連鎖の果て




 二度、失くした右眼――あれから背中が寒くて、お前の温もりだけを求めていた。




「――…んぅ、っ」

 咽喉の奥から搾り出すように吐息を吐き出すと、身体からずるりと熱い塊が抜かれていく。

「s――top! まだ、抜くんじゃねぇよ!」
「え、いや…もう…」

 がし、と自身を引抜こうとしていた男の腰に両足を絡めて引き寄せる。

「小十郎、お前さぁ…俺をどれだけ待たせるわけ?」
「そんなこと言ってもなぁ…これでも貴方よりは歳とってますので」
「爺臭ぇこと言うなよな」

 しし、と歯を剥きだして笑いながら、自分の腰を浮かせて後孔に彼を全て収める。腕を背中に回して熱い身体を引き寄せていく。

「俺さぁ、運命だって思ってたんだぜ?」
「運命?」

 ゆさ、と自分から腰を浮かせて彼にしがみ付きながら――ぶら下がるかのような姿勢で、動かすと下肢がずんと重くなった。それに合わせて、彼の眉根が引き結ばれていく。

「そ。この右目がさ…また駄目になって、そんで…――このご時勢で悲観的になるより、お前に見つけてもらうための、運命だって」
「政宗…――」
「だって、俺の右眼はお前だからさ」

 ぐ、と彼の逞しい腕が腰に周り、背中をぐっと引き寄せられる。引き起こされる反動のままにキスを交わし、唇を深く絡めていく。あわせた唇の中で、くちゅくちゅと濡れた音を立てて舌先が絡まっていく。
 政宗は小十郎の上に乗り上げて、少しだけ背中を伸ばした。すると空かさず、小十郎の掌が腰から背中に上るように滑りあがってきて、ぞくぞく、と痺れを残していった。

「あ…――、暖っけぇ…」

 小十郎の手の温かさに肩をすくめると、手が伸びてきて政宗の右眼に掛かる髪を掻きあげた。

「運命、か…それを言ったら私もですかね」
「ああ?」
「眼科医になって、執刀を担当した子どもが、貴方だったなんてね」

 まるで猫の頭を撫でるように、何度もくるくると動く小十郎の手に政宗は業と頭を摺り寄せていった。そして彼にしがみ付きながら、ふふ、と笑った。

「一発で解っただろ?」
「今生でもまた貴方の右眼を抉ることになろうとは」
「違う」

 しがみ付く上体を――胸を起して、掌で小十郎の顔を正面から包み込む。

「――…お前の居場所だ、此処は。だから…良いんだ」

 ――you see?

 とんとん、と自分のなくなった右眼の部分を指差す。すると小十郎は一度、瞑目してから頷いた。

「あ、でも前より痛くないだけましか」
「そういう事言いますか」
「医学の進歩って凄いよなぁ」

 政宗が小十郎に抱きつきながら、彼の耳朶に甘噛みをする。その合間にも少しずつ――緩やかに腰を動かして抜き挿しを繰り返していく。

「なぁ、小十郎〜。もう一回」
 ――お前に突いて欲しいんだけど。

 緩やかな刺激に耐えかねて、政宗が強請った。

「そう言って何度目ですか。もう寝なさい」
「だったら抜かないままで…」
「馬鹿言うんじゃない」

 苦笑する小十郎が、強く持ち上げるように政宗の足と腰に両腕を絡めた。それに気を良くして、政宗は熱の波に飲み込まれていった。








 ――あんな想いはもうしたくない。
 貴方を失った、あの日。
 冷えるこの身体を、自分の腕で支えるしか出来なかったあの日を。








20090904/091101 up