Cherry coke days





 昼日中の買出しは暑くて厭になる――夕方に行った方がタイムセールもあるので嬉しい限りなのだが、隣に幸村がいるとなれば出かけない訳にはいかない。
 夏休みなのだから少しくらい寝坊しても、と思ったのは間違いだった。高校生になっても幸村は朝っぱらからラジオ体操を始めるし、その音で折角眠りに落ちようとしていた意識は完全に覚醒されてしまった。
 佐助はヤケになりながらも起き上がると、無心で家事に打ち込み、ぼんやりと昼食を何にしようかと考えていた。

「冷やし中華がいいでござる」
「了解〜。っと、麺買ってこないと」

 ばく、と冷蔵庫を開けると肝心の麺がない。それに冷蔵庫内をさっと見回してから、買出しに行った方がいいと思い立つ。
 思い立ったが吉日で、佐助は冷やし飴を飲んでいた幸村の前で、ぱたぱたと動くと、帽子を被って出かける用意をした。

「どこかに行くのか?」
「ん?買い物」
「某も行くッ」
「えええええ?ちょっと、余計なもの入れないでよ?」
「大丈夫でござる」

 がたん、と椅子から立ち上がると幸村も二階の部屋に駆け込み、どたどた、と今度は降りてくる。支度と言ってもTシャツに一枚パーカーを羽織っただけだ。だが、彼の後ろの髪が、動きに合わせてゆらりと揺れていた。

「ちょい待ち。旦那」
「うむ?」

 ぐい、と手を伸ばして彼の肩を掴む。そして佐助はゴムで長い幸村の髪を結んだ。そして「いいよ」と言うと二人で玄関から外に出ていった。
 買い物を済ませて二人で並んで歩く。
 幸村が途中でアイスをせがんだので買ってやると、半分を佐助に渡してくる――もともと二つに割れるタイプのアイスだったので、佐助もそれを咥えながら歩いた。
 口の中にソーダの味が広がる。

 ――あっついなぁ…

 隣を見ると幸村が垂れてきたアイスを格闘していた。その仕種が子どものようで、思わず笑いがこみ上げてきた。

「おお、佐助、観てみろ」

 たたた、と幸村が小走りになり、神社の入り口を見上げる。釣られるようにして佐助もまた彼の隣にいくと神社の入り口を見上げた。
 其処には屋台が軒を連ねている。毎年の光景だが、提灯が並べられている光景は、どこか異世界のようにさえ見えてしまう。

「今日は祭のある日のようだ。屋台の準備がされているぞ」

 幸村は嬉しそうにはしゃいでいる。それを横目で見つめて、佐助は大きく溜息をついた。

「――……来たいの?」
「駄目、か?」

 じわじわ、と蝉が鳴いている。その中で幸村が帽子に隠れた佐助の顔を――伸び上がって覗き込んでくる。
 夏の光に反射して、きらきらと瞳が煌いているかのようだった。だが佐助は、ふい、と視線を逸らせる。
 正直暑い中で外に出るのはあまり好きでもない。ごろごろとしたい気持ちが決断させてくれない。

「俺様、暑い中に出てくるより水風呂に入ってたほうがいいなぁ…」
「両方すれば良かろう?」

 幸村は佐助の目の前に立ちはだかって主張する。必死になる彼に、ふう、と再び溜息を漏らすと、佐助は彼のほうへと顔を突き出して言った。

 ――どうせ、屋台物が食べたいんでしょうよ。

「いいよ、その代わり晩御飯無し。ここで買って食べるってことで」

 ぐ、と詰まった幸村だったが、いいよ、と佐助が言うと途端に、ぱあ、と表情を明るくさせた。そして、ぐい、と佐助の手首を掴んで歩き出す。
 幸村の勢いに前のめりになりそうな足元を戻して、彼に引っ張られていると幸村が振り返った。

「一緒に来ような、佐助」
「はいはい」
「佐助と…その…――初デート?」

 へへ、と俯く幸村の頬が染まっていく。

「な…――、あんた何処でそんな言葉覚えたのッ!」

 思わず佐助が叫ぶと、秘密でござる、と幸村はひまわりのように微笑んでいった。そんな彼の手を――指先を絡めて握り合うと、二人は笑いながら家路に向かっていった。






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Date:2009.08.07.Fri.21:49