。そして改めて幸村の背中に手を添えて、ぎゅ、と抱き締めてきた。 「怖かったらさ、俺にしがみ付けば良いじゃない」 ね、と諭されるが幸村は頷けなかった。まだ云いたいことがあるのに、思うように言葉が出ない。うー、と唸っていると佐助は苦笑した。 「うーん。急ぎすぎちゃったか…。じゃあ、慣らす為に一日一ちゅう、ね」 「うむ…え、ええええ?」 「俺様とのこの関係に、慣れてよね」 何の屁理屈だ、と幸村が眉根を寄せると、佐助はあっさりと身体を離し、足元に転がったボールを手にした。そして幸村に私がてら、ちゅ、と音を立ててキスをしていく。 「俺も、いつも急いて旦那を追い詰めちゃうんだよね。ごめんね」 佐助は、はあ、と深く溜息をつくと「落ち着け、俺様」と自己暗示をかけていくかのように呟く。幸村は手元のボールを見つめてから、顔を起こした。 「佐助っ」 「うん?なぁに、旦那」 「某、佐助のことが好きなことには、変わりはござらんよ。今も、昔も、これからも、ずっと好きだ」 「――――…ッ」 「だから、その…今しばらく、待ってくれ」 咽喉の奥まで焼け付くように熱い。恥ずかしさで死ねるような気がしてしまう。だがそれは幸村だけでもなかった。幸村が顔を起こして佐助の傍に行くと、佐助もまた口元に手を宛がって真っ赤になっていた。 幸村はそれを目に留めると、ふふん、と鼻歌を歌う勢いで横に並び、皆の下へと共に足を進めていった。 →47 2009.10.06.Tue.03:53 |