Cherry coke days





 駅の外に出ると燦燦とした日差しが肌に突き刺さっていく。目の前では元親がメモに描かれた地図を広げていた。その地図を覗き込んで元就が背伸びをする。元親は彼にも見易い様に少しだけ身体を傾けた。

「此処から遠いのか?」
「そうでもないみたいだな…歩いて行けそうだぜ?」

 どうする、と元親が政宗たちに問う。歩いていけるのなら、そのまま歩いていっても構わない。事前に慶次に聞いていた話によると、昔此処は城下町だったというから、見所もあるだろう。頭を寄せ合って相談していると、政宗の携帯が揺れた。政宗が携帯を開いてみると慶次からのメールが入っていた。それを元親が上から覗き込んでくる。

「お、慶次からだ。新幹線、乗れたって」
「へぇ?あいつ、高速バスで来るとか行ってたのに」
「マジで?」

 まさか、と政宗が驚くと元親は時計を見上げながら呟いた。

 ――バイト、早く上がれたんだな。

「それじゃ、ま…観光しながら行くか」
「我は甘いものが食べたい」
「ちょ、元就、食べすぎッ!」
「甘味ならば、某もッ!」

 バックを抱えあげた元親の背後にカートを引きながら元就が呟く。そしていつの間にか取り出しのか、観光マップを手にしていた。更にその後に幸村が続く。

 ――この分だと、慶次と宿に辿り着く前に合流しそうだな。

 政宗が肩にバックを掛けなおすと、くるりと長い髪をなびかせて幸村が振り返ってきた。

「政宗殿は甘味はお嫌いか?」
「いや…嫌いでもないぜ?」

 政宗が応えると、ぱあ、と幸村の表情が華やいだ。そして「毛利殿ッ!」と瞳を輝かせて振り向く。

「これで三対一でござるッ」
「…元親、負けを認めぬか」

 ほれほれ、と元親の目の前で元就が甘味処にマークのついているマップをひらひらとひけらかす。気付けば引率係りのようになってしまっている元親が、しぶしぶながら「仕方ねぇッ」と叫んだ。先に進む元親と元就が方向を変えて甘味屋に向かう。その後に続きながら政宗は青い空を振り仰いだ。
 青い空の中に鳶が一羽、くるりと旋回して飛んでいるのが見えていた。










 甘味屋で腹を満たした後に、街中を歩いていく。甘味屋ではかなり話し込んでしまい、小一時間近く居座ってしまった。
 通りはさして混んでもいなく歩きやすい。調度世間では盆休みの最中だからか、さして人通りもないように見受けられた。
 都会の気候とは違う、涼しい風が吹き込んでくる。同じくらいの暑さだと思うのだが、どこか空気の清涼感が違う。

「やっぱり山の空気っていいねぇ」

 佐助が鼻歌を歌いそうな弾んだ声で話し出す。その隣に並びながら政宗は「そうなのか」と問いかけた。

「うん。俺様ね、今の武田の家にご厄介になる前はさ、山間の町にいたんだ」
「ずっと幸村と一緒じゃなかったのか?」
「まぁ…ね。母親もまだその時は居たし」
「ふぅん…――俺は、なんかあまり昔のことって覚えてねぇな」

 ふふ、と不意に佐助が笑った。小首を傾げてみると彼は「旦那と同じこと云ってる」と眉を下げて笑った。

「なぁ、武家屋敷あるってよ!寄っていかねぇか?」

 前方から元親が手を振ってくる。それに頷きながら佐助と政宗は小走りに彼らの元へと急ぐ。

「武家屋敷かぁ…城跡とか史跡って修学旅行以来じゃねぇ?」
「去年のことぞ」

 淡々と元就は元親の隣で話す。修学旅行は春先に行く年と秋に行く年がある。元就と元親、そして佐助は春に行ったとのことだった。

「何処に行ったんだっけ?」

 政宗が隣の佐助に聞くと、佐助は「広島・九州だよ」と応えた。そして政宗に三人が今年は何処だと聞いてきた。

「俺達は京都・奈良・神戸だってよ。夏も終わって文化祭が終わったら直ぐだぜ?慌ただしいよな」
「でも良いじゃない?俺様たちの時なんてさ、なんかずっとバスの中に閉じ込められているようなもんでさ…」
「そうそう。予定詰め込みすぎだったよなぁ」

 こくり、と元親の横で元就が頷く。かなりの強行軍だったというのは噂で聞いていた。その強行軍のせいで今年は無難な場所が選ばれたとの噂もある。

「某らは来年でござるな。何処になるのでござろう…」
「さぁな?案外今度は東北とか北海道とかじゃねぇか?」

 歩調を緩めて前から政宗の隣に移ってきた幸村が小首を傾げる。そして北海道の言葉に反応して「美味いものが沢山ありそうな」と瞳を輝かせた。
 そうこうしている間にも目的地に到着し、拝観料を払って中を観覧していく。
 通り一面に武家屋敷が並ぶ様は壮観だった。柳と桜の青い葉が揺れて、道々に影を落としていた。

「意外と建築物って良いもんだな…」

 呆然と云いながら元親が出てくると、彼の袖を元就が引っ張った。先導の彼らの後に続く政宗もまた元就の指差す方向を見つめた。
 其処には小さな小川が流れていた――そしてその小川に面して学校が建っている。元親はそのたたずまいを見ると、ひゅう、と口笛を吹いてみせた。

「うわ、すっげ!いいなぁ、あの学校ッ」
「てか、絶対学校の傍に川があったら入るよね。旦那…って、わああああ、ちょ、旦那、政宗ぇッ」

 佐助が声をかける合間に幸村と政宗は走りこんで――荷物は勿論彼らのところに放り投げてきた――小川に向かって一気に駆け込むと、中に飛び込んだ。

 ――ばしゃああん。

「OH!冷てぇぇぇッ」
「気持ちいいでござるぅぅぁあああッ」

 ばしゃばしゃ、と小川の中に入ると靴を放り投げる。ばっしゃん、と幸村の掬い上げた水が政宗の顔にぶつかる。それに応戦して政宗が水を蹴り上げると、ばしゃん、と幸村の顔にぶつかった。
 二人でばしゃばしゃと水の中で遊んでいると、佐助と元親が顔を見合わせた。

「どうするよ、佐助」
「混ざりたいんでしょ、元親」

 ――ニコ。

 二人が笑顔を向けると同時に駆け出す。腕を捲くって、うおりゃああ、と声を上げながら水の中に飛び込むと幸村と政宗が飛びのいていった。

「全く、子どもよのぅ…」

 それをカートの上に座り込んで、元就はゆったりと眺めているだけだった。






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Date:2009.09.21.Mon.14:38