気紛れ ロマンティック





 政宗がごそごそと肩を動かしたり、首筋をしきりに掻いたりしている。

「如何された、政宗様」
「ん〜…いやぁ、なんか、こう…」

 小首を傾げながら、何やら収まりがつかない様子で、もぞもぞとしている。

「先ほどから首筋を掻いておられるが、何か出来ておるのやも。どれ、この小十郎めがみて差し上げよう」

 取り掛かっていた畑仕事を切り上げ、手元を手ぬぐいで拭う。そして政宗の傍に寄るが、政宗は袖から手を差し出し「stop」と遮った。

「大丈夫だ、たぶん…」
「そう…ですか?」
「そう」

 ぷい、と横を向いて、再び着物の袖に両腕を入れてしまう。
 薄浅黄の着物をさらりと着こなし、共も連れずに歩いているのもどうかと思うが、目的地がこの小十郎の居る場所となれば文句もいえない。
 だが、未だに政宗はごそごそと肩を動かしたりしている。

「やはり何か出来ているんではないですか、政宗様」
「う〜ん、そういう感じじゃねぇんだ。ただ…」
「ただ?」

 小十郎が鸚鵡返しに訊くと、政宗は辺りをちらりと見回して、小さく言った。

「いずいんだ」
「いずい?」

「そう。なんかこう…何がって訳じゃあ、ねぇんだけど、いずいんだよ」

 ――いずい。

 繰り返す言葉は、この東北の地でしか解らないような方言だ。だが小十郎はあっさりと「そうですか」と云うと、徐に政宗の傍に行き、正面から肩口を覗き込んだりした。
 そして両腕をばっと広げると、政宗を自身の懐に収めてしまう。

「う〜む」
「小十郎ッ!」

 ぽんぽん、と政宗の背を叩きながら、胸の内に修めた政宗の焦った声を訊く。

「何処もなんともありませんね」
「いきなり何しやがる?」
「まだ、いずいですか?」
「あ?」
 ――あれ?

 きょと、と政宗が眉根を寄せる。そして今度はカッと真っ赤になった。

「政宗様?」
「は、放せよ、小十郎」
「いいえ。いずさの原因、思い当たりました?」
「いいから、はなせッ」

 小十郎がにやにやして笑う中、政宗は「shit!」と毒づきながら、小さな――か細い声で、小十郎に聴こえるくらいの小声で言った。
 それを訊くと小十郎は、そうですか、と明るい声で頷いていった。

 ――お前が傍にいないのが、心地悪かったんだよ。









Date:2009.05.14.Thu.21:38 / 090528 up