drops 食後に少しだけ休んでから再び浴場に足を運んだ。浴場に入る手前で、すれ違った宿泊客に、ぺこりとお辞儀をしあっていく。だが中に入ってみると誰もいないという有様だ。 もはや貸切の気分で足元さえも浮き足立ってしまいそうになってくる。 「それにしても、こうも人に会わぬとは…」 「シーズンオフなんだから仕方ないんじゃない?」 洗い場でまずは軽く身体を洗ってから露天に行こうと、隣り合わせに座って洗う。ついでに幸村の背中も流してやると、同じように幸村も佐助の背中を流してくれた。 「いや、食事前に来た時には初老の方にお会いしたぞ」 「それ言ったら何回入りに来てんの?」 ――体力使うでしょうが。 ごしごしと泡立てたタオルを背中に向け、幸村が覗き込んでくる。猫背になりながら肩越しに振り返る。視線があうと幸村は慌ててシャワーで佐助の背中の泡を流した。 ――あれ? 先を促がす幸村にふと違和感を覚える。いつもは視線を合わせて話すのが幸村だ。それなのに今は反らさなかっただろうか。 何かあったのかと脳裏で微かに考えながら、佐助もまた立ち上がると、大浴場の奥のドアへと向っていった。 キィ、とドアを開けて直ぐに、肌に冷たい外気が触れてくる。随分と暖かくなったとは言え、やはり山間部はまだ寒いのだと知らされるようだった。それに湯で濡れた身体だ――冷えてしまうのは致し方ない。 ドアを出て直ぐに幸村は左隣にあるドアに気付いた。 「お、タオル室?」 「へぇ、此処で新しいタオル持って露天に行くわけか」 中を覗きこんでからバスタオルを取り出す。肩からかけてみると、一枚だけなのにほわりと暖かい。備え付けられていたサンダルを履いて、バスタオルを肩に羽織って、かこかこと音を鳴らしながら階段を下っていく。 「結構遠いな」 「さっき来なかったの?」 「佐助と来たかったのでな」 「…ふぅん?」 階段を下りながら幸村がさらりと言ってのける。 ――俺様を待っててくれたって訳か。 佐助よりも多く入浴しに来ている幸村が、好奇心に負ける事無く、自分と一緒に来たいと言う思いだけで我慢していたかと思うと、感慨にふけりそうになってしまう。さもすると、にまにまと歪んで来そうになる口元に手を宛がって覆い隠していると、半歩先を歩いていた幸村が唇を僅かに尖らせた。 「何だ、嬉しくないのか?」 そんなことないよ、と首を振っていると、眼下に露天風呂が眼に入った。それには幸村も直ぐに気付いて一気に突進して行く。 四角い屋根を持った露天には、ゆらゆらと篝火が焚かれて湯の上に赤い色を落としている。それに合わせて露天風呂の左側には、ざあざあ、と源泉の滝が出来ており、白い湯気を辺りに漂わせていた。其処は小さな小川のようになっており、見ている分には庭の一角のような造りだ。 「おお、綺麗じゃないか!」 かこん、とサンダルを脱ぎきった幸村が先に湯船に入り込む。ざぶざぶ、と中に入りながら入り口にあった篝火を覗き込む。 彼に習って佐助もまた中に足をいれると、じわりと熱さが染みてきた。 「わぁ…あ、ちょっと熱いね」 「いい湯加減だ」 ――とぷん。 じっくりと温まるのを待って佐助が腰を屈めて行く中で、幸村は一気に首元まで浸かってしまう。少し熱めの湯が染みてきて心地よい。腰を屈めたままで中に進みこんでいく。 「旦那、もっと真ん中まで行って」 「ん?うむ」 ――とん。 ふと肩がぶつかった。すると幸村は、すい、と即座に離れて温泉の中央まで行ってしまう。 ――あれ? 少しの違和感を感じて小首をかしげかけるが、佐助もまた側にあった岩に背を預けて寛いだ。 