Cherry coke days





 待ち合わせの場所に行くと既に慶次、元就、元親、佐助それに小十郎が待っていた。ぐるっと見回すと、元就と元親と慶次は和装だ。気合い入っているなぁ、と思いながら政宗は微笑んだ。

「速いな、お前ら」
「そう?まぁ、まぁ…花火に行く前にさ、少しお茶してからね」
「おおよ、まだ早いもんなぁ…」

 慶次がびくりと肩を揺らしてから政宗の背を押す。それの後に彼らも続く。だが政宗は当初予定していた人数と違うことに気付いて「あと一人は?」と聞いた。すると佐助が一歩前に出てから、今日は俺様だけでさ、と話しかけてくる。

「そういえば、あの小煩いの、どうした?」
「旦那?武田の方々とお墓参り。なんかお館様に呼ばれちゃってね。花火楽しみにしてたんだけど…」
「お子様には屋台で十分なんじゃねぇの?」
「まぁね…でもあれで、もうお子様でもないんだよねぇ」
「――――…?」

 ふふふ、と嬉しそうに笑う佐助に小首を傾げる。意味を問おうと慶次を振り仰ぐと、慶次はそっぽを向いて――微かにその耳が赤くなっていたが、やっぱりねぇ、と呟いていた。
 政宗は前に並んで歩いていたが、ふと肩越しに後ろを振り返った。其処には元親と元就に両脇を固められている小十郎がいる。
 小十郎は彼らと何かを話し、ははは、と軽く笑っていた。それを瞳を眇めながら見つめてから、くるりと前に向き直る。

 ――楽しそうにしてさ。

 楽しいに越したことはない。だが彼が笑う隣には自分が居たかった。そんな事を微かに脳裏に描きつつ、慶次の誘導に従って歩いていく。時々背後の彼らが気になったが、政宗は敢えて振り向かないように心がけていった。

 ――振り返ったら、割り入ってしまいそうだ。

 そんな狭量な自分に腹が立ってくる。だが観なければ――そんなに気にもならない。政宗は慶次と佐助との会話に専念しながら、前だけを向いて歩いていった。
 程なくして目の前に小さなカフェが現れた。オープンテラスが見える庭には蔦が絡まって、ビル街の真ん中にちょこんと現れたその部分だけが、切り取られたかのようだった。

「慶次、お前の趣味ってこんな感じなのかよ?」
「違うよぅ、ここはさ…かすがちゃんに教えて貰ったの」

 慶次がにっこりと笑ってから、先に扉を開けて「予約していた前田です」と店員に声をかけていた。
 その後に続いていく。店内は落ち着いた雰囲気で、外の熱気とは程遠い空間になっていた。客もそれほど多く入っているわけでもなく、当然のようにテラスに近い席に通された。それぞれに椅子を引いて座り込むと、目の前に小十郎が座る。目が合うと彼は口元にほんのりと笑みを浮かべた。
 花火に誘ったのは政宗からだった――それを忘れずに、こうして来てくれている。政宗は目の前に座った小十郎に少しだけ身を乗り出した。

「今日、本当に用事とか無かったのかよ?」
「ない…――あったとしても、こっちを優先したしな」
「え…――あ、そう?」
「ああ…ほら、何飲む?」

 回されてきたメニューを差し出されて、政宗はページをぺらりと捲った。その間にも彼らは夫々に決めていってしまう。
 元就がミックスジュースと言ったのを隣で元親が止めていたくらいだった――メニュー表にあるミックスジュースの量が、まるでバケツに入っているかのようだったからだ。どうやら増量メニューもあるらしい。隣で慶次が店員にオーダーをいれる。

「俺はアイスティーで…政宗は?」
「アップルティーソーダ」

 政宗がメニューを閉じながら言うと、正面の小十郎が口元に手を当てて肩を震わせた。

「何だよ?」
「やっぱり炭酸なんだな…」
「悪ぃかよ。好きなんだよ、炭酸」
「いや、可愛いよ」
「――――…ッ?」

 さらりと言われて政宗が言葉に詰まる。だが言った本人は気にもしていないのだろう。それに慶次も頷いているだけだった。だが小十郎にそんな風に言われると、どうしても好意で言っていて欲しいとしか思えない。
 政宗が照れ隠しに横を向いてしまうと、拗ねた、と元親が斜め前から指を指して笑ってきた。そうしている内に目の前にそれぞれの飲み物が運ばれてくる――だが、一通りそれらが揃うと、ふ、と店内の照明が微かに落ちた。

「――…?」

 政宗が首を廻らせて上を見ていると、店員が奥から現れた――そして真っ直ぐに此方のテーブルに向かってくる。その手にはホールになったケーキと、その上にキャンドルが灯されている。政宗が驚いてそれを観ていると、目の前にケーキが下ろされた。

「え、ちょ…――な、?慶次?」

 慶次は、まぁまぁ、と慌てる政宗をおさえる。きょろきょろと政宗が皆を見ている間にも進行されていく。ただ驚くだけでしかないが、そうしている内に周りを店員にも囲まれ、いつのまにかハッピーバースディーの歌が歌われていく。

 ――この状況って、もしかしなくても、俺…のためだよな?

 そう思うと、かぁぁ、と恥ずかしさのようなものがこみ上げてくる。こんな風に祝われるのは子どもの頃意外にない。

「誕生日、おめでとう!政宗」

 おめでとう、と夫々に言われ、政宗は口元を拳で覆った。どんどん顔が熱くなっていく。

「うわぁ…お前ら、これ…――」
「うん、嬉しくねぇの?」

 斜め前から元親が口元を吊り上げて聞いてくる。その横で元就が「早ぅ、蝋燭を消せ」とせがんでいた――たぶんケーキを食べたいのだろう。

「――嬉しい、嬉しいよ」

 口に出して言うと、恥ずかしさやら、嬉しさやらで、涙がこみ上げてくる。ぐす、と鼻をすすり上げると、正面から小十郎が、ほら、と蝋燭を吹き消すように促してきた。政宗はそれに頷くと、満面の笑みで皆の方へと向き合った。

「ありがと、な」

 言い終わるや否や、すぐに勢い良く蝋燭の火を消す。そして拍手が店内に響く中、政宗はもう一度、ありがと、と小さく口の中で呟いた。








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Date:2009.08.31.Mon.20:40