Happy Halloween?





「TRICK or TREAT!」

 政宗の部屋に趣いたところ、床のほうから声が聞こえた。
 小十郎が見下ろすと、其処には仰向けに横たわったままの政宗がいる。手には茶を乗せた盆を持ち、小十郎は何も答えずに中に入り込む。
 小十郎は何も云わずに側に腰掛けると、流麗な動きで盆を置いた。それでも政宗は仰向けになって起き上がる気配がない。

「小十郎、TRICK or TREAT!」
「――……政宗様」

 確か去年もこんな事があったな、と思いながらも起き上がる気配のない政宗に手を伸ばす。観れば政宗は先程まで着ていた筈の群青色の羽織を何処かにやってしまって、明るい牡丹の模様の――しかも女物の打掛けを羽織っていた。

「政宗様、一体何の趣向なのでございましょう?」
「ノリが悪ぃなぁ、小十郎」

 かかか、と軽い笑い声を立てながらも、政宗は腹ばいになり、ずるずると匍匐前進して小十郎の膝元に頭を乗せる。

「なあ、これ、俺に似あわねぇ?」
「如何様なものでも、政宗様にはお似合いになります故、答えることは憚られますが」
「――つまんねぇの」

 ふん、と鼻を鳴らしながら政宗は小十郎の膝に頭を乗せる。政宗はそのまま、今日ってさ、と話し出した。

「異国じゃあ、今日がいわば盆なんだよ。地獄の釜の蓋が開く日。一緒に悪霊なんてのも出てくるから、仮装して追い出すんだとよ」
「で、それと先程の言葉とはどう繋がるんでございます?」
「お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ」
「――は?」
「TRICK or TREATの意味だ。ガキが仮装して家々を回るんだよ」

 なるほど、と小十郎が頷くと、政宗は打掛を引き寄せた。その姿に、仮装のつもりなのだろうと予想をつける。
 小十郎は暫く思案すると、懐に手を差し込み、かさり、とひと包みの飴を取り出した。小十郎の仕種に気付いて政宗が顔を上げて見つめる。視線に気付きながら、小十郎は包みを政宗の前にちらつかせた。

「政宗様、甘味でございますよ」

 小十郎が話に乗ってきたのかと、嬉しそうに見つめてくる。包みを開いて政宗の前に差し出すと、彼は口を開いた――だが、小十郎はそれをくるりと動かして自分の口に向けた。

 ――ぱくん。

「ああ?小十郎…?」

 ころころ、と口の中で飴を転がす。小十郎は自分の口元を指差して、にこりと微笑んだ。

「さて、どうなさいますか?」

 にや、と口元に笑みを浮かべると、眉根を寄せた政宗が不服気に身体を起した。じっと小十郎が口の中で飴を転がしていると、すい、と背を伸ばして政宗が唇に吸い付いてくる。

 ――ころ。

 開かせた口の中に、政宗の舌先が滑り込んでくる。小十郎の口の中の飴を取り出そうと動く舌から、只管逃げ続けていくと、どん、と政宗が拳を小十郎の肩に打ちつけた。

「意地悪すんなよ」
「悪戯、されるよりマシかと」

 ふふ、と笑い返すと政宗は小十郎の膝に乗り上げて顎先を掴んだ。小十郎が逃げないように唇を重ねて飴を取り出す。

「――――…」
「取られましたな」

 口元を押さえて政宗が俯く。下から覗き込むと、政宗は口元を覆ったままで、ほんのりと肌を染めていた。

「小十郎…甘ぇよ…――」
「でしょうな。で、どうします?」

 ――GIVE UP!

 悔しそうに呟いた政宗の唇を再び塞ぐと、甘い味が広がった。小十郎は笑いながらも政宗の細い腰を引き寄せていった。











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