Cherry coke days





 ホームにいくと、程なくして新幹線がやってくる。車内に乗り込むと、直ぐに席を取りにいった。一応学生の身だ――指定席はあえて取らないでいた。
 夏休みの最中だから、どれ程混んでいるのかと思っていたが、時間帯のせいだろうか、然程混んでもいなかった。車内は三席と二席に分かれている。進んでいた佐助と幸村が空かさず二席の方へと向かっていった。するとその横の、三つ並びの席に元就と元親が入っていく。しかも元就は三席の真ん中にどっかりと座った。

 ――どうしようか…

 先に入っていた四人は既に荷物を頭上の荷物置き場に上げている。政宗はぼんやりと通路で左右を見回した。そして佐助と幸村の前の席の方へと向かっていく。

「伊達、何処へ行く」
「え…だって、奇数だからさ…俺ひとりでいいかと」

 ぴしゃり、と背後から元就が呼びかけた。政宗は言い訳をしながら振り返ると、元就が腕を組んで「来い」と云った。

「五人なのだから、詰めて座ればいい。これから客も来よう?邪魔になるだけよ」
「でもさ…――」
「貴様、あ奴らの前に座りたいのか?ん?本当に座りたいのか?」

 元就が立て続けに詰め寄ってくる。そして顎でしゃくる先には佐助と幸村がいた。既に二人の世界に入り込んでいるのか、きゃっきゃとはしゃいでいるようにしか見えない。

「旦那ぁ、お菓子とお弁当、どっちにする?」
「弁当も良いのだが、菓子が…」
「食べ過ぎちゃ駄目だからね。でもこのカップケーキ、可愛いよねぇ?」

 がさがさ、と袋を差し出している佐助の手に上には、小さなカップケーキが乗っている。苺クリームがデコレーションされていて、見るからに甘そうだった。
 肩を寄せる佐助に、ぎゃあぎゃあ、と跳ねのく――しかし狭い座席では逃げることも出来ないでいる幸村が見える。

「――――……」
「さぁ、如何する?」
「――こっちに座ります」

 二席の方に背を向けて政宗が項垂れる。すると元就は機嫌よく胸を張った。そして荷物を肩から下ろすと、窓側から元親が手を出してきた。

「政宗、よこせ。俺が入れとく」
「元親、頭、ぶつけるなよ?」
「むしろぶつけるが良い」

 窓側の席からのそりと身体を起こし、屈みこみながら頭上の荷物入れに荷物を載せる元親に元就は胸を張った。

「なぁ、嫌がらせだろ、元就ッ」
「ほう…何の言いがかりだ?」

 政宗の荷物を受け取って上に押し込めながら、元親が振り返る。良く見れば元親は背中を逸らせている。上から見下ろしながら元親はついでに上に置いてあった弁当の山を元就に手渡した。

「だってよ、俺のガタイ考えたら、窓側なんて迷惑だっての。何するにも手前ぇを跨いでいかなきゃならんだろうがッ」

 ――頭もぶつけそうだしッ

 首を竦めながら云うと、弁当を受け取った元就が袋の中からひとつを取り出し、政宗に手渡した。どうやらそれは政宗にくれるらしい。

「心置きなく跨いでいけば良いではないか」
「――元就さん?本気で云ってる?」

 すとん、と元親が自分の席に再び座り込むと、横から元親に元就がひとつの弁当を手渡した。

「やれるのならな」
 ――我は足を寄せたり、退いたりはせぬ。

 弁当を渡しながら元就はきっぱりと宣言する。その一言で元親が、ごつん、と窓に後頭部をぶつけた。

「ああああああ、もうッ!なにこの専制君主ッ」

 ――腹立つッ!

 毒づきながらも元親は彼にお茶を差し出していた。そして元就は満足気に手元の弁当を広げていった。

 ――なんか、俺、此処に座ってんの疲れるな。

 政宗は両隣を交互に見てから、はぁ、と大きく溜息をついた。そして元就に貰った弁当を拡げると、頂きます、と手を合わせる。その様子に元就が隣から、心して食え、と云っていった。







 →33





2009.09.15.Tue.21:25