Cherry coke days 目的の駅に到着すると元就は何も持たずにホームに出た。その後に続いて政宗もまた降りると、直ぐに元親たちが声をかけてくる。 「お前らの荷物、持ってきてやったぜ」 「まったく感謝してよね」 元親が元就のカートを引き摺り、自分のバックを肩に掛けている。その後ろから佐助が政宗のボストンバックを抱えていた。 「元親よ…我の荷物、そのまま持っているがいい」 「はぁ?おま…ッ、自分で持てよッ!中に何入っているんだよ?重いっての」 「はい、政宗」 「サンキュ、佐助。重かっただろ?」 「別にぃ」 佐助はバックを手渡すと、目が細くなるくらいに微笑んだ。そして手を伸ばして政宗の頭を、くしゃり、と撫でる。 「――――…ッ」 政宗が撫でられた場所に手を当てて小首を傾げると、佐助は先に歩き出した。 ――なんか、元親にも元就にもなでられた気がする。 彼らは励ますようにして――でも少し子ども扱いするかのようにして、政宗の髪をなでていく。 ――片倉も、俺の頭…撫でてくれたよな。 政宗が立ち尽くしている間にも彼らは先に進んでいく。すると駆け込むようにして幸村が政宗のところまできた。 「行きましょうぞ、政宗殿」 「お、おお…――って、ちょ…お前、何手繋いでいるんだよッ」 「嫌でござるか?」 「嫌って…ああもう、いいよ、引っ張ってけよッ」 傍に来て直ぐに幸村は政宗の手を引っ張った。手首からするりと指先を伸ばして、手を絡める。そしてそのまま、腕をぐいぐいと引っ張っていった。 幸村に引っ張られていく先に、振り返って笑っている佐助と、元親――そして構わずにエスカレーターに乗っていく元就が見えていた。 ――皆、俺を励ましてくれているんだよな。 ありがとう、と小さな声で呟くと、微かに幸村が振り返ったが、直ぐにまた前を向いて政宗を引っ張って行った。 前田利家とまつは常日頃、ペンションを経営している。ただ利家は地元で教鞭をとってもいるので、実質ペンションの経営はまつが行っていた。そして近くに旅館があり、其処が前田の親戚一同で経営している。流石にかき入れ時は旅館の方が混んでしまうので、まつも其方に手伝いに行ってしまう――因みに慶次は親戚の家に下宿している状態だが、時々心配した、まつが慶次の元に来るという。 「片倉ぁ、そこら辺にして、こっちで昼飯でも食わないかぁ?」 「おお、そうだな…そうするか」 籠の中に取り込んでいたオクラを抱え上げ、小十郎が振り仰ぐ。ペンションの裏は軽い畑になっており、其処から収穫をしていたところだった。 振り仰ぐ先には、ざるに山盛りになった素麺を見せる利家がいる。 ついでにと、小十郎が足元に生えていた大葉を取り込み、畑の畝を歩いていく。 「此処の畑、結構色々育つようになったな」 「だろう?あの奥にはトウモロコシも出来ているぞッ。後で採りに行こうじゃないか」 利家はにこにことして小十郎の元に来る。 ペンションはログハウスの作りになっており、その前には小さな小川が流れている。其処を使って利家は、網にスイカを入れると流れに向かって冷や水に晒して行く。 「しかし、すまぬな。畑を任せてしまって」 「いいや、気にするな…好きでやっているようなものだしな」 土いじりは嫌いじゃない――と小十郎が言うと、利家は「変わってないなぁ」と背中をばしばしと叩いてきた。 二人で茣蓙を引いた樹の根元に座ると、利家が持ってきた素麺に手をつける。水で軽く晒した大葉を、手で千切ってめんつゆの中に入れていった。 「流石にまつがいないと、よくは回らぬものだ」 「――まつさんは良く出来た嫁だなぁ」 「お前もそう思うか?」 ずる、と素麺を啜りながら言うと、利家が嬉しそうに話す。そして更に日々のことなど、些細な話を繰り返して行く。 「片倉はどうするんだ?あと少しで…――」 「そうなんだよなぁ、そろそろだが…今の場所が居心地良くなってしまって」 ふふ、と困って笑うと、利家が「若い学生を指導するのは楽しいだろ」と教鞭を振るっている利家に言われると、頷かざるを得ない。 ふと小十郎の脳裏に、教室の様子が浮かんだ――窓辺の席で、日差しを避けるようにして身体を丸める政宗が、いつも左目を眩しげに瞬いていた。 「――――…」 「どうした、片倉?」 「え、ああ…ちょっと、思い出したことがあってな…」 「そうか?そういえば、慶次はどうだ?」 「いい奴だよ。友達想いだし、成績も中々だ」 「そうか、そうかッ!」 ずるる、と利家は素麺の山を崩しながら声を張り上げる。外でこうして食事をしつつ、他愛ない話を繰り返す。 ――此処に、あいつらが居たら… あの花火の日の彼らを思い出す。自分もまた学生の時分に戻ってしまったかのように、同じように心躍らせていた。そして、隣には政宗がいた。 ――伊達、泣かせてしまっただろうか。 なるべくあの瞬間に政宗の顔を見ないようにしていた。顔を見てしまったら、何もいえなくなってしまう気がしたからだ。 手に、あの時に触れた柔らかい髪の感触が、まだ残っているような気がしていた。 「今日は客が来ると云っていたな」 「そうなのか?」 「ああ、だから此れから買出しに行って来る」 ――まつに頼まれているからな! 拳を握りこむ利家に、残りの素麺食べるぞ、と言いながら小十郎は箸を向ける。此れから客が来るのなら、手伝いをしようと思いながら、涼やかな昼食を咽喉に流し込んでいった。 →35 Date:2009.09.19.Sat.11:40 |