Cherry coke days 駅前にあるファーストフード店の二階で、政宗は友人二人を前にして告白をした。それを聞いて、目の前では長曾我部元親が窓辺に座り、飲んでいたジンジャーエールをごくりと咽喉に流した。 だがその隣で只管ポテトを食べ続ける毛利元就は無言のまま、ポテトを食べ続けている。食べ方がもさもさとしていて、リスのようだった。 「へぇ、政宗…おめでとう」 「なんだよその『おめでとう』ってよ」 呆気にとられて反応の困っている元親はとりあえず、といった風情で政宗に言う。ハンバーガーに齧り付き、元親に返す。そうすると二人で何かの合図でもあったかのように笑うから良く解らない。その間にも、元親は背後から手を伸ばして元就の肩に置こうとしては、元就の手に叩き落とされるのを繰り返していた。 ――元就、ポテトしか見てないのに、なんで解るんだ? 不思議に思いながら身を乗り出すと、叩かれて紅くなった手の甲を擦りつつ、元親が自分のポテトを隣の元就のトレーに置く。 「で、何だよ。相談って」 「いや…なんか、どうしたらいいのか解らなくなって」 ぐしゃぐしゃと自分の頭を掻くと、元親はにやにやしてその上から政宗の頭を撫でた。照れているのが面白い、と言いながらなのが腹が立つ。 だがそんな二人の間から、ぽつ、と透き通るような声が響いた。 「その前に相手が誰なのかを言え」 ポテトから一瞬口を離し、元就が涼しげに言う。そういわれると二人とも黙り込むしかない。元就は自分の茶を引き寄せ咽喉に流し、再び政宗に視線を送る――言え、という無言の圧力だ。政宗は口篭りながら、ぼそりと応えた。 「……センセ」 「は?」 「だーから、片倉ッ」 ――バンっ 思わずテーブルを叩く。はっと気付き、辺りを見るが珍しく客は少なく、こちらに注目が向くようなことは無かった。政宗は最後の一口分のハンバーガーを口に放り込み、ふんぞり返る。それでも言ってしまうと何だか照れくさくて、顔が熱くなってくる。 「あー…ああ、成程ね」 ――ぺちッ。 再び元親が元就の肩に手を回そうとして叩き落とされる。言い様に動いているのに、どうして元就は気付くのか。だが二人とも其処に突っ込むこともせずに、政宗に向き合っている。政宗にしてみればそれを見ているのが可笑しい。 それなのに元親は至って真面目に政宗に聞いてきた。隣では先程の元親のポテトに手をつけて、元就がもさもさと食べている。 「なんでまた急に?」 「急なんかじゃない。ずっと、好き、だったんだけど…」 「言えなかったんだ?」 にや、と笑う元親の口元が――左の口角だけが釣りあがるのが小憎たらしく見える。「悪かったな」と虚勢だけは張って応える。そして本題とばかりに身を乗り出す。 「お前らの時ってどうだったの?」 「馬鹿者、先輩は敬え」 ビシ、と元就は指先を政宗に向ける。一括りにされたのが気に触ったらしい。だが元親は隣で口に入れかけていたナゲットを、ぼと、とトレーに落とした。 「そうじゃなくて、俺ら?」 「そ。元親と元就。お前らいつから付き合ってんの」 肘をついて指先で二人を指し示す。するとその指先の動きと共に、元就と元親が互いに顔を付き合わせた。そして眉間に皺を寄せて元就が政宗に言う。 「付き合ってなどおらぬわッ」 「えええええ、ちょ…元就、それは酷いッ」 がば、と両肩をつかんで元親が元就を自分に向ける。するとその手を離そうと元就は元親を押しのけるようにして動く。 「寝言なら寝て言え、元親」 「え、いや…だって、俺らって付き合ってんじゃないの?」 「そんな覚えは無い」 ぎゃあぎゃあと言い合う二人を前にして政宗は呆れた。 ――話す相手、間違えたか…? だがこれはこれで面白い。二人の認識の違いを見つめながら、アッハッハと笑うと頭上から影が降りてきた。 「なーに、楽しげなことしてんの?」 見上げると平和そうな顔をした前田慶次がトレーを持って此方に来ていた。 「慶次、今帰りか」 「うん。あ、政宗、隣空けて」 「手前ぇ座ると狭い」 「酷いこと言うなよなぁ」 よいしょ、と腰を下ろし政宗の隣に座ると、どん、とトレーを置く。その上にはみっしりと食べ物が置かれており、彼は「ぱん」と手を合わせるとそれらに齧り付いていく。 「で、政宗、アレどうしたの?」 「意見の不一致」 「へぇ〜」 もぐもぐと食べ続ける慶次を前にして元親と元就は未だに言いあっていた。 →3 Date:2009.06.05.Fri.06:19 |