木漏れ日 ――届かない。 手を伸ばして、木漏れ日に掲げた。掌を広げると、指の隙間から光が差し込む。 一つの目では、その光でも相当に眩しくて、瞳を眇めてしまった。すると光を遮るように、さっと影が降りてくる。それに気付くと、頬に傷を持つ男が覗き込んできていた。 「政宗様」 「――小十郎か」 声をかけられて、身体を起こす。そうすると空かさず背中に手を添えられて、背についた草を払われた。 「如何致しました?このような所で」 「なぁに…気にする程のことじゃねぇ」 「左様ですか」 「ああ…――」 律儀にも草の上に膝を寄せて、小十郎は傍に控えた。そして何もいわない――いつもの事だが、それでも傍に誰かがいるのと居ないのとでは、相当違うものがあった。 まだ冷たい風が、吹きつけてくるが、それも気付けば彼の身体に阻まれて、先程よりも柔らかく感じる。 ちら、と横を見ると、瞳を伏せたままの小十郎が黙って其処に控えているだけだ。 「――…」 二人の間には風の音しかしない。それでも、さっきよりも空に仰いだ木漏れ日が近づいたような気がした。 ――ああ、こいつがいるなら。 手を伸ばした先にある光に触れられるかもしれない。 背中にある気配に、ほっと胸を撫で下ろし、再び手を伸ばすと、大きく息を吸い込んでいった。 2007/03/20(Tue) |