その間にも、すいすい、と幸村が動いて佐助の直ぐ隣に移動してくる。湯がゆったりと波紋を描いて広がり、また湯の落ちる音が響く。 「はぁ…生き返るねぇ」 「真に」 二人で大いに嘆息していると、肩が触れた。それに気付くと何食わぬ顔で幸村は、す、と離れる。 ――なーんだかな。 横目で彼を見るが、幸村はあえて視線を合わせない。篝火の光が幸村の顔に映りこんで、オレンジ色に染まっていく。 「あのさ、気になってるんだけど」 「うん?」 「こっち見て」 相槌を打つ幸村を斜めに覗き込むと、幸村は慌てて視線を反らそうとする。佐助は意地悪くそれを阻みながら手を伸ばして幸村の顎先を掴んだ。 すると自然と顔がこちらに向けられる。驚いたように見開かれてから、すい、と彼は視線を背けた。 「あのさ、旦那。俺のこと避けてない?」 「そ…それは…――っ」 そんな事はない、と幸村が力説しかかるが、はたりと気付いて気まずそうに肩を竦めて湯に沈む。 「そうあからさまだと、どうしたのかな、って俺様気になるわけよ」 「――…す、済まぬ」 顎先まで湯に入れて――たぶん体育座りになっているのだろう――幸村はきょろきょろと視線をおよがせた。 「で?どうしたのさ。俺様、何かした?」 佐助が岩に座って足を組みなおす。そして膝に肘を添えて頬杖をついていると、彼も伺うように見上げてきた。 「笑わぬか?」 「笑わないよ」 ぱしゃん、と幸村は両手を合わせて鼻先に湯をかける。気合を入れているかのような仕種を眺めていると、幸村はオレンジ色の篝火を受けてどんどん顔色を赤くしていく。 「佐助が…普段よりも色っぽく見えて」 「はい?」 ぎゅっと瞼を引き絞って言う幸村に、かくん、と力が抜けかかる。 「それに、こ…恋人同士っていう感じがするな、って思ったのだ」 「うん?」 「こ…婚前旅行のような…」 「――…ッ」 とぷん、と幸村はそのまま鼻先まで湯に沈んでしまった。流石に佐助もまたずるりと身体を湯の中に沈ませてしまう。 ――本当に初心なんだよなぁ。 可愛らしいことを言うじゃないか、と思わず空を振り仰いでしまう。四角い天井の端から、きらきらと星が瞬いているのが見えた。 「笑いたければ笑ってもいいぞ」 「笑わないよ」 「おなごのような、女々しいと、」 ぶくぶく、と口元まで湯に浸りながら幸村が言葉を濁していく。出ている首筋までも赤くなっているのを見つめてから、佐助は徐に身体を寄せて、横から彼の顎先を掴んだ。 「そんな悲しいこと言う口はこれ?」 視線が合う直前、掬い上げるようにして唇を触れさせる。 「ん…――…っ」 唐突のキスに、こく、と軽く幸村の咽喉が動いた。たぷん、と湯が緩やかな波を立てていく。一度触れてしまえば、もっとと思わずにはいられない。佐助は唇を合わせてから、角度を変えて強く押し付け、彼の口を開かせた。横に並んだままで唇を合わせていくと、鼻先から幸村が甘えたな吐息を吐き出す。 それを見計らってから、す、と身を引いて岩の上に座りなおした。そして幸村を引き入れるように腕を伸ばす。 「こっちに来て」 「あ、でも…」 差し出された手に幸村の視線が泳ぐ。逡巡しているのが伺える――この後、何をするかなど、彼にだって解っているのだ。 「いいからさ」 湯で温まった身体が余計に熱を欲して疼き出す。佐助の腕に手を添えてきた幸村を引き寄せ、そのまま自分の胸元に引き込むと、今度は湯が跳ねるほどの勢いで彼を抱きしめていった。 正面から向き合いながら、唇を何度も合わせていく。上唇を吸い上げ、開いた歯列の合間から舌先を捻じ込んで絡める。