誕生日を祝おう 夏も真っ盛りの8月を前にして、メニューも夏の様相を呈し始めていた。連日続く猛暑日に、涼やかなものが一番食べやすいよな、と政宗が呟く。 昼の休憩に向う政宗の肩から、三頭身の小十郎がぴょんと飛び降りた。政宗は昼休憩の際に、少しだけ昼寝をする。和室の休憩室に向うとそのまま、ずさぁ、と畳の上に転がった。そして程なくして、ごろり、と仰向けになるとそのまま瞳を閉じてしまう。 「政宗様、政宗様、おなかに何か掛けないと風邪を召されてしまいますッ」 「あ〜…解ってる…」 呟く政宗は既に眠そうだ。小十郎は小さな身体で「うんしょ、うんしょ」と掛け声を掛けながらタオルケットを引っ張ってきた。すると瞼を閉じたままの政宗が、ひょい、とタオルケットごと小十郎を引き上げて、無造作に腹に乗せる。 「お前も休め…この暑さだ。しんどいだろう?」 「わ…私は大丈夫でございます」 「無理言うな。な?」 小十郎が政宗の胸の上で正座をすると、政宗はくぐもった笑いを残して、そのまま寝息を立て始めていった。 それを見計らってから、小十郎はそっと政宗の胸元から飛び降りると、急いで皆の元に駆け込んでいった。 「元就、元就ィ!」 元気な声を上げて、接客中だった元就を元親が呼び止める。元就は構わずにそんな元親をお盆の下敷きにしつつ、客に会釈をしてからカウンターに戻った。するとすぐに目の前に復活した元親が仁王立ちになっている。 ――なんとも神出鬼没な…。 流石に華の精というだけあって、時々姿を消すこともあるし、不安定ながら大きな姿になることもある彼らだ――元就は不思議に思う事無く、かたん、とカウンターに入り込むと冷やしておいたバットを取り出して、包丁を入れ始めた。 「元就ってばよう、聞けって」 「やかましいわ、仲間と遊んでおれ」 「そうじゃなくて、ちょっと頼みがあるって…」 ぴょんぴょん跳ねる元親に、さらり、と元就が包丁を向けた。そして眼光鋭く睨みつける。こういう時は非常に怖い。 「今、我は何をしているように見える?」 「寒天切ってるんだろ?」 「その通りよ。集中しておるのだ、黙っておれ」 「でも小十郎が…」 しゅん、と項垂れながら唇を突き出してすねる元親に、はた、と元就は手を止めた。それと同時にカウンターには佐助が戻ってくる。 「5番さん、みつ豆3つだってさ。頼むよ〜って、どしたの?」 「佐助ぇ!いいところに来てくれたぜ」 花期になり実体となっている佐助は、濃い緑色のエプロンをしながらお盆を肩に掲げる。髪は軽くゴムで結わえており――というよりも、今日は幸村と同じ赤いゴムをしている辺り、彼に「鬱陶しい」とでも言われたのだろう。 助けの手とばかりに佐助に両腕を上げた元親は、カウンターの間で仁王立ちになっている。そして佐助の肩から、ひょい、と小十郎が飛び降りてきた。いつの間にか佐助にくっついて此処まできたらしい。既に佐助も彼から何か聞いているのだろう。直ぐに促がした。 「右眼の旦那、言ってみなよ」 「折り入って相談があるんだが…聞いてくれぬか」 小十郎がカウンターの上に立ち、大きな頭をくるんと上向きにして元就に向き合う。元就は一度だけ、手にした包丁を置くと「申してみよ」と告げた。すると小十郎はこくりと頷き、少しだけ照れくさそうに咳払いをしてから皆に告げた。 「今度の3日は政宗様の誕生日なんだ。できれば祝いたいのだが…皆にも尽力していただきたく…」 堅苦しく告げる小十郎に――なのに形は小さな三等身だ――佐助も元親も元就も、ふ、と口元を緩めていった。 外で、みーんみーん、と蝉が大合唱を始めていくのと、店内に響く幸村の声を聞きながら、彼らはそっと企み事を始めていった。 →next 100814 up |