Cherry coke days 結局一日の殆どを寝てすごしてしまった政宗は、夜になったらなったで目が覚めて仕方なかった。 朝っぱらから野駆けをして、街中を散策してきた幸村と佐助や、釣りに行った元親と元就の話を聞きながら、一日を無駄にしてしまったという感覚を拭えずに居た。 ぽた、と垂れてきた髪からの滴を、ごしごし、と拭っていると、隣でシャツを着込もうとしていた幸村がじっと動きを止めて此方を見ていた。 「何だよ、珍しいか?」 「あ、すみませぬ。その…眼帯を取り外した姿を見たのが、ほぼ初めてだったので」 よいしょ、と声をかけながら幸村がシャツを頭から被った。確かに、と自分の前髪を両手で撫で付けるようにして掻き上げると、政宗は幸村の長い髪の端を手に取った。 「俺もな、お前の髪下ろした姿、初めてだぜ?」 「そうでござったか?」 政宗が歯を見せて「ye〜s」と答えると、背後からタオルが投げ込まれた。タオルを投げ込んできた相手は慶次だ――風呂上りのほかほかの頭に、タオルをぐるぐる巻きにしている。彼の長い髪は、バスタオルで調度良いくらいだ。 「はいはい、ちょっと良い雰囲気のところ悪いけど!足元に水滴が凄いんだよねッ。子どもじゃないんだから髪拭って」 ――掃除するの、俺なんだから! しぶしぶと幸村も政宗もタオルで頭をごしごしと拭う。そして風呂道具を入れていた袋を手にすると、三人で脱衣所のドアを開けた。 「お、上がったな?次、俺ら入るからよッ。こら、元就、佐助!もたもたすんじゃねぇッ」 「風呂くらいゆっくり入らせろ」 「煩せぇ、こういうのは時間勝負だ!」 「何が時間勝負なのさ…あ、旦那、皆も。部屋に飲み物置いておいたから、飲んでて」 どかどか、と入り込んでくる元親は既に上半身裸だった。その後ろから夜着を手に抱えた元就が、くあ、と欠伸をしながら続く。 佐助は政宗たちに飲み物を勧めると、最後に幸村の頭の上をぐいと拭ってから「ちゃんと乾かしてよ」と付け加えていった。 結局、湯を沸かしなおすのが面倒ということで、まとめて入っている訳だが、年長組の方で一緒に入らなくて良かった、と政宗は微かに思いながら部屋に向かう。 部屋への階段を上る際に、リビングの奥でPCを前にして真面目な顔をしている小十郎と、利家が目に入った。 ――昼の、あいつだよな? 朝寝はあのソファーでしていた筈だった。だが慶次が昼食を届けに来た時には、政宗はベッドで寝ていた。鼻先に微かに触れた他人の香りを思い出して、政宗はじっと彼らの方へと視線を投げた――だが、小十郎も利家も気付かない。早々に見つめるのを止めて、政宗は幸村たちの後を追うように階段を上っていく。 「ガールズトークならぬ、ボーイズトークしようよッ!」 部屋に入るなり、いきなり慶次はクッションを抱えて、にっこりと笑った。 「――慶次、お前…本当にお祭野郎だな」 「良いじゃん!俺、今日殆ど遊んでないんだからッ」 「で、何を話すのでござるか?」 ばふ、と自分のベッドに腰掛けて幸村が慶次を見上げる。すると慶次はどたどたと自分の方のベッドを動かし始めた。 「まずはベッド動かそう」 「了解でござるッ!」 幸村が勢いよく立ち上がり、うおりゃあ、と政宗のベッドに自分のベッドを付ける。政宗が真ん中なので、慶次と幸村が動かせば良いだけだ。 三つがくっついたベッドというのは、かなり威圧感がある。苦笑したい気持ちで政宗はそれを冷ややかに見つめていると、サイドテーブルの上にあったお茶に手を伸ばした。 そうこうしている内に慶次はクッションと枕を抱え込み、どさどさ、とベッドの上に置く。幸村に至っては盆に乗せられていた菓子をそのまま持ち出してきていた。 ――拒否る権利はないってことかよ。 「Shit!参加すればいいんだろ、参加すればさ!」 政宗が自棄になりながら自分の領地である真ん中のベッドにダイブする。ばふん、と跳ねるスプリングに、あはは、と笑い声が響いていった。 「やっぱり此処は恋バナじゃない?」 「――失恋した人間にそれを振るのかよ?」 