くちゅくちゅと音を鳴らしながら、舌先を絡ませあうと、ふ、と幸村が苦しそうに眉根を寄せた。頃合を見計らって、ぎゅうと唇を触れ合わせて、彼の口腔内を全て蹂躙するように奥まで舌を捻じ込んでいく。 「んっ、く……ぅふ」 「苦しい?」 じゅ、と音を立てて舌を吸い上げてから離すと、とろんと瞳を潤ませた幸村が、こくりと頷いた。宥めるようにして佐助は頬を摺り寄せると、彼のこめかみから頬に掛けてを、啄ばむようにして触れていく。 「佐助…さ、すけッ」 「うん?どしたの」 腕を突っ張って幸村は着きそうになっていた胸を離して、はあはあ、と肩で呼吸をしていく。そして潤んだ瞳で佐助を見上げると、ふわりと眦に朱をのせていった。 篝火のせいもあって、ゆらゆらと彼の瞳が揺れていて、やたらと艶めかしく見えてしまう。だがそれは佐助だけではなく、幸村もだったようで、じっと佐助を見つめていたかと思うと、困ったように口篭った。 「何やら気恥ずかしい…」 「どして?」 「佐助がいつもより大人に見える」 「そりゃ年上だけど?旦那よりは大人ってね」 「そうじゃなくて」 ぱしゃん、と湯から手を出して、そっと佐助の首に引っ掛けると、幸村は自分から首筋に鼻先を埋めてきた。甘えるような仕種に、寄り添ってきた彼の身体を支える。 「――…?」 「佐助が…色っぽくて、目のやり場に困る」 佐助の首筋に顔を埋めて言う幸村の背に手を添え、するりと撫で下ろす。そのたびにふつふつと彼の肌が粟立っていく。 濡れた肌が、篝火に照らされて妖艶な雰囲気を醸し出していく。隆起した筋肉の作り出す陰や、彼の肌の色が、先程から佐助を煽って仕方ない。湯の中では互いの足が時々ぶつかっては離れ、余韻を残すように湯が動いていく。 「それは旦那だってそうだよ」 「な…――っ!」 かり、と幸村の耳朶を甘噛みすると、耳孔に舌先を滑らせた。濡れた耳孔に、ふ、と息を吹きかけると、ぶる、と抱き締めている幸村の身体が震える。 「俺様、さっきから理性飛びそう」 囁きながら、胸元に手を添えると、彼は余計に逃げをうつように身を引いた。手には小さくも硬い感触が触れる。 ――乳首、勃ってる。 指の腹でそれを押し潰したい衝動に駆られるが、それよりも先に幸村が胸を離してしまった。逃げていこうとする彼の腰に手を添えて佐助はぐっと掴む。 「逃げないでよ、ね?旦那ぁ」 「だ、って…」 ――ばしゃばしゃ。 逃げをうつ彼の身体を半ば強引に抱き締めると、そのまま佐助は湯の中を突き進んでいった。とん、と背中が露天の縁に辿り着くと、幸村が肩越しに振り返る。 「旦那、其処に両腕ついて」 「え…――?」 背に当たる縁に視線を流した幸村に、佐助は囁く。逡巡している間に、佐助は腕を動かして幸村を反転させた。そしてぐっと腰に当てた手に力を入れて引き上げる。 勢いで、縁につかまったまま胸元を湯に沈めた幸村が、ぷは、と顔を起して振り返った。 ――すっげ、やらしい… 佐助の視界には腰だけを湯から突き上げている姿が眼に入る。幸村もまたそんな体勢になっていることに気付いたのか、あわあわと口元を動かした。このまま逃げられては堪らない――佐助は自分の胸を彼の背に覆わせると、ぐっと指先を彼の臀部の割れ目に滑り込ませていく。 「後ろからするから…」 ――かり。 首筋に後ろから甘噛みすると、幸村は小さく甘い吐息を吐き出した。 「ほら」 「――……ッ!!」 ――くぷくぷ。 湯に浸かりながら指先を彼の後孔に添えさせると、全く準備もしていなかったのに、簡単に中に潜り込んでいく。 