Cherry coke days 政宗の誕生日を祝った後、サプライズが成功したのに気を良くしながら、花火の会場へと足を向けた。陽が落ちてきている川縁には人が集まってきていた。 勿論、出店も多く、気付くと元就がふらふらと其方に向かっていく。その後姿を追いながら元親が「何かあったら携帯に電話する」と両手を合わせていった。 慶次が自分の身長を生かして伸び上がると、調度まだ人の疎らな場所が目に入った。そして花火の準備が迫っている土手を見ると、なかなか良いポイントに思えた。 そちらに佐助、政宗、小十郎と四人で移動しながら、場所取りをする。斜めになっている土手沿いに場所取りをしてから、慶次は佐助の腕を小突いた。 「なぁ、気ぃ効かせてやろうぜ?」 「…あ、ああ…――そういう事、うん、いいよ」 慶次が小声で言うと佐助も直ぐに合点がいったのか、頷くと立ち上がる。政宗が二人が立ったことで見上げてくる。 「俺達ちょっと屋台の方に行って来るわ」 「俺様も小腹空いたからさ」 小十郎が「気をつけてけ」と云うのに頷きながら、立ち上がる。それと同時に慶次は携帯を取り出し、うまくやれよ、とメールを送った。背後で政宗の携帯の鳴る音がする。それに合わせて佐助と共に一気に駆け出していく。 「なんか見事に分かれたねぇ…」 「そういうものなんじゃないの?」 駆け出した足を、ゆっくりの歩幅に戻す。たぶん政宗は今頃どうしようかと思案しているに違いない。慶次は屋台並びでたこ焼きを買うと、佐助にも薦めながら歩く。 ――ドォォンン…バラバラバラ…… 背後で花火の上がる音が聞こえた。それを見上げて立ち止まると、隣で佐助が静かにそれを見上げていた。 ばく、とたこ焼きを口に入れながら慶次は少しの間をおいてから、気になっていた事を彼に問うた。 「幸村とうまくいったの?」 「――あんたも男だねぇ…聞きたいわけ?」 「まぁ…ね。興味はある…かな」 はは、と笑うと佐助は少しだけ背伸びをして慶次のたこ焼きをつまみ上げ、口に放り込む。その間、慶次は同じようにもくもくと口を動かしながら空を見上げていた。 ちら、と佐助に視線を動かすと、彼は指先に付いたソースを静かに舐め取ってから、にっこりと慶次に笑いかけてきた。 「――俺の想像通りで、いいのかな?」 「そ、ご想像通り。食べちゃいました」 あっさりと云う佐助に、慶次は片手で額を押さえながらその場にしゃがみ込んだ。それを屈みこみながら佐助が、どうしたの、と聞いてくる。 「――うわぁ……ッ。あの純真無垢な幸村を…ッ」 「純真無垢でもないよ」 「ぎゃあああ、俺の中の幸村像を崩さないで」 慶次は首をぶんぶんと振りながら、一通り叫んだ。 「勝手に偶像作んないでよね、旦那は俺のなの」 べぇ、と舌を出しながら佐助が慶次の手からパック毎たこ焼きを取り上げる。 ――どん、どん…――パラパラパラ…… 「あ、また上がった。慶次、これ全部食べちゃうよ?」 「綺麗だねぇ…」 いいよ、と頷きながら――しゃがみ込んだままで立て続けに上がる花火を見上げる。 「たーまやーッ」 慶次が次の花火に合わせて言うと、赤と蒼の大輪の花が夜空に咲いていった。観ていると細かい花火の――赤の色が立て続けに咲き続ける。 それをじっと見つめながら、佐助が微かに溜息をついた。 「花火、見れたし…俺様そろそろ帰るわ」 「え?もう?」 慶次が立ち上がると、佐助は近くにあったゴミ箱にたこ焼きのパックを捨てに行く。そして戻ってくると、手にはペットボトルのお茶が一本あった。それを開けて飲んでから、佐助は「残りあげる」と慶次に差し出してくる。 たこ焼きの濃い味に、お茶のさっぱりとした感触が心地よい。 「俺様、こう見えても、学生兼主夫なんでね。旦那達が帰ってくる前にしなきゃならないことあんのよ」 「大変だねぇ…――また誘うわ」 「ん…――」 こく、と佐助が頷く。その瞬間、慶次の視界に長い髪が、ふわり、と揺らいで見えた。見間違いかと思ったが、確かに自分達の――佐助の背後にある小道を横断しかかっている少年がいる。 「あッ!……幸村」 「え?」 くる、と佐助が振り返る。するとあちらも気付いたのか、ぱたぱた、と走りこんできた。 「佐助…良かった、見つけられたでござるッ。これは慶次殿、こんばんは」 「はいよ、こんばーんは」 「旦那?え、ちょっと…――見つけられなかったらどうしたの?」 幸村は額に汗を浮かべて――短い前髪は汗でぴったりと額にくっついていた――たぶん、此処まで走ってきたのだろう。 佐助が慌てて幸村の両肩を掴む。すると幸村はきょとんとしてから、小首を傾げて、それから微笑みながら言った。 「ん…――考えておらなんだ…」 「携帯に電話するとかさ」 「あっ」 今気付いたとばかりに幸村が驚く。それに脱力する佐助がいる。二人を見つめながら慶次は、またね、と手を振って再び屋台の合間を歩いていった。 慶次たちと別れて、佐助は幸村と並んで歩いた。その合間にも空には花火が上がっている。土手沿いに家に向かって歩く間にも、花火はよく見えていた。そして上がるたびに、腹の底に響く音を響かせていく。 少し離れると人がまったくいないのが不思議な位だった。春には桜並木が広がるこの土手には、桜の陰に隠れるかのように歩く二人の影しかない。土手の方に行けば、あふれるくらいに人がいるのにだ。 「旦那、今日泊まりだったんじゃ…」 「お前に逢いたくて、さっさと戻ってきてしまったわ」 「――――…ッ」 途中で買った綿飴を、食べにくそうにしていた幸村が、あっさりとそんな事を述べる。その言葉にどれ程の威力があるかなんて、幸村には解らないのだろう。 「佐助?」 「可愛いこと言わないでよ…俺様、心臓潰れそう」 「む…それは、すまん」 真っ赤になりながら佐助が俯くと、釣られて幸村も頬を赤らめていく。そして空に広がる大輪の花を見上げる。 「綺麗でござるなぁ…」 「うん」 「あ、またあが…――ッ」 幸村がそういいかけた瞬間、佐助は身体を屈めた。そして、幸村の言葉を奪うようにその唇に吸い付く。 ――ちゅ 甘い――綿菓子の甘い味が、唇からしていた。瞳と瞳が触れ合うと、ぽとん、と足元に綿菓子が落ちていった。 「――――……ッ」 背後では、どんどん、と立て続けに花火が上がっていく。その音を聞きながら、幸村が腕を伸ばして佐助の背に回すと、また柔らかい口付けを繰り返していった。 →28 Date:2009.08.31.Mon.22:23 |