Cherry coke days





 畳の上に置いた小さなテーブルを挟んで、身を乗り出して幸村とキスする。手を伸ばして頬に触れ、両手で彼の頬を包んで唇を近づけた。

「ん…――」

 唇が触れると甘く声が漏れる。啄ばむようにして触れていても、幸村はぎゅっと唇を引き結んでいた。さらりと触れる唇の表面は、ほんのりと熱さを伝えてくる。
 唇を離すと、佐助は腰を上げて幸村の隣に座りなおす。すると、幸村がびっくりしたように瞬きをした。再び佐助が彼の肩を掴み、引き寄せながら唇を重ねる。

 ――開かないなぁ…

 上唇、下唇と啄ばんでも、幸村は瞼も口もしっかりと引き結んでしまっている。
 はぁ、と息を吐いて、佐助は唇を離すと、幸村の口の端に親指を引っ掛けた。驚いて幸村がその手首を掴みこむ。

「あのさ、旦那…口、開けて」

 困って佐助が云うと、あっさりと幸村は口を開いた。

「え?こうか……」
「そう――…」
 ――かつん。

 すかさず顔を傾けて唇を重ねていくが、思い切り歯があたってしまう。すると幸村が今度は口元を押さえて俯いた。

「す、済まぬッ」
「いいよ、いいよ、もう一回」
「――さす…ッ」

 俯く幸村の顎先を掴み上げ、同じ要領で唇を重ねる。すると今度はぴったりと重なり合う。そして深く、吸い上げるようにして深く重ねていく。
 そうしていると、鼻先から「ん、ん」と甘やかな吐息が漏れてきた。それを感じながら佐助は、するりと口蓋に向かって舌を差し込んでいった。

 ――ぬる…

「――――…ッ」
 ――どんッ

 咄嗟に顔を下に向けて幸村が佐助の胸を押した。幸村は腕を突っ張って、あう、あう、と言葉にならない呻きを上げている――動揺しているのだろう。佐助は突っ張っている彼の手首を取ると、俯く表情を確認しようと顔を覗き込む。

「旦那?…どうかした?」
「な…なんか、ぬるっとした…ぬる、って」

 ――おいおいおい。

 かくん、と力が抜けそうになる。キスはこれで二回目だが、順番で行けばもっと先のこともしてしまっているのに、これくらいで動揺してしまう幸村に、苦笑するしかない。

 ――でも可愛いんだよね。

 そう思う自分はどうかしている気もする。幸村は相変わらず真っ赤な顔で、ぬるぬるした、と半泣きになっている。

「もうッ!いいから、ちょっと我慢してみてよ」
 ――すぐ快くしてあげるから。

 云うや否や、佐助は幸村の手を引っ張ると畳みの上に押し倒した。そして彼の唇をむさぼりだす。閉じようとする口に指先を挟み、そのまま舌を差し入れる。

 ――くちゅ、ちゅ、ちゅ、

「ん…――っ、ふ」

 絡めとる舌先についていけず、幸村の口から甘い吐息がしきりに漏れていく。そして呑みきれない唾液が、つつ、と口角を伝って落ちていく。

 ――じゅ。

 強く舌先を吸い上げると、今度は気持ちよさそうに幸村もまた舌先を差し出してきた。

 ――やばいなぁ、俺様のほうが気持ちいい。

 とろん、としている幸村の顔を見ながら、どんどん煽られている自分に気付く。このまま重ね続けて、出来れば唇以外も味わってしまいたくなる。
 だが、幸村が咽喉を反らし、はふはふ、と酸素を求める様を見て、そっと口唇を離した。そして濡れた彼の唇を指先で拭うと、ぐったりと畳みにあお向けになっている彼のに聞いてみる。

「どうだった?」

 はっと幸村は覗き込む佐助に気付き、ころん、と身体を反転させた。そして口元に指先を当てて、ぼそり、と呟く。みれば項まで真っ赤になっていた。

「――――…はれんち」
「ぶッ!!」

 思わず笑い声が漏れてしまう。順番は間違ったけれど、これくらいで照れてしまう彼が可愛くて堪らない。佐助は畳みに横になったまま、可愛いねぇ、と云いながら幸村を背中から抱きしめた。その間、幸村は「ううう」と唸りながら顔を両手で覆っていた。








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Date:2009.07.11.Sat.23:53