儀式のような、祈りのような





 政宗の背後から腕を絡めて抱き締めると、そっと彼は振り返る。そして左目で小十郎を確認すると逡巡してから、ふう、と瞼を落とした。

 ――それが合図。

 駄目な時は駄目と、しっかりと告げてくるから解りやすい。小十郎は顔を近づけて肩口から覗き込むようにして彼の唇を辿った。

「珍しいな…」
「何がでございますか?」
「お前から誘ってくるなんてよ」

 啄ばむキスを繰り返していると、ゆっくりと政宗は振り返ってきて小十郎の背に両手を回してきた。そのまま胸元に頬を押し付けてこられると温もりがくすぐったい。

「そんなに珍しいですか」
「ああ… いつも俺からだ」
「この小十郎も時として貴方様がほしくて堪らぬ夜もございますれば」

 甘えるように擦り寄ってくる政宗の身体を抱き締めて、同じように彼の背をなでていると、それだけで満足してしまうことも多々ある。そしていつも熱情を追いやって、ただこうして鴛鴦のように寄り添うだけで終わってしまう。そんな時には大抵政宗が先に痺れを切らすものだ。

「今は夜でもないぜ?」

 ふふ、と政宗が目元を綻ばせて笑った。そんな目元に向けて口付けを落とすと、びく、と身体を揺さ振る。何も言わずに、額、頬、こめかみ、瞼、鼻先――と静かに唇を落としていくと、擽ったそうに政宗が身を捩り始めた。

「政宗様…動かずに居てくださいますか」
「Ah?なんだよ、なんかのプレイか?」
「ぷれい?」
「あー… 趣向?」
「違います」

 解りやすく言葉を説明する政宗にきっぱりと告げていく。理由を告げずに、ゆっくりと先を続けて、顎から首筋に唇を滑らせた。

「くすぐったい…」

 ふわりと肌に鳥肌を立てながら、政宗はじっと小十郎のしたいようにさせている。

 ――かり

 咽喉仏に噛み付いてみると、こく、とそれが上下に揺れた。そして小十郎の服の裾を握りこんでくる。そのまま、着物の袷をぐっと引き下げてから、彼の胸元に顔を埋める。
 身体の中心に向って唇を滑り落としていると、心臓の真上で、とっとっと、と鼓動が跳ねていた。
 小十郎はわざと其処に強く吸い付き、舌先をぺたりと肌に押し付けると、そのまま臍まで舌先を下降させていった。
 だがその段になって政宗が身震いを繰り返しながら、ぐいぐいと小十郎を押してきた。

「あ…――、ちょ…小十郎ッ」
「なんでございますか?」
「お前…こんなくすぐったいことしたいのかよ?」

 政宗は崩された衣服をそのままにして、ふるふると身体を震わせている。肌の表面が敏感なせいか、少しの刺激に反応してしまうらしい。

「今日は政宗様に触れたいのですが」
「触れるって、まったくもって言葉通りなのか?」
「――ご不満で?」

 小首を傾げながら、彼の袴の結び目を解くと「あ」と小さな声が起きた。そして解かれて――脱がされていく自身を、政宗が見下ろしていく。

「貴方様の、隅々まで触れて、味わいたいのですが」
「や…そんな、まどろっこしい…」
「政宗様」

 ふ、と耳元に低く囁く。普段には思いつかないような、柔らかな響きを其処に載せると、政宗はへなへなと腰を下ろした。だが空かさず彼の腰に手を宛がって立たせると、腹に顔を寄せる。腕を回して抱き締める――すると政宗は困り顔で、そっと小十郎の頭に手を触れさせてきた。

「私にとっては、貴方様は神のようなもの」
「――…」
「全てを捧げたお方だ。だから…大事に、触れたいのです」

 言い訳のように説明すると、ぼそ、と政宗が小さな呟きを漏らした。聞き取れずに顔を起すと、眉を寄せて困ったように表情を歪める彼が其処にいた。

「政宗さま、如何なさいました?」
「ばーか」

 彼の可愛らしい口から漏れる悪口に、一瞬瞳を見開くと、政宗は身体をかがめて小十郎の額に唇を落としてきた。

「お前はもう俺のものだ。だから、好きに触れば良いんだ」
「――…」
「どうでも良いけど、早く…早く抱き合おうぜ」
「…全く」

 嘆息しつつも小十郎は掬い取るように政宗を自分の膝の上に乗せた。そのまま彼の肩に噛み付き、腕を伸ばして手を下降させていく。硬く引き絞られている臀部を割り開くようにして、ぐっと寄せ上げると政宗の口から小さな吐息が漏れた。







 熱く蕩けるような瞬間に、ただ獣のように貪るだけでなく、祈るような気持ちになってしまう。

 ――もっとこのまま。

 そう感じるのは目の前の隻眼の男にだけ。
 小十郎は組み敷いた彼を前にして、自嘲すると「どうか」と小さく呟いた。
 熱い指が伸びてきて、小十郎の頬に触れ、再び「ばか」と告げられながら、後は融ける様に絡まるだけだった。











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