クッションを抱えて慶次が提案する。雰囲気作りのせいなのか、ライトまで落として今はダウンライトのほのかな明かりしかない。 政宗が足を伸ばして座る横にはクッションを抱えた慶次と、腹ばいになってポッキーを咥えている幸村がいる。因みに政宗の前髪は慶次の手腕によって、ピンで全てオールバックにされていた――これじゃ片倉じゃねぇか、と愚痴ると慶次はにやりとした。 「えー?だって俺、政宗から片倉の何処が好きになったかとか聞いてないし」 「言ってねぇもんよ、そんなの。て言うか、相談とかねぇのか?」 ――定番だろ? 政宗が幸村のポッキーをひとつ摘み上げて口に入れる。 「あッ!」 「何だ、幸村?」 びく、と政宗が肩を揺らした。菓子を取ったのが気に障ったのか、と口にポッキーを咥えたままで振り向くと、のそり、と幸村は身体を起こした。 「そ…某、少し…相談したいことが…」 「何だよ、相談って…」 「その…――引かないで下され」 たどたどしく幸村はその場に座ると、慶次が持ち込んだクッションをひとつ抱え込み、ぼすぼす、とそれを叩いた。云い澱む彼を慶次が促がす。 「引かない、引かない。言っちゃえ」 「――恥ずかしくて、どう言ったらいいのか」 「いいから言っちゃえって」 「で、でも、これからも差し迫る問題でござる故…」 「何が?」 政宗と慶次の声が重なった。静かに幸村に注目していると、幸村の口がぱくぱくと動いて、鼻の頭にじわりと汗が浮き上がった。 「せ…――」 「せ?」 聞き返す――すると、ごくん、と咽喉を鳴らした幸村が、思い切って言い放った。 「セックス…――」 「えええええええええええええッ!」 途端に大声を張り上げたのは慶次だった。耳元で大音声を聞く羽目になり、政宗が耳を塞ぐ。 「煩せぇっ!慶次、手前ぇ、黙れッ」 「幸村の口からそんな言葉聴く日がくるなんてッ!」 「うるせぇぇぇぇッ!耳元で騒ぐなッ」 「え?嘘嘘、何、もうやったの?」 政宗には構わずに慶次が身を乗り出しいく。その表情がどう見ても出歯亀だった。ぐ、と詰まりながらも幸村は素直に頷いた。 「う…既に、一回」 「はぁ〜…お前、見かけによらず結構…」 政宗が驚きながら背中に当てていた枕に寄り掛かると、幸村は真っ赤になりながら首をぶんぶんと振った。 「だからそんな目で見ないで下され…ッ」 「一回?だけ?」 慶次がふと確信をついたかのように訊ねる。すると幸村も俯きながら、眉を下げていく。 「…そうなのでござる。どうにも、二回目となると…最初よりも意識してしまって、逃げてしまう。佐助には悪いと思っているのでござるが…」 ――今日も逃げてしまって。 しょぼん、と項垂れる幸村に政宗は、いいなぁ、と感想を抱いた。 ――俺なんてそんな悩みねぇよ。振られたばっかだし。 それでも彼が好きで、まだこの胸の中を占めている――追い出そうとしてもこの恋情を追い出すことも出来ない。 政宗は、つい、と幸村のポッキーに再び手を伸ばして、一本口に咥えた。 「ふぅん…でも、お前、佐助のこと好きなんだろ?」 「勿論でござるッ!でなければ、あんな…あんな…」 ――うおおおお、破廉恥なぁぁ。 云いながら幸村は、ぼすぼす、とクッションに頭を打ち付けた。思い出して余計に羞恥心が煽られてしまったらしい。 「とりあえず、お前は佐助が好き――だろ?」 「勿論でござるッ、嘘偽りなくッ!」 がば、と幸村が顔を起こす。政宗はポッキーを横に咥えると、ぽん、と幸村の頭の上に手を置いた。 「だったらお前の気持ちが固まるまで待たせてろよ」 「そうそう。佐助にはお預けくらいが調度良いって」 慶次が付け加えたかのように告げていく。そうすると幸村はほっとしたのか、はあ、と大きな溜息をついた。 「で?政宗は片倉の何処が気に入ったの?」 「う…――ッ、忘れろ、そんな事!」 くる、と話の矛先を向けてくる慶次の顔を、掌で押しのける。ベッドの上で日付が変わるまで三人は、ああだこうだ、と話し込んでいった。 →44 2009.09.27.Sun.21:31 |