Cherry coke days





 食事の間は小十郎と政宗は視線を合わせることもなく、ただ黙々と食事に専念していた。

「さあ、たんと召し上がれ!」
「まつの料理は美味いぞぅ」

 しゃもじを握ったまつが、食事を勧める。皆手を合わせて「いただきまーす」と勢い良く言うと、目の前のご馳走に向かっていった。
 裏の畑で取れた野菜のてんぷら、三菜の煮物、茶碗蒸しに焼き魚――魚は山で利家が釣ってきたとのことだった。まだまだ小鉢には様々な料理が揃っていた。それを目の前にして元就と幸村がざかざかと箸を動かしていく。

「うおおお、旨いでござるぅぅぅ」
「米粒を飛ばすな、真田」

 幸村が拳を握ると向かい側に居た元就が自分の小鉢を引き寄せていく。一番の大食漢二人が向かい合っている光景は凄まじいものがあるが、まつと利家は楽しそうだった。
 ぱく、と飛龍頭のあんかけを口に入れてから、佐助がまつを振り仰いだ。

「おいっしぃぃ…まつさん、これ、この味付けさ、後で教えてくださいッ」
「まあッ!喜んで頂けているようで嬉しゅうございます。何なりとお聞きくださいませ」

 まつは嬉しそうにしゃもじを振り回す。その横で利家が煮物をばくばくと口に入れ込んでいた。

「人参って甘いなぁ…。野菜が新鮮だと美味しいもんだ」
「元親も解ってるねぇ。此処の野菜は利とまつ姉ちゃんが作ってるんだぜ」

 元親が箸を咥えながらしみじみ云うと、目の前で慶次がにこにこしながら教えていく。隣で政宗もまた、もそ、と口を動かしながら焼き魚を突いていった。

 ――うまいなぁ…旨いご飯って良いよなぁ。

 じぃん、と染み入るような味に政宗もまたいつもよりも箸が進んでいく。一人で摂る食事は味気なくて、なかなか咽喉を通らないこともある。それを思うと目の前で皆と一緒にとる食事は非常に美味しいと感じられた。

「食事が終わったら今度は風呂だなッ!家は凄いぞぉ」

 まだ天ぷらを頬張りながら利家が声を張り上げる。その横で静かに小十郎が箸を動かしているのが目に入った。
 ちら、と政宗がそちらに視線を流すと、調度気付いたように小十郎も政宗の方をむく。彼の左の頬は慶次に殴られたせいで紅く腫れていた。

 ――直接的ではないにしろ、俺のせいだよな。謝ったほうが…いいのかな。

 一瞬そう考えてから、政宗は箸を咥えたまま少しだけ俯いた。視線を反らした誤魔化しを装って、味噌汁を啜る。今日の味噌汁は赤味噌で少しだけ強い塩気が沁みて来た。その間にもペンションの風呂場の話になっていく。
 利家の反対隣から佐助が漬物をぽりぽりと食べながら訊ねる。

「何が凄いんですか?」
「へへッ!なんと総檜!」

 即効で答えたのは慶次だった。慶次の言葉を受けて元親が嬉しそうに声を上げる。

「うそぉぉぉッ!それ超良いッ!」
「なんか元親って親父くさい…」
「何だよ、良いじゃねぇか」

 慶次が正面で茶化すと元親は、かつかつ、と箸を動かしていく。その横でまつが「おかわりは?」と皆に聞きつつも、両手を組んでにこりと微笑んだ。

「広いし、皆で入れば楽しいでしょうね」
「そんなに広いんですか?」

 驚きの声を上げたのは佐助だった。確かに今現在もかなり男臭いことになっているが、この体格の男共が数人で入れるとなると、広さがそれなりには必要だ。

「まぁ、二、三人は同時で大丈夫だな」

 利家が咽喉に、んぐんぐ、と煮物を流している間に、彼にかわって小十郎が説明を繋げる。へえ、と皆で感嘆の声を上げていると、政宗はぽつりと云った。

「なんか、本格的に旅行、って感じになってきたな」
「――――…ッ」

 こと、と箸を置きながら端の席から皆に向けて云うと、彼らは一様に動きを止めた。幸村に至っては握っていた箸を取り落とした程だった。

「あれ?俺、変なこと言ったか?」

 しぃん、と固まった周囲に政宗が慌てると、途端に慶次が横から抱きついてきた。

 ――がしぃッ。

「Hey!何すんだよ、慶次ッ」
「政宗、笑顔可愛いぃぃぃ!いつもの政宗だぁぁッ!」
「はああ?お前…今すぐ眼科に行け――ェ!」

 べし、と抱きつく慶次を叩き落すと食卓に笑いが走った。今までそんな陰鬱な顔をしていたのかと自戒の気持ちも沸き起こってくるが、政宗は照れ隠しに目の前の料理を急いで咽喉に流し込んでいった。





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2009.09.23.Wed.18:09