紡ぐ白糸



白糸を紡ぐ、この身に絡まる衣を紡ぎだす。そして一緒に戦場を馳せよう。



 夏の盛りに政宗が手招きして部屋の中へと誘ってきた。彼の誘いに応じながら部屋の中に入ると、目の前に政宗が着物を広げて見せた。

「小十郎、観てみろ」
「これは…珍しいですな」
「どうだ?今日出来てきたんだ」

 ――白地に金の刺繍。

 くるりと政宗が羽織ってみせる。だがそれが陣羽織であると気付くと、小十郎の顔色が少し曇った。顎先に手を当てて考え込む。

「戦場にこれで赴くのは…」
「何だよ、気にいらねぇか?」

 政宗は目の前で、くるり、と一回りして見せた。だが何とはなしに小十郎は口をへの字に曲げる。そして云いにくそうに――だがはっきりと告げた。

「死に装束のようで」
「情緒ねぇな…」

 がく、と肩を下ろしながら政宗が溜息をつく。そして一度手に下ろした装束を、再びさらりと自分の肩にかけてみせる。そして小十郎の前に進み出て見上げてきた。

「これ、婚礼衣装ぽくねぇ?」
「は?」

 ごそごそ、と気付けば政宗は目の前で着物を脱ぎ始め、白い装束に着替えなおす。その様子をじっと小十郎は見つめ、時折手伝っていく。着替える間、ずっと政宗は話していた。

「白無垢みたいでよ。なーんか、あれだ…俺は戦場が恋しくなるからな。異国の戦いの神は女神が多いんだぜ?嫁を貰いにいくようなものだ」

 きゅ、と腰帯を引き締め、小十郎が膝立ちで着付けを手伝う。

「――戦神に魅入られておいでか」
「そ。だから婚礼用だ」

 に、と白い歯を見せて政宗が笑った。云ってもたぶん彼はこの装束で戦に出て行ってしまうだろう。それが眼に見えているので止める気は失せてしまった。小十郎は負けたとばかりに、溜息を付いた。
 なんにせよ、どんな服でも大体似合ってしまう政宗に見惚れてしまっていたのもある。

「お好きになさいませ」

 政宗の前に正座すると、思い出したように彼は小十郎に告げた。

「あ、お前の分も作ってあるから」
「はい?」

 その一言で、さあ、と小十郎の顔色が青くなった。だが政宗は「一緒に着て行こうぜ」と乗り気で仕方なかった。










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