Cherry coke days 終業式間近のとある日、元就と元親が向き合って座っている間に顔を突っ込みながら、佐助がポッキーを口に咥えたままで聞いた。 「夏、どーすんの?」 ふと元就が机の上にあるお菓子の山から、佐助が食べていたイチゴポッキーを取り上げると、しゃくしゃく、と食べていく。 「我は勉学に勤しむが」 「祭くらい行こうぜ〜」 きっぱりと言い放つ元就に、元親は飲んでいたカフェオレから口を離してせがむ。そもそも自分達は三年生で、一応の処は受験生なのだ。いくらこの高校が大学の系列校だとしても試験は当然のようにある。志高いものや、行きたい学科のないものなどは外部受験をするのだし、どちらにせよ受験生に他ならない。 「花火…――」 ぽつ、と元就がお菓子のパッケージについていた花火の絵を見て呟く。そして顔を上げると思いついたように元親に告げる。 「花火が観たい」 「じゃあ、行くか。花火観にさ」 ぱあ、と眼に見えて元親が浮き足立つ。 ――解り易すぎでしょ、元親。 佐助は二人の間から再びイチゴポッキーを取り出すと、ぱき、と音を立てて租借していく。元親が、何処の花火に行こうか、と花火の開催地を告げていく中、唐突に元就は元親の顎先を掴んで自分のほうへと向けると、正面からじっと見つめた。 「浴衣で来い」 「はぁ?何で浴衣」 ――ぱし。 顎先を掴む元就の手を振りほどいて、元親が椅子の背もたれに踏ん反り返る。 「夏、祭、ときたら浴衣であろう」 「――そりゃ、解るけど…それは可愛い子に限るんじゃ…」 ――女の子とかさぁ。可愛いよなぁ、浴衣だと。 にしし、と歯を見せながら笑う元親に、冷ややかな視線を――切れ長の瞳をすぅと眇めて、元就が元親に向き合う。わざわざウーロン茶を飲んでから、という一呼吸も置いてだ。 「元親」 「ん?」 「貴様、可愛くなれ」 「はあ?」 ――ぶっ。 佐助は思わず食べていたポッキーを噴出しそうになった。近場にあった元親のカフェオレを横取りし、ごくごくと咽喉に流し込んでいく。 元就は窓の外を見ながら、思い出すようにして言う。 「昔は愛らしかったものを…」 「わあああ、その話は無し!やめてッ」 ――俺の人生の汚点。 耳を塞ぎ、真っ赤になりながら元親が慌てる。まったく観ていて飽きないなぁ、と佐助は思いながら、二人の間に少しだけ身を乗り出した。 「元親って可愛かったの?」 「それはもう眼にも入れても痛くないくらいに愛らしくてな」 「へぇ…」 ぎゃあああ、と叫ぶ元親を他所に、佐助の問いかけに元就は大きく頷く。 「頬もふわふわしていてな…齧りつきたくなったものだ」 ――このマシュマロのように。 ひょい、とチョコ入りのマシュマロを指差して、元就が至って真面目に告げる。すると取り合えずには落ち着いたのか、元親が息を切らしながら元就を指差す。 「実際、こいつは俺の顔とかに噛み付いてたよ」 「へぇ…ならさ、もう二人ともキスとかしたの?」 ひょい、と二人の間に広げてあったポテチを摘みながら、佐助があっさりと聞く。正直この二人は付き合っているとしか考えられない。子ども自分のときからの馴染みなら、それくらいはしているんではないかと予想もする。 どんな反応するかなぁ、と内心悪戯心満載で聞いてみたのだが、ふたりは一瞬無言になった後、顔を見合わせた。そして二人でひそひそと話し合う。 「――あれは数に入れてよいのか?」 「良いんじゃね?」 ――聞こえているんですけど。 佐助は二人の間にいる。当然ひそひそ話くらいなら聞こえる。だがあえて聞こえない振りをしながら返答を待った。 意見の一致を見たのか、くる、と首を動かして元就が佐助に告げる。 「ならばしたな。こ奴相手にだ」 「俺も。まぁ、ガキの頃の事だけどな」 に、と歯を見せて笑いながら元親も応える。こういう遣り取りを目の前でされると、なんだか照れくさくなってしまう。 ――もう…ッ!夫婦然としていて妬けるんだよねぇ。 内心そんな風に思うが口には出さない。それよりも昔から一緒で、どうしてこんなに打ち解けられるのか聞いてみたい気がしてしまう。自分なんかは、幸村と昔から一緒だが、まだどこかぎこちなくて仕方ない。 ――俺様も早く旦那とツーカーな仲になりたいわぁ。 ふう、と溜息を付きながら、佐助はぱくぱくと二人の間のポテチを食べていく。 「なんかやっぱり元就と元親は付き合ってるんじゃないの?」 その一言で元就が首を大きく横に振った。 「それは違うッ」 「違うんだってさ」 もういいよ、と諦め顔で元親が続ける。そしてすっかり忘れていたとばかりに、元親が話を蒸し返した。 「それよりも花火だって」 その一言で再び頭をつき合わせて予定を立てていく。佐助もまた帰ったら幸村を花火に誘おうと考えながら、二人の間に割り行っていった。 →15 Date:2009.07.25.Sat.09:45 |