誕生日を祝おう 「何か隠しては居らぬか?」 一日の仕事を終えて店内の掃除をしていると、ふと幸村が佐助に言った。背中を向けて、箒を手にしている背中が小さく見えてしまう。 ――ごめんね、旦那。 真実、隠し事をしていないとは言えない。だが此処で幸村にばらしてしまう訳にはいかない。佐助はそっと幸村の背後に近づき、腕を回した。 「佐助…?」 「旦那、可愛いね」 ひんやりとした感触に幸村がほうと息をつく。そして背中に感じる冷たさに寄りかかりながら、はたり、と気付いて振り返った。 「そうではないッ!お前、俺に何か隠し事をしているのではないか?」 「んー…?」 慌てる幸村の項に、佐助はそのまま唇を寄せる。すると、びく、と幸村が震えた。佐助は抱きしめる手に力を篭めながら、項に何度もキスしていく。 「人の、話を…ッ、んっ」 「感度良いねぇ、相変わらず」 佐助は口付けながら、ぺろ、と其処を舐めていく。すると幸村は体を前傾になりながら逃れようとする。 「逃げないで。旦那…俺のこと疑ってんの?」 「そ…そう、だ」 「酷いな。俺様、こんなに旦那一筋なのに」 佐助が寂しそうな声で幸村の項に頬を寄せる。すると幸村も身体を起こして、ゆるゆると手を背後に向けた。首元に降りかかってくる佐助の茜色の髪を、指先で弄りながら撫でていく。 「すまぬ…だが、何やら…何と云うか、いつもと違うような」 「気のせいだよう」 佐助は自分の胸元に幸村を引き寄せて頬を寄せていく。すると幸村も応じるようにして、近づいてきた彼の顔に、瞼を落としかけた。 「Hey!其処のバカップル!!いい加減にしろッ。さっさと晩飯運びやがれッ」 「ははははははいッ!」 びくっと幸村が背中を伸ばして政宗の声に反応する。慌てて佐助の腕を振り解くと、ばたばたと箒を終いにいった。それを見送りながら、佐助は背中を伸ばしながら前髪を掻きあげて、嘆息した。 「邪魔しないでよね、竜の旦那」 「何処でも盛るんじゃねぇ。このサルッ!」 「あのねッ!俺様が百日紅だからって、サル呼ばわりするの止めてくれない?」 カウンターに近づきながら佐助が嫌そうに眉根を寄せる。だが政宗にはまったく応えていないらしく、フン、と鼻先を鳴らして更に口を開きかけた。 「政宗殿、今日は焼肉なのでござるねッ!某嬉しゅうございますッ」 「あ…おう…。しょうが焼きのたれ、残っちまったからよ」 「某、肉を食したいと今朝言っておりましたが…何たる感激っ!大好きでござるッ」 幸村が横からカウンターに並べられていた、賄い用の食材をみて目を輝かせた。そして更に背伸びをして政宗に抱きつきそうな勢いで迫る。 「好…、お、おお…Thank you」 流石に政宗も驚いたのか、ほんのりと眦を染める。そんな二人の間で今度は佐助が飛びついた。 「ちょ…旦那、駄目!これは竜の旦那でしょ?好きになっちゃ駄目ッ」 「佐助…しかし政宗殿は」 「あああああもうッ!あんたには俺様が居るでしょーッ」 ぎゃあぎゃあと再び喚き出す彼らを遠巻きにしながら、いつものテーブルに座った元就は片肘をついて皿の中の西瓜を口に運びながら嘆息した。 「何時になったら、飯にありつけるのかの…」 「さぁなぁ。元就ぃ、西瓜、もう少しくれ」 「ほれ。食うが良い」 しゃく、と残りの西瓜を元親に向けると、元親は両手を西瓜の汁でべたべたにしながら齧りついていった。 こくり、こくり、と舟を漕ぐ姿に、政宗は布団を敷きながら声をかけた。 「小十郎、お前最近よく寝るな」 「…ッ、あ、いえッ!大丈夫でございますッ」 自宅の布団の中に潜り込んで政宗がうつ伏せで小十郎に手を差し伸べる。敷いた布団の枕元にあるローテーブルに、小十郎の梅がある。其処の前で正座をしながら舟を漕いでいた小十郎は、急いで起き上がると政宗の枕元に走っていった。 「花期も終わりましたし、休眠時期でございますれば…斯様に転寝することも」 「そうだけどよ…お前、結構頑張って起きてるだろ?休める時に休んでくれ。来年また俺にお前の花を、満開の花を見せるためによ」 「――…ッ、政宗様」 小十郎の瞳がふるりと震えて潤む。政宗は彼の頬に指先を向けて、ふわふわの頬に触れた。すると、ぽろん、と小さな涙が零れる。 「小十郎は…嬉しゅうござりますっ。政宗様が小十郎めの事をそのように思ってくださっておるなど」 「だって、お前は俺の…」 くう、と涙を手の甲でふき取る小十郎に政宗はからからと笑いながら――そして一度言葉を切ると、ぽふ、と枕に顔を埋めて――言った。 「俺の、最愛の…」 「え?」 くぐもって聞きとれなかった小十郎が、枕元に駈け寄る。枕から少しだけ顔を動かして政宗は彼を見ると、むんずと小十郎を掴みこんで頬擦りし始めた。 「Shit!サルと幸村の野郎〜、羨ましくなんたねぇんだからなッ」 「ままま政宗様?」 「俺も、小十郎とイチャつきてぇぇぇ」 「何ですとぉぉぉぉぉぉ」 政宗は小十郎を引き寄せたままでゴロゴロと布団の上を転げ回る。同じようにして転がされた小十郎は目を回しながら、後は寝入ってしまっていった。 →next 100814 up |