Cherry coke days





 帰り道で出会ったいつもの顔ぶれは、政宗が少しだけ無口なのを見咎めて、何があったのかを聞いてきた。それを聞いて最初に声を上げたのは慶次だった。
 政宗の斜め後ろからがっかりとした声を出しながら言う。

「なーに、甘酸っぱいことしてんの?」
「煩ぇよ」
「でも政宗がねぇ…」

 ぶう、と膨れて毒づくが構わずに慶次は先を続けて言った。どうせやるなら、ガツンと!と無駄に拳を作っている。
その様子を肩越しにちらりと見てから、政宗の前を歩いた元親が苦笑を織り交ぜて呟く。

「いいんじゃね?慶次の思惑には嵌らなくてもさ」
「つまんないねぇ…あれ?今日は元就は?」
「委員会」
「あっそ。で、珍しく佐助が居るのは何で?」

 ととと、と慶次が歩みを進めて政宗を追い越す。そして元親の横に並ぶとさらにその前に歩いていた猿飛佐助に水をさした。

「たまには居ても良いでしょうが。俺様だって、野郎とつるんでたくもなるの」
「と、言いつつ…あの可愛い子と喧嘩でもした?」
「違うから」

 慶次は目をきらきらとさせているが、佐助は構っていない。それでも突っかかりそうになった慶次の鼻先を掌で押しのけていく。そんな二人を前にして、元親が少しだけ歩調を緩めて政宗の横に並んだ。
 調度西日が差し込んできていたが、元親が横に立ったことで影が出来る。その影にすっぽりと嵌って政宗が口元を、きゅ、と引き結んだ。

「――というか政宗、マジでキス?」
「あいつは気付いてねぇよ…寝ていやがった」
「――何処にしたって?」

 ――ここ。

 政宗が顔を仰のかせて、自分の頬を指差す。元親がきらりと光る群青色の瞳を眇め、かわいいなぁ、と微笑んだ。
 だがそれを打ち破るように前から佐助の背を押しのけて慶次が、いー、と歯を見せながら揶揄う。

「……どうせなら、ドカンとかませば良いのに」
「煩ぇよ、慶次!」

 政宗が吼える。そして一気に元親の横から走りこみ、慶次に向かって腕を振り上げていった。それを見送りながら、元親は「いいなぁ」と呟いた。

「何がいいって?」
「…いろいろ、な」
「ふぅん…まぁ、なんとなく判らないでもないけどね」

 取り残されている佐助と元親はゆったりと歩みを進めながら、前で子犬のようにはしゃぐ二人を見つめていた。
 恋ひとつで浮かれて、はしゃいで、そんな青い日々がいつまでも続くような気がしていた。










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Date:2009.06.24.Wed.22:34