「あ…あっ、あ…ぁ」 ぐちぐちと入り口から中に指を出し挿れしていくと、幸村の腰ががくがくと揺れ始めた。動くたびに湯がばしゃばしゃと音を立て、雫を弾かせていく。それを眺めながらも佐助はそっと彼の前に手を差し入れた。 「うぁ…ッ!さ、佐助ッ。駄目だ…ッ」 「何で?」 「触ったら…出る、から…ぁ」 前に差し込んだ手を動かしていくと、泣き声にも似た声で哀願される。湯の中に浸っているせいでどれくらい彼が興奮しているか解りずらいが、しっかりとした質量になっていることから、かなり果てが近いのが解る。 「ぁ、やぁ…――ッ、あ、あ」 「なんで厭なの?」 「湯が…汚れ…っ」 ぎゅうと歯を噛み締めて耐えている幸村を背後から覗き込むと、鼻先に汗を滲ませて、目頭からぽろぽろと涙を零しながら耐えている。 それでも細やかに吐き出される吐息が切なくて、余計に佐助に興奮を伝えてくる。佐助は彼の陰茎の根元をぎゅっと握りこんだ。すると今度は悲鳴にも似た声が咽喉から絞り出されていく。 「――…ひぃ、っく、ぅッッ」 がくがくと震える身体を支えながら、佐助は自分の腰をぐっと彼の臀部に押し付けた。そして後孔に滑らせるようにして、ぬるぬると自身の陰茎を擦り付ける。 「解る?」 「んん――…っ」 擦られるだけでも感じるのか、幸村が首を軽く降り始めた。背に、肩に、彼の長い髪がぺたりと張りついている。それを掻き分けながら、佐助はぐっと指先を彼の後孔に当てると、ぐう、と拡げていく。 ――こぽ。 「あ、あぅ…やだ、湯が…」 「中に入る?」 いやいや、と首を振る幸村の耳元に業と――羞恥を煽るようにして――囁くと、幸村は素直に頷いた。それでも人差し指と中指で、ぐい、と拡げていくと、幸村の足が逃げを打って暴れる。湯の中に入ったままの臀部に陰茎を押し当て、佐助は合図もなしにぐっと強く押し込んだ。 「――――……っ!」 幸村の咽喉から引き連れたような摩擦音だけが響く。ぐ、ぐ、と揺すりあげるようにして彼の後孔の中に全て収めきると、佐助は上体を折りたたんで首筋に噛み付いた。 「お湯の中だと柔らかくなりやすいねぇ…気持ち良い…」 「は、はふ…ぅ、さ、すけ…――」 「なんか楽しい、ね?」 はふはふと呼吸と繰り返す幸村は既に、とろんと視線を蕩けさせている。後ろから彼の頤に手を添えて振り向かせ、唇を合わせると、ぽた、と髪から落ちてきた雫が鼻先に触れた。 ――ぱしゃ、ぱしゃん。 口唇を合わせながら、軽く腰を打ちつけると、湯が軽く跳ねる。幸村は片腕を後ろに回して、佐助が動くのを阻もうとしてきた。 「んッ、あぅ…――誰か、来たら」 「大丈夫だよ。こんな時間に来ないって」 ――だから、溺れてみよう? まるで悪魔の誘惑だ、と思いながら佐助は唇にそんな誘いを乗せる。それでも湯が汚れると首を振る幸村を説き伏せるのは難しい。 ――ぱちゅん、ぱちゅ、ぱしゃ。 「あ、あ…駄目、駄目だって…――言ってる、の、に…」 「だって達きたい…旦那、可愛い」 湯の音を弾かせながら何度も腰を打ちつけていく。徐々に快楽に負けていく幸村が、ずるずると湯に沈みそうになった。 ――ばしゃん。 「え…――っ」 「これなら良いでしょ?」 沈みそうになった幸村の腰を持ち上げて、縁に乗り上げさせる。そして言い様に佐助は強く穿ち始める。そうなると幸村からは反論は聞こえなくなっていった。 「だ…駄目だ…もぅ…――ッ」 抜き挿しを強く繰り返していくと、ぶるぶると幸村の身体が震え始めた。そして一際強く腰を打ち付けると、幸村は呆気なく吐精していった。 →3 100520 up まだ続きます。 |