Cherry coke days 政宗が皆に遅れて朝食を食べていくと――今朝も、朝食はいらないと言ったら慶次に無理にでも食えと言われてしまい、こうしてテーブルに向かう羽目になってしまっていた――がたがたと利家と幸村、そして小十郎が外で何かをしていた。何をしているのかと、バターロールを口に運びながら観ていると、がら、とベランダに通じる窓があいた。 「皆、バーベキューに行くぞッ!」 利家が手にした軍手を墨で汚したままで言う。調度、今日は何をしようかと頭を寄せ合っていた元親たちは、一斉に彼らに注目していく。 「ほらほら、さっさと腰をあげろっ。準備をして行くぞぅッ!」 「え、もう…?今すぐ?」 元親が急かされて聞くと、当たり前だ、と利家が頷いた。何でもその場で魚を取って食べたりするのだと説明していく。 政宗が何の気なしにキッチンの方へと視線を投げると、既にまつが慶次に「これも持っていきなさい」と巨大な肉の塊を取り出しているところだった。 そうこうしている間にもあっという間に支度は整っていく。小十郎と利家が先に車で物品を持って行き、政宗たちは山の中をのんびりと歩いて向かっていった。 「旦那、場所、何処だかわかるの?」 「勿論でござるッ!今朝、利家殿と山掛けをしたときに確認しており申すッ」 道案内のように幸村が先に立って進んでいく。その半歩後ろで佐助が瞳を眇めるようにして幸村の方を見ていた。彼がバランスを崩しそうになると空かさず佐助の手が伸びる。 ――へぇ…幸村、ちゃんと大事にされているんじゃないか。 真後ろに着きながら歩いていた政宗が、二人を前にしてそんな風に感じていく。悶々と幸村は考えることがあるみたいだが、そんなのは関係ない。 ――佐助は甘いけど、でもちゃんとそれは幸村のこと考えているからだろうし。 昨夜は殆どを幸村の話で盛り上がったが、政宗も例に漏れずに彼らに色々と話すことになってしまった。それを思い出すと舌打ちしか出てこない。 ――慶次と幸村、昨日のこと忘れてくれねぇかな。 がさがさ、と木を掻き分けていくと水の音がしていた。政宗がそんな風に考えていると、目の前に砂利が広がる――川のせせらぎが気持ちよい一角に、利家の車が見えた。既に小十郎と利家はセッティングを終えていた。 目的地だとわかると足は速くなる。幸村が駆け出した後を、佐助が追う。元親が政宗の横をすり抜けて駆け出すと、真っ先に川に飛び込んでいた。横で元就はのんびりと日陰を探しているようだった。 「政宗もほら、行こうよ。西瓜もあるしさ」 「慶次…」 ひょい、と手に持っていた西瓜を上げて見せると、慶次が横に並ぶ。慶次は先に走りこむ皆の方を手を翳して見やった。 足を水辺に入れた元親が、早く来い、と腕を振っている。 「そうだな…、楽しむか」 「そうそう!行こう」 「西瓜、落とすんじゃねぇぞ」 判ってるよ、と慶次は云いながら小走りになる。それを追い越して、政宗は元親の背中に向かって思いきり体当たりをしていった。 佐助が串に肉を差し込んでいると、隣で頭にタオルを巻きつけた小十郎が、野菜をだかだかと切っていく。二人の後ろを幸村がちょろちょろとしていたら、佐助に「旦那は西瓜を冷やしてきてよ」と敬遠されてしまった。 幸村は頷きながらも川に――網に入ったままの西瓜を置き、石で固定する。幸村の目の前では利家が先程から、物凄い勢いで魚を弾き取っていた。 ――熊のようでござるな… 「どうだ、幸村君もやらぬか?」 「い、いえ…某は」 「そう遠慮するなッ」 ――がっ。 気付けば首根っこを掴まれて川に引きずり込まれてしまった。その様子を遠目に見ていた佐助が溜息をついた。 「良かった、旦那が手持ち無沙汰にならなくて」 「何でだ?」 ざっざっ、と小十郎は野菜を洗いながら佐助に聞いてくる。焼きそばの準備をしながら、小十郎は元就に声を掛ける。 「毛利、其処のとうもろこし取ってくれ」 木陰にいた元就は、こくり、と頷くと茹でたとうもろこしの袋を手に此方に近づいてくる。その口に一本、既にとうもろこしが咥えられているのは見なかったことにする。 「旦那が俺様の後ろにいるとさ、摘み食いされんの。お腹すいている証拠なんだけど、そうしている内になくなっていくのよ」 「猿飛と真田は一緒に住んでいるんだったか」 「そ。俺様が家事とか賄ってるよ、一応」 「なんでまた?」 「俺の母親が、旦那の祖父のお家で住み込みで働いてたの。その延長かな」 馴れた手つきで料理を手伝っていく。しし唐にベーコンを巻きつけて、串に刺しながら佐助が話すと、小十郎は手を伸ばして佐助の頭をわしわしと撫で回した。 「ちょ…片倉、やめてよね!俺様、政宗じゃないんだからッ」 「なんで其処で伊達の名前が出る?」 眦を朱に染めて佐助が背中を反らせる。小十郎は不意に出てきた政宗の名前に小首を傾げるだけだ。佐助が焦りながらも、ぱらぱら、と塩コショウを振って網の上に乗せると、唇を尖らせた。 「だってよく政宗の頭なでてるじゃない?」 「あー…そう、だったか?」 ――そうだよ! 佐助の突っ込みに小十郎は首を傾げていた。それでも手元の焼きソバが、じゅうじゅう、と良い音を立て始めると、今度は料理に再び集中していった。 →45 2009.10.04.Sun.12:23 |