それが僥倖だとしても



 ――側にいたいと願うのは、どうしてなんだろうか。



 絡めた指先を離せずに、花の上に寝そべる主を見下ろしていた。気持ちよさそうに瞼を下ろして、指を絡めて、ただそれだけなのに、どうしても涙が零れてきそうだった。

 ――俺はこの人を守れるだろうか。

 自問して、応、と自身に言い聞かせる。弱気になるのがどうかしている。
 忍隊の長として、彼の影として、こうして側にいることを決めたときに、それは刻まれた刻印のように自身を立ち上がらせるものだ。

 ――自負なんて。

 今は意味をなさない。
 絡まった指先を引き寄せて、其処に唇を近づけて、そっと触れた。

 ――旦那の全て、愛しているよ。

 伝わることはない。
 言ってはいけない。
 触れては、いけない。
 だが、どうしても欲しくてならなかった。欲しくて、咽喉から手が出るほど、焦がれ続けていた。

「佐助…」
「何よ、旦那」
「戦場が、遠い……」

 ざあ、と花びらが舞った。花に埋もれた貴方が手を空に――虚空に伸ばして言った。

 ――そうだね、遠いね。

 だけど、再び見開いた彼の瞳には焔が揺らめいていた。










 どれ程待ち望んだのか、目の前に恋焦がれた相手が立っていた。伸びた手は空をかくことなく、彼に触れていく。
 抱き締めあって、互いの存在に気付いて、強く、強く抱き締めた。

「佐助…やっと、見つけた」
「それはこっちの台詞だよ、旦那ァ」

 ――あんた、何処に行っていたのさ?

 探して、探して、狂いそうな程、焦がれて。
 それでも諦められなかった。再び逢えたら言おうと決めていた言葉を佐助は、彼の耳朶に囁いていった。

 ――もう、二度と離さないで













2009.11.10/100102 up 佐助視点
此処から全てが始まる。