Black Halloween? 毛利の館に足を伸ばして、ごろごろと彼の居室内で転がっていると、不意に元就が口を開いた。 「甘味を寄越さねば、悪戯するぞ」 言い方がやたらと棒読みだ。まるで紙に書いたものを読んでいるようなものだった。 「――…元就、何を棒読みしてるんだよ?」 「と、いうらしい」 元親が転がったままで首だけ廻らせると、ぱら、と書物を捲りながら元就は答えた。書物から視線を外さないのを確認してから、ふい〜、と溜息をついてから、元親は身体を起こして、どすどす、と足音を立てて元就の側にくると、彼の目の前に掌を向けてひっくりかえした。 ――ばらばらばら。 床に小さな包みが沢山転がる。干菓子や、飴、金平糖、一口饅頭と、小袋をひっくり返して元親が元就に示すと、元就は落胆したかのように書物を閉じた。 元就の様子に、元親が小首を傾げる。 「何だよ、寄越せって云ったじゃねぇか」 ――何か不満でもあるのかよ。 元就は散らばった菓子を再び袋に詰め込むと、軽く舌打ちをしながら側にあった白湯に手を伸ばした。 「チッ…!」 「舌打ちすんなよな」 「くれぬのなら良かったのに」 ふう、と息を吹きかけながら、熱い白湯を啜る。静かに落胆する元就に元親が噛み付いていく。 「何だよ、それ!やらなきゃ、やらないで、こっ酷く云うくせに」 「くれぬのなら、四国に向けて兵を出そうと…」 「手前の悪戯は度を越えてんだよ」 ――全てお見通しだっての。 べえ、と元親が舌を見せる。そしてそのまま元就を引き寄せて、ぎゅう、と腕の中に抱き締めた。じたばたと元就が暴れるのを羽交い絞めにする。 「け、計算していないぞッ!」 「偶には負けろよな」 ぎゅうぎゅうと腕の中に元就を収めて元親が、あはは、と声をたてた。そうして抱き締められていると、ぽつ、と元就が口を開く。 「――…餅はあるのか」 「あるぜぇ、ほらよ」 さっと横においてあった箱の蓋を開いてみせる。其処には今朝に突いたばかりの餅が入っていた。 ――だからお見通しだって言っただろ。 ぐぐぐ、と言葉を詰まらせて元就が、餅を指差した。そして悔し紛れにもう一度舌打ちをしてから、元親の腕の中で呟く。 「くれるのならば良い」 「あっそ」 元親が腕を伸ばして箱の中から一つを取り出す。それを元就の口元に向けると、彼はそのまま餅に、ぱくん、と食いついていった。 了 091024/091112up |