熱波





 掻き毟られるような衝動を抑えきれずに、呼びかける声の主を強く引き寄せて貪った。
 了承の言葉さえ聴くこともせずに、唇を重ね、身体を絡め、漏れる息だけに存在を確認する。
 滴る汗を払いのけようと、彼の手が額に伸びてくる。
 それを振り解きながら、しがみ付きながらも、撫で付けられている彼の髪をばさばさに乱してやった。

「そう…している方が、似合う…――」
「お戯れを、政宗様」
「ハッ、戯れが何だ!今の此れは遊びと言わないか」
「――…お好きなように」

 内臓を抉り出すようにして穿たれる。熱くて、熱くて、苦しくて、この行為に何も感じることも出来ない――否、身体は求める。
 だが、感情が忽せられない。

「なあ…小十郎」

 は、は、と細かい息を吐きながら、彼にしがみ付くと背中を引き寄せるように抱き寄せられた。
 その時に、下肢にぬるぬるとした感触がして、怖気が走ったがあえて気にしない振りをした。

「もし、この目が見えなくなったら、お前ぇ、どうする?」
「――…私の目を差し上げます」
「フン…こっちにはくれなかったよなぁ?」
「ご不満なら、今此処で抉り出して差し上げますが」

 腰を浮かされて、彼を見下ろす形になると、双眸がしっかりと射抜いてくる。だが返せる光は一つのみだ。
 手でゆっくりと彼の乱れた――いや、乱した髪を撫で上げ、額を寄せていった。

「目なんていらねぇ……」
「そうですか」
「だから、俺の傍から離れるな」

 滑り落ちるように彼の鼻筋に顔を寄せると、直ぐに唇を塞がれた。そしてまた熱の波に満たされていく。
 この熱を教え込んだこいつがいなくなったら、それは世界の終わりに等しいかもしれない。
 だから、試したくて、この胸を掻き毟られるような衝動に駆られる。まわした手を、指先を立て、彼の肌に突きたてると、その耳元に唇を寄せて、彼の名前を只管呼び続けていった。







2007/04/06(Fri)