Cherry coke days 近所の祭に揃って来てみれば、見た目には解りづらくても元就が浮き足立っているのが解った。いつもよりも歩幅も細かく、屋台をちらちらと見ている。 「元就、とうもろこし、食う?」 「頂こう」 胸を張ってみるが、そこはそれ――既に元親の手にある焼きとうもろこししか見ていない。熱いだろうに、はぐはぐと食べていく姿はどうしても小動物を彷彿とさせられてしまう。そうしている間に神社の境内に出来た、小さな能舞台が組み込まれていた。 「本格的な祭だな」 「――俺、昔に来た記憶しかねぇけど…たしかあそこに上って怒られたよな」 「そうだったか?」 もくもく、とたこ焼きを食べながら元就が隣の元親を見上げる。 幼い頃、同じようにこの神社で祭があった。その時に確かに一緒に来て――その時は元親は少女のような姿をしていて、白い浴衣に金魚の模様があった筈だ――奉納舞が始まる前によじ登って怒られた。 怒られてびくびくしていた自分を、小さな背中で庇ったのは元就だった。 「覚えてねぇの?俺がさ、金魚の浴衣で…」 「兵児帯がゆらゆらしていて、金魚そのものだったな」 「なんだ、覚えているんじゃねぇかよ」 口を尖らせてむくれると、元就は食べ終わった容器を、手にしていたビニール袋にがさがさと纏めていく。 「あの頃のことを触れられるのは厭かとおもってな」 「――そりゃ…あんまり嬉しくないけど」 「けど、なんだ?」 「お前との記憶は厭なものじゃねぇからよ」 歯を見せて笑うと元就が、ふん、と鼻を鳴らした。そして「其処に居れ」というと、すたすたと屋台の方へと向かっていってしまう。 ――場所取りかよ。 辺りをきょろきょろしてみると、椅子が空いていた。其処に座り込み、傍にあった看板を見ると、もう少しで奉納舞が始まるらしい。 ――じーわ、じーわ、じーわ 夕方だというのに蝉がけたたましく鳴いている。それを雑音と思わずに、夏の風物詩だと思ってしまうのが面白くなってくる。元親は空を仰いで瞼を閉じた。夕日が差し込むのを瞼を閉じても感じられた。 ――ひやり 「――――…ッ」 「ほれ」 途端に額につめたい感触が迫って、驚いて瞼を押し上げる。すると元就がカキ氷をもって立っていた。 「え、俺に?」 「他に誰にやるというのだ」 さくさく、とカキ氷を崩しながら元就が元親の隣の椅子に座る。パイプ椅子がぎしりと音を立てた。手に元就の持ってきたカキ氷を受け取り、観てみると色が紫色をしていた。 「あの〜元就さん?これ…」 「なんだ?」 「これ、何の味?」 さくさく、と元就は自分のカキ氷を崩す。彼の方は緑色のシロップが掛かっており、其処に小豆があることから宇治金時だと知れる。だが元親に渡されたのは、紫色のカキ氷だ。 元就は事もなく、さらりと応えた。 「葡萄らしいぞ」 「そっちは?」 「抹茶だ」 「いいなぁ、俺、そっちが良かった」 ちら、と元就のカキ氷を見やると、元就は微かに身体の向きを変えて元親から取られないようにガードに入る。 「やらぬ。葡萄、いいではないか。珍しくて。食ってみよ」 「楽しんでいるだろ?」 「当たり前よ。祭は楽しむものであろう?」 ――ぺろ。 口の端についていた小豆を舐め取りながら、元就がにやりと笑う。その時に彼の舌が緑色になっていて、思わず笑ってしまった。 「元就、すげぇ色になっているぞ」 「む…――致し方あるまい」 「いいけどな」 くふくふ、と笑いながら元親は渡された葡萄味のカキ氷を口に運んでいった。 →20 Date:2009.08.10.Mon.18:00 |